なんか筆が止まらなかったので連続投稿です
「はあああああっ!!!」
ケイちゃんはトップスピードでターフを駆け抜けていく。
その速度は、アルダンやテイオーすら凌駕するほどだった。
強靭な肉体を手に入れた今のケイちゃんに、もはや“脆さ”の面影はない。
このまま力を伸ばし続ければ、史上初の短距離ウマ娘による“年度代表ウマ娘”の受賞すら夢ではない。
「はぁっ……はあっ……トレーナーさん! どう、でしたか……!?」
息を切らしながら、それでも太陽みたいな笑顔を浮かべてこちらへ駆け寄ってくる。
「フォームがさらに安定してる。それに、脚運びと呼吸の噛み合い方も完璧だ。これならスプリンターズステークスでも、勝利は間違いない」
「本当ですか……!? よしっ……!!」
嬉しそうに拳を握るケイちゃん。
この調子なら、ライバルであるダイイチルビーやヤマニンゼファーにも十分勝てる。
半年前までは、ケイちゃんが“挑戦者”として二人に食らいついていた。
だが今は違う。
今度は、彼女たちがケイちゃんへ挑む側になっていた。
ダイイチルビーも、ヤマニンゼファーも。
元々は、ケイちゃんの身体を心配していた友人たちだ。
そんな二人だからこそ、ケイちゃんが問題なく走れていることを心から喜んでいた。
それと同時に。
その実力が、自分たちを超える領域へ到達しつつあることに、焦りも感じていた。
だからこそ、二人もまた努力する。
ケイちゃんに負けないように。
互いに置いていかれないように。
そして、そんな彼女たちの姿を見た他のウマ娘たちもまた、奮い立たされていく。
全員が、互いを高め合うように走っている。
——あぁ。
これこそが、ウマ娘の理想の形だ。
眩しい。
眩しすぎるくらいに。
すると、ケイちゃんは俺の両手をぎゅっと握りしめ、涙を浮かべながら笑った。
「ありがとう、トレーナーさん……!!」
離さないように。
確かめるように。
彼女は優しく、でも力強く俺の手を握る。
「おれ、トレーナーさんのおかげで……ここまで強くなれました……!!」
その笑顔は、あまりにも真っ直ぐで。
あまりにも眩しくて。
「おれ、トレーナーさんに選んでもらえて……本当に良かったです!!」
その瞬間。
脳裏に、別の笑顔が蘇った。
『やっぱり、ハルに見てもらって正解だったな!!』
「っ」
ズキリ、と。
眼の奥に鋭い痛みが走る。
まるで、焼けた針でも突き刺されたかのような激痛。
ここ最近、頻繁に起こるようになった謎の痛み。
ケイちゃんが成長するたびに。
俺がトレーナーとしての実力を実感するたびに。
この痛みは、より強く、より深く俺を抉ってくる。
アルダンの時にはなかった。
テイオーの時にもなかった。
なのに、どうして急に——
蘇る。
あの日の記憶が。
胸の奥へ沈めていた後悔が。
まるで傷口を無理やりこじ開けられるみたいに、溢れ出してくる。
どうして俺は、あの時——
「トレーナーさん……?」
「っ……ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
不安そうに覗き込んでくるケイちゃんの顔を見て、俺は慌てて意識を引き戻す。
痛みを誤魔化すように、無理やり笑みを作った。
「俺も、ケイちゃんが……」
言葉が、一瞬詰まる。
「——みんなが、俺の担当ウマ娘になってくれて嬉しいよ」
ケイちゃんを心配させないように。
眼の奥で脈打つ痛みから目を逸らすように。
俺は、笑った。
「ごめん、スーちゃん。俺は行けないよ」
スーちゃんの願いから逃げるように、俺は呟いた。
「……っ!? どうして!? ハルが一緒に来てくれれば、俺は——」
スーちゃんは目を見開き、必死に俺の肩を掴む。
けれど俺は、その瞳を見ることができなかった。
「俺は……ただの一般人だから」
違う。
そんな理由じゃない。
「そんな奴が、日本代表のウマ娘の隣に立っていいわけないだろ」
違う。
本当は、そんなことどうでもいい。
「でもっ!! ハルなら——!!」
スーちゃんは涙を滲ませながら、俺の手を握る。
まるで、離れてしまわないように。
けれど俺は、その手を振り払ってしまった。
「そもそも俺は、普通の家庭で育った人間なんだよ……! それに比べて、スーちゃんは名門シンボリ家のウマ娘だ! 最初から釣り合ってないんだよ、俺たちは!!」
「っ!!」
スーちゃんの表情が、傷ついたように歪む。
大粒の涙が、頬を伝った。
違う。
違うんだ。
俺は、そんなことを言いたいわけじゃない。
ただ——
「ハルの……馬鹿やろう……!!」
「あっ……」
スーちゃんは涙声のまま叫び、その場から走り去っていく。
振り向きざま、宙に散った涙がきらりと光った。
俺は思わず手を伸ばす。
けれど、その背中には届かない。
もう、遅かった。
「違うんだ……スーちゃん……!!」
俺は——怖かったんだ。
スーちゃんを、これ以上成長させられないかもしれないことが。
自分が隣にいるせいで、彼女の可能性を潰してしまうことが。
いつか、“必要ない”と置いていかれることが。
何より——
大好きな彼女に、失望されることが。
怖くて、たまらなかったんだ——
【スピードシンボリ、海外レースにその名を残せず——凱旋門賞、無念の10着】
「クソッ……俺は……っ!!」
テレビから流れる無情な結果。
握り締めた拳が、震える。
もし、俺が隣にいたなら。
違う未来があったのだろうか。
あの時の選択が、本当に正しかったのか。
今でも、俺には分からない。
分からないんだ。
メジロアルダンとトウカイテイオーは、2人の覚悟に焼かれ、自ら担当となった。
だが、ケイエスミラクルだけは違う。
ハル自身が、自分の意思で選んだ担当ウマ娘だった。
自ら選び、支え続けた結果、ケイエスミラクルは誰よりも眩しく成長していく。
その姿は、ハルの胸に封じ込めていた後悔を呼び覚ましていく。
もしあの時——
スーちゃんの手を、離さず掴んでいたなら——と。
【追記】
感想読んでモチベ無くなってしまったので更新停止します。
再会は未定です。