【未完】そのトレーナー、パチンカスにつき   作:ぽこちー

29 / 29

なんか筆が止まらなかったので連続投稿です



その眼に映るもの

 

 

 

「はあああああっ!!!」

 

 

 ケイちゃんはトップスピードでターフを駆け抜けていく。

 その速度は、アルダンやテイオーすら凌駕するほどだった。

 

 強靭な肉体を手に入れた今のケイちゃんに、もはや“脆さ”の面影はない。

 

 このまま力を伸ばし続ければ、史上初の短距離ウマ娘による“年度代表ウマ娘”の受賞すら夢ではない。

 

 

「はぁっ……はあっ……トレーナーさん! どう、でしたか……!?」

 

 

 息を切らしながら、それでも太陽みたいな笑顔を浮かべてこちらへ駆け寄ってくる。

 

 

「フォームがさらに安定してる。それに、脚運びと呼吸の噛み合い方も完璧だ。これならスプリンターズステークスでも、勝利は間違いない」

 

 

「本当ですか……!? よしっ……!!」

 

 

 嬉しそうに拳を握るケイちゃん。

 

 この調子なら、ライバルであるダイイチルビーやヤマニンゼファーにも十分勝てる。

 

 半年前までは、ケイちゃんが“挑戦者”として二人に食らいついていた。

 

 だが今は違う。

 今度は、彼女たちがケイちゃんへ挑む側になっていた。

 

 ダイイチルビーも、ヤマニンゼファーも。

 元々は、ケイちゃんの身体を心配していた友人たちだ。

 

 そんな二人だからこそ、ケイちゃんが問題なく走れていることを心から喜んでいた。

 

 それと同時に。

 

 その実力が、自分たちを超える領域へ到達しつつあることに、焦りも感じていた。

 

 だからこそ、二人もまた努力する。

 ケイちゃんに負けないように。

 互いに置いていかれないように。

 

 そして、そんな彼女たちの姿を見た他のウマ娘たちもまた、奮い立たされていく。

 

 全員が、互いを高め合うように走っている。

 

 ——あぁ。

 

 これこそが、ウマ娘の理想の形だ。

 

 眩しい。

 

 眩しすぎるくらいに。

 

 すると、ケイちゃんは俺の両手をぎゅっと握りしめ、涙を浮かべながら笑った。

 

 

「ありがとう、トレーナーさん……!!」

 

 

 離さないように。

 確かめるように。

 彼女は優しく、でも力強く俺の手を握る。

 

 

「おれ、トレーナーさんのおかげで……ここまで強くなれました……!!」

 

 

 その笑顔は、あまりにも真っ直ぐで。

 

 あまりにも眩しくて。

 

 

 

 

「おれ、トレーナーさんに選んでもらえて……本当に良かったです!!」

 

 

 

 

 その瞬間。

 脳裏に、別の笑顔が蘇った。

 

 

 

 

『やっぱり、ハルに見てもらって正解だったな!!』

 

 

 

 

「っ」

 

 

 ズキリ、と。

 

 眼の奥に鋭い痛みが走る。

 

 まるで、焼けた針でも突き刺されたかのような激痛。

 

 ここ最近、頻繁に起こるようになった謎の痛み。

 

 ケイちゃんが成長するたびに。

 

 俺がトレーナーとしての実力を実感するたびに。

 

 この痛みは、より強く、より深く俺を抉ってくる。

 

 アルダンの時にはなかった。

 

 テイオーの時にもなかった。

 

 なのに、どうして急に——

 

 蘇る。

 

 あの日の記憶が。

 

 胸の奥へ沈めていた後悔が。

 

 まるで傷口を無理やりこじ開けられるみたいに、溢れ出してくる。

 

 どうして俺は、あの時——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん……?」

 

 

「っ……ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」

 

 

 不安そうに覗き込んでくるケイちゃんの顔を見て、俺は慌てて意識を引き戻す。

 

 痛みを誤魔化すように、無理やり笑みを作った。

 

 

「俺も、ケイちゃんが……」

 

 

 言葉が、一瞬詰まる。

 

 

「——みんなが、俺の担当ウマ娘になってくれて嬉しいよ」

 

 

 ケイちゃんを心配させないように。

 

 眼の奥で脈打つ痛みから目を逸らすように。

 

 俺は、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、スーちゃん。俺は行けないよ」

 

 

 スーちゃんの願いから逃げるように、俺は呟いた。

 

 

「……っ!? どうして!? ハルが一緒に来てくれれば、俺は——」

 

 

 スーちゃんは目を見開き、必死に俺の肩を掴む。

 けれど俺は、その瞳を見ることができなかった。

 

 

「俺は……ただの一般人だから」

 

 

 違う。

 そんな理由じゃない。

 

 

「そんな奴が、日本代表のウマ娘の隣に立っていいわけないだろ」

 

 

 違う。

 本当は、そんなことどうでもいい。

 

 

「でもっ!! ハルなら——!!」

 

 

 スーちゃんは涙を滲ませながら、俺の手を握る。

 

 まるで、離れてしまわないように。

 

 けれど俺は、その手を振り払ってしまった。

 

 

「そもそも俺は、普通の家庭で育った人間なんだよ……! それに比べて、スーちゃんは名門シンボリ家のウマ娘だ! 最初から釣り合ってないんだよ、俺たちは!!」

 

 

「っ!!」

 

 

 スーちゃんの表情が、傷ついたように歪む。

 

 大粒の涙が、頬を伝った。

 

 違う。

 

 違うんだ。

 

 俺は、そんなことを言いたいわけじゃない。

 

 ただ——

 

 

「ハルの……馬鹿やろう……!!」

 

 

「あっ……」

 

 

 スーちゃんは涙声のまま叫び、その場から走り去っていく。

 

 振り向きざま、宙に散った涙がきらりと光った。

 

 俺は思わず手を伸ばす。

 

 けれど、その背中には届かない。

 

 もう、遅かった。

 

 

「違うんだ……スーちゃん……!!」

 

 

 俺は——怖かったんだ。

 

 スーちゃんを、これ以上成長させられないかもしれないことが。

 

 自分が隣にいるせいで、彼女の可能性を潰してしまうことが。

 

 いつか、“必要ない”と置いていかれることが。

 

 何より——

 

 大好きな彼女に、失望されることが。

 

 怖くて、たまらなかったんだ——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スピードシンボリ、海外レースにその名を残せず——凱旋門賞、無念の10着】

 

 

「クソッ……俺は……っ!!」

 

 

 テレビから流れる無情な結果。

 握り締めた拳が、震える。

 

 もし、俺が隣にいたなら。

 

 違う未来があったのだろうか。

 

 あの時の選択が、本当に正しかったのか。

 

 今でも、俺には分からない。

 

 分からないんだ。

 

 

 

 





メジロアルダンとトウカイテイオーは、2人の覚悟に焼かれ、自ら担当となった。
だが、ケイエスミラクルだけは違う。
ハル自身が、自分の意思で選んだ担当ウマ娘だった。
自ら選び、支え続けた結果、ケイエスミラクルは誰よりも眩しく成長していく。
その姿は、ハルの胸に封じ込めていた後悔を呼び覚ましていく。

もしあの時——
スーちゃんの手を、離さず掴んでいたなら——と。


【追記】
感想読んでモチベ無くなってしまったので更新停止します。
再会は未定です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 ウマ娘に転生したから百合ハーレムを築きたい競馬ミリしら民のお話。▼ なお、名前はディープインパクトという。


総合評価:2145/評価:7.94/連載:20話/更新日時:2026年04月04日(土) 11:39 小説情報

緋色の女王の幼馴染(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 ブエナビスタの幼馴染トレーナー概念が公式になったので幼馴染トレーナーの二次創作が100万ぐらい出ると思っていたのに全然でないので自分で書きます。▼ ダイワスカーレットとその幼馴染のトレーナーのお話。▼ 八幡悠(https://syosetu.org/user/330079/)さんからもらったアイデアをもとに勢い任せで書きました。▼ 幼馴染は緋色の女王様(h…


総合評価:1889/評価:8.14/完結:46話/更新日時:2026年03月24日(火) 06:00 小説情報

癒しのヘッドスパ(作者:灯火011)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

ウマ娘のトレーナーが、ヘッドスパの才能があった世界線です。▼ウマ娘の耳周りとかすんげぇ凝ってると思うんですよね。ええ。▼※2026/04/15、連載に変更しております。▼※2026/05/06、完結いたしました。ご覧いただき感謝感激。


総合評価:3561/評価:8.42/完結:32話/更新日時:2026年05月06日(水) 19:00 小説情報

地方トレセンを舐めるなよ!(作者:鼻毛王)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

▼才能に溢れすぎた、一人のウマ娘。▼地方トレセンの一つ、笠松トレセンの再興に助力し、中央一強体制を崩しにかかる。▼『中央のウマ娘の方が強い』▼そんな常識を叩き壊すお話。▼*シンデレラグレイに触発されて執筆した作品です。▼


総合評価:3156/評価:8.51/連載:48話/更新日時:2026年04月16日(木) 18:00 小説情報

その瞳に勝利を(作者:カニ漁船)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

「わたしは勝つわ、トレーナー!」▼「頑張って支えるよ」


総合評価:2803/評価:8.8/連載:74話/更新日時:2026年05月14日(木) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>