俺の命を守るためなら、お前らを盾にする   作:最高司祭アドミニストレータ

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メグ視点


勇者様はスケベだった?

 馬車の車輪が、整備された石畳を小気味良い音を立てて転がる。窓の外には、活気に満ちた人々の行き交う姿と、様々な品物を並べた露店が連なる風景が広がっていた。立ち上る香辛料の香りや、焼けた肉の匂いが、魔物の潜む過酷な森での野営生活を終えた一行に、文明という名の安心感を与えてくれる。

 

 天才魔法使いメグ・フレイムハートは馬車から降り立つと、大きく伸びをして深呼吸をした。

 

 

(ふぅーっ! やっと街に着いた! 野営も冒険っぽくて嫌いじゃないけど、やっぱり温かいお風呂とふかふかのベッドは必要不可欠よね)

 

 

 メグは、琥珀色の瞳を輝かせて街の喧騒を見渡した。そして、彼女の視線は自然と、先頭を歩く勇者タチバナの背中へと向けられた。

 

 この数日間、常に魔物の脅威に晒される森の中で、彼がどれほど神経をすり減らして広域の魔力探知を行っていたか、メグの魔法使いとしての頭脳は正確に理解しているつもりであった。

 

 目に見えない脅威から部隊を守るため、常に極限の集中状態を維持する。それは、魔力回路に多大な負荷をかける極めて過酷な作業だ。彼が馬車の中で青ざめ、口数を減らしていたのは、その精神的疲労の代償に他ならない。

 

 

(勇者様、本当にお疲れ様。この街では、ゆっくりと羽を伸ばして休んでほしいな)

 

 

 メグは、タチバナの背中を見つめながら、己の内に温かい感情が広がるのを感じていた。ただ才能を評価するだけの関係ではない。共に死線を潜り抜け、互いの背中を預け合う「仲間」としての絆。そして、あの荷台での転倒の際に見せてくれた、計算し尽くされた体術と圧倒的な包容力。

 

 完璧な英雄でありながら、どこか謎めいた底知れなさを持つ彼に対し、メグの探求心と乙女としての情動は、日に日に抑えきれないほどに膨らみ続けていた。

 

 一行が街の中心部、最も人が密集する中央市場へと足を踏み入れた時である。王女騎士アリシアが、周囲を鋭い視線で警戒しながら、極めて真面目くさった声で提案した。

 

 

「まずは、今後の旅に必要な保存食や野営の物資を補給しましょう。質の良い砥石も探しておきたいところです」

 

 

 アリシアの言葉は、戦術的観点から見れば全く正しい。未知の領域へ進むにあたり、兵站の確保は最優先事項である。しかし、メグの快活な性格は、その面白みのない正論に真っ向から反発した。

 

 

(もー、アリシアはいつもそうなんだから。せっかく活気のある街に着いたのに、いきなり砥石探しなんて退屈すぎる!)

 

 

 メグの視界の端に、珍しい鉱石や未知の術式が刻まれた古びた道具を並べる、怪しげな魔導具の露店が映り込んだ。彼女の知的好奇心が激しく刺激される。

 

 

「おっ! あそこの露店、見たことない面白そうな魔導具を売ってる! ちょっと見てきてもいいかな!?」

 

 

 すると、僧侶のセシリアも控えめに手を挙げ、胸の前で指を組みながらおっとりと微笑んだ。

 

 

「あ、あの…私は、傷薬の調合に使う薬草の値段も見ておきたいですね」

 

 

 三者三様の目的。ならばここで一度解散し、各々が自由に行動するのが最も効率的だ。しかし事態は思わぬ方向へ、乙女たちによる主導権争いへと発展した。

 

 

「タチバナ様。この市場は人が多く、不測の事態が起きないとも限りません。指揮官の護衛は前衛たる私の役目です。はぐれぬよう、共に参りましょう」

 

 

 アリシアが自らの正当性を理路整然と主張し、タチバナの右腕にそっと手を伸ばした。

 

 

(出た! アリシアの『護衛』を名目にした独占行動! カタブツのふりをして、ちゃっかり勇者様の隣をキープしようとしてるんだから!)

 

 

 メグは、その見え透いた口実に負けじと、持ち前の機動力でアリシアの反対側へと素早く回り込んだ。

 

 

「えー! アリシアは真面目すぎてつまんなーい!」

 

 

 メグは声を張り上げ、タチバナの左腕に両手でぐっと絡みついた。自身の健康的な素肌と、ローブ越しに伝わる女性特有の柔らかさが彼に触れることを、彼女は十分に計算に入れている。

 

 

「勇者様、あたしと一緒にもっと面白いもの見に行こうよ! 絶対に退屈させないからさ!」

 

 

 メグはタチバナの顔を下から覗き込み、極上の笑顔を向けた。彼女の天才的な頭脳は、男という生き物が理屈よりも直感的な「楽しさ」や「身体的な接触」に弱いことを熟知している。アリシアの硬い金属の鎧よりも、自分の温もりこそがタチバナの心を動かすはずだという自信があった。

 

 アリシアのサファイアの瞳が、メグを咎めるように鋭く細められる。二人の間に火花が散りそうになった、その時だった。

 

 

「あ、あの…」

 

 

 セシリアが、二人のように強引に腕を取ることはせず、ただ一歩だけタチバナの正面へと歩み出た。彼女は、その潤んだエメラルドグリーンの瞳で、まるで迷子の子供のように上目遣いでタチバナを見つめ上げた。

 

 

「タチバナ様さえよろしければ、私と一緒に薬草の調合を見ていただけると…とても、嬉しいのですが…」

(…っ! セシリア、なんてあざといの!)

 

 

 メグは内心で舌を巻いた。腕力や理屈で迫るのではなく、庇護欲を猛烈に掻き立てるその純真無垢な態度。加えて、彼女の規格外の豊かな胸部が、呼吸のたびに控えめに上下している。男の理性を揺さぶるという点において、セシリアのその立ち振る舞いは、ある意味で最も計算され尽くした魔法よりも強力であった。

 

 三方向から迫る乙女たちの牽制合い。誰が勇者タチバナの隣を歩く権利を得るのか。市場の喧騒の中で、三人の視線が彼というただ一点に集中していた。

 

 タチバナは、少し困ったような、それでいてどこか深遠な思索に沈むような複雑な表情を浮かべていた。やがて彼は、重々しい咳払いを一つすると、部隊の指導者としての威厳に満ちた声で静かに告げた。

 

 

「まあ、落ち着け。手分けして効率よく買い物を済ませるのが一番だ。俺は一人で、この街の民の暮らしぶりでも見て回っている。何かあれば呼べ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、メグの頭脳はタチバナの判断の「真意」を瞬時に解析し、感銘の波に包まれた。

 

 

(すごい…! 誰か一人を選べば角が立つし、部隊の和が乱れる。それを防ぐための完璧な仲裁! それだけじゃない。強大な力を持つ勇者様が私たちを引き連れてぞろぞろと歩けば、街の裏側に潜む真の姿…貧困や犯罪の気配が隠れてしまう。だからこそ、あえて一人になり、気配を絶って街の生活水準や防衛体制を単独で潜入調査しようというんだ!)

 

 

「…ご自身の休息よりも、民の暮らしを優先されるとは」

 

 

 アリシアが感銘を受けたように目を伏せる。

 

 

「さすがはタチバナ様…! あたしたちのことまで気遣ってくれてるんだね!」

 

 

 メグもまた、彼の高度な政治的判断と優しさに深く頷いた。

 

 

「どうか、お気をつけて…」

 

 

 セシリアが名残惜しそうに祈りのポーズをとる。三人は、タチバナの指揮官としての完璧な采配に心底感服し、己の個人的な独占欲を恥じながら、それぞれの目的地へと散っていった。

 

 メグは、市場の片隅にある魔導具の露店で、古びた水晶の破片や、古代文字が刻まれた羊皮紙の束を吟味していた。店主の老人が語る胡散臭い効果の解説を、メグは魔術理論の観点から次々と論破し、適正な価格の三分の一まで値切ることに成功していた。

 

 だが、彼女の思考の半分は、目の前の魔導具ではなく、単独行動をとっているタチバナのことに向けられていた。

 

 

(勇者様、今頃どのあたりを調査しているんだろう。この街の衛兵の巡回経路や、物資の流通状況を調べているのかな)

 

 

 メグは、羊皮紙を丸めながら考える。彼の行動原理は、常に一歩も二歩も先を見据えている。彼のような知力と武力を併せ持つ英雄が、ただの気晴らしで街を歩くはずがない。

 

 おそらく、路地裏の暗がりや、貧しい者が集まる区画へと足を運び、魔王軍の影が街の末端にまで忍び寄っていないか、その冷徹な眼光で監視しているに違いない。

 

 

(計算高くて、底知れなくて、でも根っこには誰よりも熱い正義感がある。…本当に、知れば知るほど興味が尽きない人)

 

 

 メグは、自分の胸の奥で早鐘を打つ心臓の音を自覚していた。買い物を手早く済ませた彼女は、タチバナが発するはずの微細な魔力のトレースを頼りに、彼と合流すべく市場の奥へと歩を進めた。

 

 市場の喧騒から少し離れた、人通りの少ない裏路地。メグがタチバナの気配を追ってその角を曲がった時、彼女の視界に信じられない光景が飛び込んできた。

 

 路地の奥にある、女性用の下着などを扱う専門店の前。そこに、タチバナが立ち尽くしていた。問題なのは場所ではない。彼の状態だ。タチバナは、片手で顔を強く覆い隠すようにしているが、その指の隙間から、一条の赤い血がポタポタと地面に滴り落ちていたのだ。鼻血だった。

 

 

「勇者様!?」

 

 

 メグの顔から血の気が引いた。彼女の天才的な頭脳が、最悪の事態を瞬時に演算する。

 

 

(敵の奇襲!? 姿の見えない暗殺者による毒物の散布!? いや、魔力暴走の兆候!?)

 

 

 人間が外傷もなく突然出血を起こす要因は限られている。メグは手の中に防御結界の術式を編み上げながら、弾かれたように彼の元へと駆け寄った。

 

 

「勇者様!? どうしたの、鼻血なんて! どこか悪いわけ!? 大丈夫!?」

 

 

 メグの悲痛な叫びに、タチバナはビクッと肩を震わせて振り返った。彼の顔は蒼白で、鼻を押さえたまま、まるで信じられないほどの激痛に耐えているかのように歪んでいる。彼の手には何も握られていない(ように見えた)。

 

 絶体絶命の窮地に陥ったかのような緊迫した空気が流れる中、タチバナはメグの姿を認めると、フッと遠くの空を見るような、限りなく深い憂いを帯びた目を向けた。

 

 

「…ああ、メグか。いや、何でもないんだ。怪我でも、病気でもない。ただ…」

 

 

 彼は、ゆっくりと、震える指先をある一点へと向けた。メグがその指の先を追うと、そこには、店の軒先の端に掛けられていた、布地の粗末な「子供用の木綿の下着」があった。

 

 

「この街は活気にあふれているが…その陰で、親を失い、満足な服も与えられずに寒さに震えて育つ子供たちがいるのだと思うとな。…その健気で痛ましい姿を想像しただけで、俺の胸が、激しく張り裂けそうになってしまってな」

 

 

 タチバナは、苦しげに一つ大きな深呼吸をし、痛切な響きを声に込めた。

 

 

「この鼻から流れる血は…彼らを救いきれない俺自身の不甲斐なさと、虐げられる民を想う心が、悲しみのあまり流させている血の涙のようなものなんだ…」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、メグの脳内で、魔法学における一つの極めて稀有な現象の理論が、パズルのピースが嵌まるように完全に合致した。

 

 

(極限のエンパシー現象…!?)

 

 

 メグは両手で口元を覆った。人間の魔力回路と精神は、密接に結びついている。強大な魔力と感受性を持つ者が、他者の痛みや悲哀を己の魂に直接取り込んだ時、その精神的な過負荷が魔力血流を急激に上昇させ、物理的に脆弱な毛細血管を破断させることがある。

 

 通常、それは肉親の死や、世界が崩壊するほどの究極のストレス下においてのみ発生する、伝説に近い現象だ。

 

 それをタチバナは、会ったこともない路地裏の孤児たちの惨状を想像しただけで引き起こしてしまったのだ。己の命すら顧みず、他者の痛みを文字通り自らの血として流す。彼が持つ「民への慈悲」は、もはや人間の理解を超えた、神にも等しい領域に達している。

 

 

(だからこそこの人は、世界を救う勇者に選ばれたんだ)

 

 

 みるみるうちにメグの琥珀色の大きな瞳に、とめどない涙が溢れ出していった。

 

 

「勇者様…会ったこともない子供たちのことまで想って…」

 

 

 メグは両手で口元を覆い、感極まったようにタチバナを見上げた。彼の鼻から流れる一筋の血が、メグには、この世のどんな宝石よりも尊く、気高い「聖痕」のように見えた。

 

 計算高く、底知れない冷徹な指揮官。その仮面の下に隠されていたのは、己の不甲斐なさに血の涙を流すほどに他者の痛みに寄り添い、共に傷つくことができる、どこまでも純粋で脆い魂だったのだ。

 

 

「…勇者様」

 

 

 メグはそっとハンカチを取り出し、タチバナの鼻から流れる血を優しく拭き取ろうと手を伸ばした。

 

 

「ああ、すまない。心配をかけてしまったな」

 

 タチバナは、悲しげな微笑みを浮かべたまま、メグの気遣いを素直に受け入れる。その様子が、メグの心をさらに強く締め付けた。

 

 その後、それぞれ買い物を終えたアリシアとセシリアも無事に合流し、一行は今夜の宿として手配した街で一番の宿屋へと向かう石畳の道を歩いていた。夕暮れが近づき、街のあちこちで魔石の街灯が灯り始めている。

 

 メグの足取りは、先ほどまでの市場での買い物で見つけた珍しい魔導具を手に入れたこと以上に、浮ついたものになっていた。浮ついているというよりは、混乱していると言った方が正しいかもしれない。

 

 彼女の天才的な頭脳は、先ほどの路地裏での出来事を反芻し、凄まじい勢いで情報の整理と再構築を行っていた。

 

 

(すごかった…勇者様、すごすぎるよ)

 

 

 思い出すのは、あの店の前で見た彼の姿。鼻から血を流しながら、子供用の粗末な下着を指さし、悲しそうに微笑んだあの顔。

 

 

『この血は俺の不甲斐なさと、民を想う心が流させているんだ…』

 

 

 その言葉は、間違いなくメグの心を強く打った。極限のエンパシー現象を引き起こすほどの、深すぎる慈悲。

 

 

(あたし、ただ買い物が楽しいとか、珍しいものがないかなー、とか、自分の好奇心を満たすことしか考えてなかった…。でも、勇者様は違ったんだ。街の華やかな部分だけじゃなくて、その裏にある貧しくて、辛い思いをしてる子供たちのことまで、ちゃんと見てたんだ…)

 

 

 その優しさ、その視野の広さ。自分との人間としての器の違いを、まざまざと見せつけられた気がした。尊敬の念が、泉のように湧き上がってくる。

 

 

(あの人は、本物の、本当の『英雄』なんだ…)

 

 

 そこまでは、いい。だがメグの論理的思考回路は、そこで停止することを許さなかった。彼女は、歩きながらこっそりと自分の頬をつねった。痛い。夢ではない。彼女の記憶領域から、ある「視覚的矛盾」が浮かび上がってくる。

 

 

(…でもさ、でもだよ?)

 

 

 メグは、前を歩くタチバナの背中をじっと見つめる。

 

 

(あの店、どう見ても『女性用の下着屋さん』だったよね!? しかも、あたしが路地を曲がって勇者様を見つけた時、勇者様が手に持ってたのって、子供用の下着じゃなかった。なんかこう、すっごいヒラヒラした、透けそうな絹の生地の、どう見ても大人の女の人が着る、扇情的なランジェリーだった気がするんだけど!?)

 

 

 記憶は鮮明だ。タチバナが慌てて指さした子供用の下着と、その直前まで彼が恍惚とした表情で握りしめていた、純白のレースのランジェリー。その二つの映像が、同時に脳内で再生される。

 

 

(え、てことは、どういうこと? 子供たちのことを想って心を痛めてたのは、本当だと思う。だって、あの時の勇者様の目は、すごく真剣で、悲しそうだったもん。嘘をついている人間の魔力波長じゃなかった。…でも、それと同時に、普通に大人の女性の下着にも興味津々で、鼻血を出すほど興奮してたってこと!?)

 

 

 聖人のような優しさと、純度百パーセントのスケベな本性。その相反する二つの要素が、英雄タチバナという一人の人間の中で、全く矛盾なく同居している。その事実の解析が完了した瞬間、メグの頭の中で、何かがカチリと音を立てて弾けた。

 

 

(え、え、え、え!? なにそれ!? 聖人なのに、むっつりスケベ!? そんなのアリ!?)

 

 

 普通なら「高潔な英雄だと思っていたのに、幻滅した」と評価が暴落するところだろう。だが、天才であるがゆえに「完璧すぎるもの」に退屈を感じてしまうメグの感性は、全く別の化学反応を起こした。

 

 

(え、なんか、それって…逆に、すごくない!? 完璧すぎて近寄りがたい英雄だと思ってたけど、普通の男の子みたいに女の子の下着を見て興奮しちゃうところもあるってこと!? うわ、うわわわわ…!)

 

 

 手が届かない雲の上の存在だと思っていた絶対者の、人間臭く、生々しい、俗物的な一面。完璧なアイドルの裏の顔を知ってしまったような、背徳的な興奮が彼女の全身を駆け巡る。

 

 

(じゃあさ、もしかして…さっき市場で、あたしが勇者様の腕に絡みついた時、ドキドキしてたのって、あたしだけじゃなかったのかも…?)

 

 

 メグは、自分の胸元をそっと押さえた。

 

 

(あたしの胸が当たってるの、勇者様、涼しい顔をしてたけど、本当は心の中ではちゃんと意識して、すっごく分かってたってこと…!? きゃあああああ!)

 

 

 メグは、頭からシュンッと湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして、ぶんぶんと首を横に振った。

 

 

(だめだめだめ! 何を考えてるのあたし! 不敬だよ! でも、でもでも! もしそうだったら…!?)

 

 

 尊敬と、知的好奇心と、そして、一気に燃え上がった背徳的な恋心。それらがメグの中でごちゃ混ぜになり、制御不能な爆発を起こしそうになっていた。彼女は、前を歩くタチバナの大きな背中を、これまでとは全く違う熱っぽく、少しだけいたずらっぽい視線で見つめる。

 

 

(勇者様って、知れば知るほど、面白くて、奥が深い人かも…!)

 

 

 その背中に隠された英雄の底なしの慈悲と、ごく普通の男らしいスケベな本性。その絶妙なギャップが、メグの心を完全に掴んで離さない、強力な引力となって輝いて見えていた。

 

 天才魔法使いの知性は、タチバナの純度百パーセントのクズな本性を、「人間臭い魅力」という最強のスパイスとして、自らの恋心に添加してしまったのである。




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