【トウカイテイオーさん、有馬記念勝利おめでとうございます】
「うん、ありがとっ!」
【ジャパンカップに続き、有馬も制覇したということで、奇跡の復活とも言われていますが、その心は?】
「うん、ボクもそう思う! 2回も骨折しちゃって、正直くじけそうになったこともあったけど……でも今日ここで証明できたよ。無敵のテイオーは、ちゃんと帰ってきたってねっ!」
【ここに来るまで、数々の困難があると思います。普通のウマ娘では乗り越えられないほどの。テイオーさんはその困難をどのように乗り越えたのですか?】
「カイチョーと、カイチョーのトレーナーさん。それにチームのみんなと……
【今後の方針について、何か決まっていますか?】
「うーん、まだ何も決めてないんだ。このままトゥインクルシリーズを走り続けるのがいいのか……ちょっと悩んでるかな」
【ドリームトロフィーリーグに移行する、ということでしょうか?】
「それも含めて、まだこれから!
【最後に一言、ファンの皆さんに頂いてもよろしいですか?】
「……応援してくれたみんな、本当にありがとう!ボクは2回もケガして、レースから離れちゃったけど……それでも戻ってこれたのは、みんなの声があったからだよ」
「これからも、みんなに夢を届けられるように走り続けるから———これからも応援、よろしくねっ!」
「それと……カイチョー!」
「ボクは絶対、キミのところまで辿り着く。
そして、皇帝を超える帝王になる!」
「アルダンも!」
「ボクはキミにも負けないからね!」
「レースでも———
「ふたりとも、覚悟して待っててよねっ!!」
「テイオーさん、有馬記念勝利、おめでとうございますー!!」
「おめでとー!!」
トレーナー室内に、カーンとグラスがぶつかる心地よい音が鳴り響く。
壁には【本日の主役 無敵のテイオー】という垂れ幕。
お誕生日席には、タスキと三角帽子をつけたテイオーがちょこんと座っていた。
アルダンとケイエスはクラッカーやタンバリンで場を盛り上げる。
———が。
肝心の主役は、明らかに不満そうだった。
ぷくーっと頬をふくらませ、ジュースをちびちび飲みながら、スマホを何度も確認している。
「ほらほら、テイオーさん♪ そんな顔してないで、楽しみましょう?」
「このケーキすっごく美味しいよ、テイオー。早く食べないと、おれが全部食べちゃうよ?
ふたりがどうにか機嫌を取ろうとするが、テイオーはぷいっとそっぽを向いたまま。
だが、それもそのはず。
理由を聞けば、10人中1000人が「そりゃそうだ」と頷くだろう。
テイオーが拗ねている理由。
それは———
「なんでトレーナーがいないのさーっ!!!」
その叫びに、アルダンとケイエスは思わず視線を逸らす。
テイオーは勢いよく立ち上がると、スマホを突きつけた。
そこには、チームのグループチャット。
そして、トレーナーからのメッセージ。
『ごめんなさい、今めちゃくちゃ玉出てるから、もうしばらく帰れません。俺抜きで先にパーティーを開いててください』
『追伸:俺の分のケーキは残しておいてね』
「もう〜〜〜っ!! なにそれぇ〜〜〜っ!!!」
テイオーはその場でじたばたと地団駄を踏む。
その様子に、ふたりは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
「えっと……トレーナーさんらしいじゃないですか♪」
「アルダン、それはさすがにフォローになってないよ……というか、もしかしておれの時もこうなるのかな……」
「ぜったいダメでしょこんなのっ!! ボクが主役なんだよ!? 有馬記念だよ!?」
ぷんすかと腕を組み、テイオーは頬をふくらませる。
「もういいもんっ!! トレーナーの分のケーキ、ボクが食べちゃうからねっ!!」
そうして、テイオーはケーキをバクバクと貪り始めた。
その結果、テイオーは見事に【太り気味】となり、トレーナーにしっかり怒られることになる。
だが、3人のウマ娘の前にトレーナーが勝てるはずもなく、トレーナーは毛布でぐるぐる巻きにされ、トレーナー室の外に吊るされることになるのだが……
それはまた、別のお話。
夜のトレセン学園、その屋上。
アルダン、テイオー、ケイエスのトレーナー、ハルと、その先輩トレーナーの二人は、缶コーヒーを片手に夜景を眺めていた。
「有馬記念、おめでとう。ハル」
「それ、俺じゃなくてテイオーに言ってくださいよ」
「はは、もう言ってきたさ」
静寂が流れる。
「……で、なんで俺を呼び出したんスか?」
トレーナーは先輩トレーナーに問いかける。
すると、先輩トレーナーは一呼吸おき、重々しくその口を開いた。
「———うちのベルノがな。アメリカで“彼女”に会ったらしい」
「……っ」
一瞬だけ、ハルの動きが止まる。
だがすぐに何事もなかったように、コーヒーを口に運んだ。
「俺もベルノも、彼女の全盛期は知らん。だが……彼女、相当やつれてるらしい」
「……」
「メディア上では普通見えるけどな。でも、ベルノはそうは思わなかったみたいだ」
返事はない。
ハルはただ、無言で夜の校舎を見下ろしている。
「お前、凱旋門のあと……一度でも連絡したのか?」
「———」
沈黙。
「……ったく。これだから拗らせた男は面倒くせぇ」
「———拗らせてんのは、向こうも同じっスよ」
「はは……違いねぇ」
二人は同時にコーヒーをあおる。
言葉の代わりに、夜風だけが通り抜けた。
「例のプロジェクトの話、知ってるな?」
「……まあ」
「遅かれ早かれ、会うことになる。———もう逃げられねぇぞ、ハル」
ハルは視線を逸らすように立ち上がる。
「お前が選んだ道だろうが!! いつまで過去に縛られてんだ!!」
だが、足は止まらない。
そのまま、屋上の扉へと消えていく。
「……チッ」
先輩トレーナーは思わず舌打ちをする。
すると、その様子を見たトレーナーは、ボソリと呟いた。
「担当と、その母親との関係が複雑なアンタに言われたくないっスよ」
「ぐっ……そこ突いてくるか、普通……」
先輩トレーナー———北原は、去っていくハルの背中を睨みつける。
「……ほんと、生意気に育ちやがって……パチンコなんか教えるんじゃなかったな……」
夜風が、ひときわ強く吹いた。
その時は、確実に近づいている。
けれどハルは、まだそれに背を向け続け、明日へと歩き出す。
胸の奥に、消えないもの後悔を抱えたまま———
ちょっぴり独占欲を出すテイオーかわいいね。
北原と担当とその母親の関係は、皆様のご想像にお任せします。