「上手いッ!! 上手いッ!! タダで食うコンビニ飯ほど美味いものはないッ!!」
某“400億の男”を彷彿とさせる勢いで、メジロアルダンに奢ってもらったコンビニ弁当をがつがつとかき込むパチンカス。その隣で、メジロアルダンはただただ困惑した眼差しを向けていた。
※なお、このパチンカスは生涯収支マイナス400億の男である。
メジロ家のお嬢様として生きてきた彼女にとって、目の前の存在はまさしく未知の生物だった。
こんなにも美味しそうに、そしてここまで遠慮なく。言い換えれば、ここまで品なくコンビニ弁当を食べる人間を、彼女はこれまで見たことがあっただろうか。
いや、もしかすると、ホームレスの方がまだ上品なのではないか。
そんな失礼極まりない思考が一瞬よぎるほど、彼の食べ方は凄まじかった。
困惑と困惑が頭の中で“めにしゅき♡RUSH(継続率68%)”を始めていると、パチンカスはお茶を一気にあおり、わずかに声のトーンを落として、妙に格好をつけた口調で語り始めた。
「勝てると、思ったんだよ」
まるでこの世のすべてを悟ったかのように。あるいは、ホールのどこかから監視しているであろう店長へ、監視カメラ越しに許しを請うかのように。
悲痛な表情のまま、パチンカスは言葉を絞り出す。
「朝から寝坊するし、徹夜で仕上げた資料はどこぞのマッドサイエンティストの実験の余波で吹き飛ぶし、電車でお婆さんに席を譲ったら『あたしゃアンタに同情されるほど落ちぶれてないよッ!!』って逆ギレされるし、譲った席は気づいたらガングロギャルウマ娘に取られてるし……挙げ句、パチ屋の抽選は2000番台だしで……散々だったんだ……」
静かに、しかし確実に感情が臨界点を超える。
その瞳から、ぽつりと涙がこぼれ落ちた。
「でも、逆に言えば……悪運は全部使い切った。地の底の底まで落ちたってことなんだよ。そう、ならば後は頂点まで登り詰めるだけ!!!!」
そう言って、彼はゆらりと立ち上がる。夕暮れの空を仰ぎ見るその姿は、どこか芝居がかっていた。
カラスたちが、まるで嘲笑うかのように鳴いている。
「でも……違った……ッッッ!!」
次の瞬間、ドサリと膝から崩れ落ちる。
悔しさに歪んだ顔。涙があふれ、妙に鍛えられた右腕で地面を叩きつける。
「おれは!!!!弱いッッッッッッ!!!!」
両手で顔を覆い、膝立ちのまま天を仰ぐその姿は、まさに“敗北者”そのものだった。
「えっと……」
突然の激情に、メジロアルダンは言葉を失う。
というか、話の9割は何を言っているのか分からなかった。
運が悪いのなら、お祓いに行くなり、しばらく大人しくしているべきではないだろうか。
それが、彼女の常識的な結論だった。
だが、パチンカスに正論は通じない。
どんな状況であろうと理由をこじつけ、台に向かう。
それが、パチンカスという生き物だからだ。
「その……そんなに絶望しないでくださいっ! 悪いことの後には、きっと良いことが訪れます。先ほど仰っていましたよね? お婆さんに席を譲ろうとした、と」
メジロアルダンはそっと膝をつき、彼の手を取る。
柔らかく、包み込むような声音で続けた。
「貴方は、とても優しい方です。それはきっと、神様も見てくださっています。ですから———どうか、そんなに落ち込まないでください」
「……あぁ……っ!!」
GODが、降臨した。
パチンカスたちの生活費を奪うためにスマスロとして蘇ったGOD。
しかし今、彼の前に現れたのは、すべてを許し、すべてを包み込む“女神”としてのGODだった。
パチンカスは、すべてのスロッターが喉から手が出るほど引きたかった“1/16384”を、ここで引き当ててしまったのだ。
「だから、笑ってください♪ これから貴方に訪れる幸福のために♪」
ティロリロティロリロティロリロティロリロ♪
デーデーレレッ♪ デーレレッ♪ デレーレーレー♪
「…………ありがとう。本当に……ありがとう……それしか、言葉が見つからない……」
涙がこぼれ落ちる。
だがそれは、先ほどまでの絶望の涙ではない。
この世のすべてへ———
そして目の前の
メジロアルダンの手を両手で包み込み、ただひたすらに礼を述べ続けるパチンカス。
その様子に戸惑いながらも、彼女は優しく微笑んだ。
しばらくして———
自分の力で立ち上がった彼は、スーツの襟を正し、表情を引き締める。
その顔には、もう先ほどまでの迷いはなかった。
「もう、大丈夫ですか?」
「あぁ。本当に感謝するよ、
「そうですか……それは、よかったです」
前を向くことを選んだトレーナーに、メジロアルダンは安堵の笑みを浮かべる。
「また、話を聞いてもらってもいいか? 今度は———俺だけじゃなく、アルダンの話も」
「……くすっ、えぇ♪ また今度、この場所で♪」
本能的に「関わってはいけない」と理解していた。
それでもなぜか、この男といると心が温かくなる。不思議と心地が良かったのだ。
———もっとも、それは単なる錯覚かもしれない。
自分よりも下の存在といることで得られる、歪んだ安心感。
だが、おせいそお嬢様メジロアルダンがそんなことを知る由もなかった。
「じゃあ……また今度」
「えぇ、また今度♪」
夕陽の中、校門へと歩いていくトレーナー。
その背中を彼女は静かに見送る。
———どうか彼に、幸福が訪れますように。
「———そういえは、どうして私の名前を……?同僚の方から聞いていたのでしょうか……?」
なおその後、パチンカスは『ミリオンゴッド‐神々の軌跡』で134k負けた。