俺の命を守るためなら、お前らを盾にする 作:最高司祭アドミニストレータ
女子トークとクズな欲望
太陽が西の空へ沈み、森の木々が深い藍色の影を落とす頃。王都を出発して最初の夜を迎えた勇者一行は、街道から少し外れた開けた場所で野営の準備を進めていた。
赤々と燃え盛る焚火の光が、周囲の木々を照らし出している。その火の周りでは、王女騎士アリシアが手際よく薪を割り、魔法使いのメグが指先から小さな炎を出して火加減を調整し、僧侶のセシリアが鍋で温かなスープを煮込んでいた。三人の美少女たちが、それぞれに役割を分担しかいがいしく働いている。
その一方で、この部隊の絶対的中心であるはずの勇者タチバナは、焚火から少し離れた手頃な切り株の上に腰掛け、その光景をただ優雅に眺めていた。
彼が一切の手伝いをしないのには、明確な理由がある。部隊を率いる指導者というものは、いついかなる不測の事態が起きても即座に対応できるよう、己の体力を常に万全の状態に保っておく義務がある。薪割りや調理といった肉体労働で疲労を蓄積させるなど、戦略的観点から見れば愚の骨頂である。
…というのは建前であり、本音は「他人が働いているのを座って見ているのは最高の気分だ」という、どこまでも怠惰な理由に過ぎなかった。
(素晴らしい。村にいた頃のヒモ生活も悪くなかったが、この最高級の美少女たちが俺のために夕食を作ってくれているというシチュエーションは、格別の趣があるな)
タチバナが内心で満足げなため息をついていると、彼の隣の空間に、透明化した精霊フィリアが音もなく姿を現した。
『本当に、感心するほど何も働きませんね。貴方のその底なしの怠惰さは、ある意味で一種の才能と言えるかもしれません』
直接響く氷のような声に、タチバナは顔色を変えずに内心で反論する。
(指導者には指導者の役割があるんだよ。俺は今、周囲に危険がないか目を光らせている真っ最中だ)
『危険がないか、ですか?』
フィリアの紫水晶の瞳が、侮蔑の色を帯びて細められた。
『昼間の戦闘の記憶を、都合よく頭から消去してしまったようですね。ゴブリンの群れに遭遇した際、極限の恐怖で両膝から崩れ落ち、地面に尻餅をついたまま「ひぃぃっ」「助けてえええ」と鼻水を垂らして泣き叫んでいたのは、どこの誰でしたか?』
タチバナは、痛いところを突かれて思わず咳払いをした。
『あの無様に喚き散らしていただけの貴方の姿を見て、「敵を一点に引き寄せる高度な囮戦術だ」「他者の命を奪う痛みに泣く慈悲深き聖人だ」と解釈したあの三人の娘たち。彼女たちの眼力は、もはや節穴という言葉すら生ぬるいですね。知性が高く、論理的な推論に長けている人間ほど、一度信じ込んだ「前提」の罠に深く嵌るという、極めて興味深い実例です』
フィリアの容赦のないツッコミに、タチバナは内心で不敵に笑う。
(なんとでも言え。結果として、俺のあの計算された沈黙と演技が、彼女たちの豊かな想像力を刺激し、俺という偉大なる英雄像を完璧に作り上げたんだ。これこそが、戦わずして勝つ究極の兵法というやつさ)
『詭弁ですね。恐怖で声も出なかっただけでしょうに』
フィリアは呆れ果てたように深くため息をつき、再び虚空へと姿を消した。
やがて夕食が終わり、野営地を夜の静寂が包み込み始めた。ヒロインたちは就寝の準備を整えるため、張られたテントの中で着替えを済ませ、再び焚火の前に戻ってきた。
その姿を目にした瞬間、タチバナの視界は一気に華やいだ。彼女たちが纏っているのは、日中の重厚な金属の鎧や、窮屈な魔術儀礼用のローブではない。柔らかな布地で作られた、寝着やくつろぎ着であった。
アリシアの身に着けた薄手の白いチュニックからは、鍛え上げられつつも女性らしい柔らかな起伏が、火の光に透けてはっきりと浮かび上がっている。メグは動きやすさを重視した丈の短いズボン姿で、日中にも増して惜しげもなくその健康的な白い脚を晒している。
そして何より、セシリアのゆったりとした夜着は、彼女の豊満すぎる胸の重みによって生地が下に引っ張られ、布越しであってもその圧倒的な質量と存在感を猛烈に主張していた。
(…素晴らしい。防御力を限界まで削ぎ落とした、実に無防備な姿だ。過酷な旅路において休息は重要であり、その緊張の緩和を視覚的に確認し、評価することもまた、部隊の指揮官に課せられた重要な責務であると言えよう)
タチバナは、自らの下劣な視線を極めて大真面目な理屈で正当化し、ねっとりと彼女たちの肢体を嘗め回した。
やがて、三人が焚火を囲んで座り、何やら乙女たちだけの内緒話を始めそうな気配を察知したタチバナは、おもむろに立ち上がり、わざとらしく一つ咳払いをした。
「少し、周囲の警戒をしてくる。君たちは火の傍で、ゆっくり休んでいてくれ」
「勇者様、私もお供いたします」
アリシアが反射的に立ち上がろうとするが、タチバナはそれを爽やかな笑みと手で制止する。
「いや、今日の激戦で君たちも疲労が溜まっているだろう。ここは俺に任せておけ」
そう言い残し、彼は焚火の光が届かない森の暗がりへと歩を進めた。彼が向かったのは、無作為な場所ではない。夜風が、ちょうど彼女たちが座っている場所からこちらへ向かって吹き抜ける「風下」の茂みであった。
音とは空気の震えであり、その振動は風の流れに乗って運ばれる。風下の適切な距離に陣取れば、彼女たちがいくら声を潜めようとも、その会話を鮮明に拾い上げることができる。これは決して悪趣味な盗み聞きなどではない。野営地において仲間の士気や心理状態を把握するための、極めて合理的な情報収集技術である。
『…周囲の警戒、ですか』
茂みに身を潜めたタチバナの耳元で、再びフィリアの冷ややかな思念が響いた。
『正確には、「少女たちの内緒話を盗み聞きするための、音響学的に最も適した配置への移動」ですね。生存の危機が過ぎ去ったと判断した途端、即座に己の繁殖欲求を満たすための思考に切り替わる。実に、本能に忠実な動物らしい見事な動きです』
(黙ってろ。指揮官たる者、仲間の心の機微を知ることは必須条件なんだよ)
タチバナはフィリアの皮肉を完全に無視し、茂みの隙間から焚火の前の三人へと神経を集中させた。茂みの中に潜んだ彼の耳に、ヒロインたちの弾むような会話が風に乗って届いてきた。
「それにしても、今日の勇者様は本当にカッコよかった!」
メグの興奮冷めやらぬ声だ。
「ええ。あのように深く先の展開を読み、自らの身を危険に晒してまで我々を導いてくださるとは。己の戦術眼の未熟さを恥じるばかりだ」
アリシアの、真面目で尊敬に満ちた声が続く。
「あの悲痛な叫び声…あの方の心の傷は、私たちが少しずつでも癒やして差し上げなければなりませんね」
セシリアの、慈愛に満ち溢れた吐息のような声。
茂みの陰で、タチバナは口元を両手で覆い、必死にこみ上げてくる笑いを噛み殺していた。
(良いぞ、もっと褒めろ! お前たちのその豊かな想像力が、何もしない俺をさらに偉大なる英雄へと仕立て上げていくのだ!)
やがて、話題は年頃の娘たちらしく、戦いから離れたより私的なものへと移っていった。
「勇者様って…その、好きな女性のタイプとか、あるのかな?」
メグの少し照れたような声に、アリシアも小さな咳払いをして同意する。
「う、うむ。共に背中を預け合う者として、指揮官の嗜好を把握しておくことは、決して無駄ではないはずだ」
「やはり…優しくて、おしとやかな方がお好きなのでしょうか?」
セシリアの問いかけに、三人が顔を見合わせてモジモジと頬を染めている。
(ぐへへへ、悩む必要などないぞ! 気高き騎士も、元気な魔法使いも、慈愛の僧侶も、全員まとめてこの俺が愛してやる! 遠慮せず、この広い胸にいつでも飛び込んでくるが良い!)
『貴方のその下劣の極みのような思考を、そのまま彼女たちの脳内に流し込んで差し上げたいものですね。自らが構築した高潔な英雄像が泥水に沈む様を見て、さぞかし絶望に歪むことでしょう』
フィリアの絶対零度のツッコミすら、今の有頂天なタチバナにとっては、己の優越感を高めるための最高のスパイスに過ぎなかった。
女子たちの会話が落ち着き、そろそろ各自の天幕へ戻ろうという空気になった頃合いを見計らい、タチバナは静かに行動を開始した。セシリアが、焚火の火の粉が周囲に燃え移らないよう、小枝や石を片付けるために一人で少しだけ離れた場所へ歩み寄ってきた。
タチバナの鋭い観察眼が、彼女の足元から数歩手前の地面に、丸く硬いクルミの実が一つ落ちているのを正確に捉えた。
(…来た。これは天の配剤だ)
タチバナの頭脳が、瞬時に高度な力学的計算を開始する。自らの歩幅、地面を踏み出した際に生じる土と靴底の摩擦係数、そしてクルミの実を特定の角度で踏み抜いた瞬間に生じる、身体の回転と体勢の崩れのベクトル。さらに、倒れ込む先にあるセシリアの立ち位置と、彼女の胸の高さ。
それら全ての要素が一直線に繋がり、彼の中で一つの「完璧な軌道」が導き出された。
彼は茂みから姿を現し、「異常はなかったよ」と爽やかな声をかけながら、セシリアの方へと歩み寄った。そして、あらかじめ計算し尽くしたその一点に、見事なまでに右足を踏み下ろした。
ズルッ!!
クルミの実が靴底で見事に滑り、タチバナの体は完全に宙に浮いた。
「わっ!?」
タチバナは驚愕の声を上げ、もがきながら前方へと倒れ込む。その両腕は、不自然さを一切感じさせない完璧な防御姿勢の軌道を描きながら、セシリアの胸元へと突き出された。
「ひゃっ!?」
セシリアの短く可愛らしい悲鳴と共に、タチバナの両手は、純白の夜着に包まれた彼女の二つの豊かな膨らみを、寸分の狂いもなく完全に鷲掴みにした。
(むっはー!! 掴んだ! 俺は掴んだぞ! この世の真理、伝説の果実を!)
掌からダイレクトに伝わってくる、想像を絶するほどの圧倒的な質量と、優しく押し返すような究極の弾力。それは、彼がこれまでの人生で味わったいかなる感触よりも甘美であり、タチバナの理性を一瞬にして蒸発させるほどの破壊力を持っていた。
ドサッ、という鈍い音と共に、二人は地面に倒れ込む。タチバナは、セシリアを押し倒す形になりながらも、その両手だけは決して獲物を離さなかった。
「あ、ああっ…」
セシリアは突然の出来事に顔を真っ赤に染め、瞳を潤ませて身を固くしている。少し離れた場所にいたアリシアとメグも、目の前で起きた光景に言葉を失い、完全に硬直していた。
タチバナは数秒間、その極上の感触を脳髄の奥深くまで刻み込むように堪能した後、ハッと我に返ったように慌てて身を起こした。
「す、すまないセシリア! 足元に木の実が落ちていて、滑ってしまったんだ! 怪我はないか!?」
タチバナは必死に狼狽を装い、これが全く意図しない不幸な事故であったことを全身全霊で強調する。
『実に計画的で悪質で、見事な犯行でした。踏み込む角度の調整、両腕の軌道制御、そして事故を完璧に装うためのその白々しい演技。全ての要素が芸術的なまでに組み合わさっています。心底軽蔑しますが、称賛に値しますよ、この痴漢』
タチバナは、精霊からの最大級の皮肉と罵倒のテレパシーを浴びながらも、両の掌に残る確かな感触と温もりを思い出し、内心で歓喜のガッツポーズを天高く突き上げるのであった。
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