「———速すぎる……っ」
誰かがぽつりと呟いた。
芝が散る。
風が唸る。
閃く一筋の光のように、夜闇を切り裂く流星のように。
さながら———奇跡のように。
疾く、疾く、ただ疾く、彼女は駆けていた。
そして、同時に。
危うい走りでもあった。
華奢な身体に対し、あまりにも疾すぎたのだ。
走ることへの気持ちが強すぎる。
彼女の走りを見たトレーナーは皆、戦慄していた。
彼女は『止まれない』のではない。『止まらない』のだ。
肉体と想いがあまりにも乖離しすぎている彼女を担当するには、それ相応の覚悟が必要である。
しかし、その場にいるトレーナーたちは、その覚悟を持ち合わせていなかった。
救いのない、残酷な宿命を共に背負う覚悟がないのだ。
「ケイエスミラクル……俺には、無理だ……」
1人、また1人とトラックから離れていく。
そして間もなく、彼女を見守るトレーナーは、例外なく消えた。
「ハッ……ハッ……ッ!!」
だが、彼女は走り続ける。
命を、体を、脚を、夢を……奇跡を。
貰ったものを返すために、彼女は走り続ける。
彼女の命は、『ありがとう』で、できているから。
「———早すぎる……っ」
回転数
ガコンッ!!
「うわわっ!? また光ったー!」
そして、当然ながら———
テレレテレレテレレテレレ♪
テレレテレレテレレテレレ♪
テレレレーテーテーテーテーテーテーテッテテテー♪♪
「やったー! また7が揃ったー!」
ありえない。
ありえない。
ありえないありえないありえない。
「ありえなィィィィィィィィ!!!!!」
ムンクの叫びを超えるほどの俺の嘆きが、トレーナー室に響き渡る。
「おいこれ設定1だぞ!? 機械割97%だぞ!? なんで……なんでお前らそんなにBIG BONUS引けるんだよ!!」
「そう言われましても……」
「スロットって案外簡単なんだね、トレーナー!」
これは、ビギナーズラックなんてちゃちなんもじゃねぇ……
何かの陰謀だ……
パチンカスである俺を貶めるために、三女神が仕組んだ陰謀に違いない……ッ!!
「ハァッ☆」カンコーン☆
その瞬間、俺の脳内に閃きが走る。
この流れに乗れば、勝てんじゃね??
「……よし、行くか」
俺は財布の中に42000円あることを確認し、歩き出す。
「晩御飯までには帰ってくださいね♪」
「おうっ……!! いや、帰ってね? 晩御飯の時間になったら寮に帰ってね?」
新婚ほやほやの新妻が如く笑みを浮かべ手を振るアルダンに見守られながら、俺は
「待ってろよジャグラー!! 俺たちの冒険は、これからだっっ!!!!」
なお、開始17回転でBIG BONUS当てるも、その勢いで打ったGODに全額吸われた。
ご愛読ありがとうございました!
パチンカスの次回作にご期待ください!
いや、打ち切りじゃないっすよ?
私の財布は打ち切りになりそうですけど……