選ばれたのは、彼女でした——
お父さんの仕事の都合で、昔は転校が多かった。
新しい場所で友達を作るのは難しくはなかったけど、せっかくできた関係は何度も途切れてしまう。
——そのたびに、思った。
わたしは、覚えてもらえることがなにもない、ふわふわした存在なんだって。
視界にはいるけど、特別じゃない……
特別じゃないから、一番になれない……
一番じゃないから、みんなの印象に残らない。
そしてそのまま、忘れられてしまう“脇役”なんだって。
でも。
トレーナーさんと出会って、わたしの“脇役”としての人生は、終わりを告げた。
トレーナーさんとの出会いは、正直、最高とは言えなかった。
幼い頃からの知り合い、というわけでもないし。
選抜レースで見初められた、なんてドラマもない。
ソーシャルゲームのガチャを、トレーナーさんの代わりに引いてあげた。
それが、最初のきっかけだった。
タナベトレーナーの補佐として有名な人。
その才能は、タナベトレーナーすら超えるとも噂されていた。
そんな人と、わたしが関わることなんてない。
そう思っていた。
——けれど。
彼との出会いは、あまりにもあっけなかった。
ある日。
中庭のベンチで、燃え尽きたみたいにぐったりしている彼を見つけた。
何の取り柄もないわたしが、天才の彼に声をかけるなんてありえない。
でも。
この世の終わりみたいな顔をしている彼を、見過ごすことなんてできなかった。
だからわたしは、恐る恐る彼に声をかけた。
「……大丈夫ですか?」
すると彼は、いきなり土下座をして、私にスマホを押し付けてきた。
「190連してもピックアップが出ない」とか、「ピックアップどころかSSRすら出ない」とか——当時のわたしにはよく分からないことをまくし立ててくる。
要するに、わたしにガチャを引いてほしいらしい。
困惑しながらも、わたしは『10連』のボタンをタップした。
「うっひょおおおおおおお!?!? SSR4枚抜き!?!? しかも全部狙い通り!! 待って、ちょうど天井だから完凸いけるじゃん!? マジ!?!? 神!! ダンツ神!! やっぱダンツしか勝たん!!!!」
次の瞬間、彼は奇声のような歓声を上げ、その場に崩れ落ちた。
まるでわたしを崇めるみたいに。
当然、周囲の視線が一斉に集まる。
わたしは「お、落ち着いてくださいっ!」と声をかけるけれど、彼は聞く耳を持たない。
「ありがとうございますダンツ神!! この私めに出来ることがあれば、なんでもやらせていただきます!!」
涙目で、再び土下座。
——これは、何か頼まないと終わらない。
そう判断したわたしは、咄嗟に口を開いた。
「……じゃあ、わたしの走りを見てくれませんか」
それだけ言って、わたしはその場から逃げるように、グラウンドへ向かった。
そしてわたしは、彼に見られながら、自分にできる限りの走りを見せた。
成り行きだったとはいえ、天才の目にわたしがどう映るのか。それが、知りたかったからだ。
全力で走り切り、息を整えながら問いかける。
——どうでしたか、と。
すると彼は、躊躇いもなく言った。
「うーん……“普通”!!」
——やっぱり。
どこかで、期待していた。
もしかしたら、って。
だけど現実は、変わらない。
天才の目から見ても、わたしは“普通”のウマ娘だった。
悔しさを押し殺すように、ぎゅっと歯を食いしばる。
それでも無理やり笑顔を作り、感謝を告げて、その場を離れようとした。
「ダンツフレーム。ジャングルポケット、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ——非凡な才能を持つウマ娘たちの同期」
呼び止めるように、彼の声が落ちる。
「スピード、スタミナ、パワー……どれを取っても“普通”。だが——」
ポケットに手を入れたまま、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「その奥にあるもんだけは、誰にも負けてねぇ」
射抜くような視線。
「どうしてそこまでして走る? 比べられて、現実を突きつけられて、それでもお前は走り続ける」
理解できない、と言いたげな顔で。
「どうしてそこまでして、“主役”になりたいんだ?」
——見抜かれている。
全部、見られている。
そのうえで、問いかけてきている。
「……」
わたしは俯き、初めて真ん中に立ったあの日を思い出す。
表彰台の真ん中で、メダルを握りしめながら見た光景。みんなから特別だと思ってもらえたような、あの、眩い瞬間。
それまでずっと、どこかぼんやりとしていた自分の輪郭が、この世界にくっきりと映し出されたかのような——強い感動を。
「わたしは特別じゃない……だから、一番にはなれない……」
「一番じゃないから、印象にも残らない。そのまま忘れられていく——“脇役”なんだって、自分でも分かってるんです」
——それでも。
「それでも、走っている時は……レースの中だけは、違った」
「一番で駆け抜けた、あの一瞬。わたしは——“主役”だった……!!」
「だから、もう一度あそこに立ちたい……! もっと眩しくて、みんなの記憶に残る“主役”になりたいんです……!!」
“脇役”の、くだらない意地かもしれない。
それでも——
この想いだけは、捨てられない。
絶対に、捨てたりなんてしない。
すると彼は、ふっと笑った。
「——いいね」
そう言って、彼はゆっくりと歩み寄ってくる。
「俺はお前が気に入った、ダンツフレーム」
「え、えっと……」
何を気に入られたのか分からないまま、彼は笑って手を差し出す。
「“主役”になってやろうじゃねぇか。ポッケもアグネスタキオンもマンハッタンカフェも——“脇役”にしちまうくらいの、本物の“主役”に」
「で、でも……わたしなんかが……」
「あぁ? 自分で“主役になりたい”って言っといて、その反応はなんだよ」
呆れたように息を吐く。
それでも、差し出された手は引かれない。
「だったら俺がお前を“主役”にしてやる」
彼は一歩、踏み込んだ。
「お前が嫌だって、“脇役”でいいって言っても——俺は絶対に譲らねぇ」
ためらうわたしの手を、強引に掴み取る。
「俺と契約しろ、ダンツフレーム」
一拍。
「俺とお前で、“新時代の扉”をこじ開けようぜ」
——まるで、告白みたいだった。
でも、その表情はまっすぐで、眩しくて、温かくて。
気づけば、涙が溢れていた。
そしてわたしは縋るように、彼の手を握り返す。
「……はいっ……よろしくお願いします、トレーナーさん……っ!!」
それからわたしは、トレーナーさんのもとで猛特訓の日々を送った。
辛くて、厳しくて、何度も挫けそうになって。
逃げ出したいと思ったことも、一度や二度じゃない。
それでも——そのたびに、トレーナーさんはわたしを支えてくれた。
迷うたび、手を取って、前へ引き戻してくれた。
「世間はジャングルポケットだ、アグネスタキオンだって騒いでるがよ……」
皐月賞前のインタビュー。
緊張で固まるわたしをよそに、トレーナーさんは記者のマイクを奪い取った。
「この時代の“主役”は、ダンツフレームだ」
一瞬、会場が静まり返る。
「フジキセキやテイエムオペラオーが相手だろうが……勝つのは——
そのまま彼は、わたしの手を引いて歩き出す。
ざわめく記者たちの視線を浴びながら、会見場を後にする。
——『俺のダンツ』。
その一言が、胸の奥に深く落ちていく。
『俺のダンツ』……
『わたしだけのトレーナー』……
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。
信頼。
想い。
それとも——もっと別の、なにか。
全部が混ざり合って、うまく言葉にならない。
それでも、ひとつだけははっきりしていた。
——わたしは、“主役”になる。
必ずなってみせる、と。
「うわ〜! ゾウさんにクマさん、カワウソさんもいますよ〜!」
トレーナーさんの腕に抱きつきながら、わたしは楽しそうに見回す。
「そうだね、かわいいねー……って、また最低保証かよ……」
けれどトレーナーさんは、いつものようにアプリゲームに夢中で、動物たちなんてまるで見ていない。
「もう〜! 今日はゲーム禁止って約束しましたよね? はい、没収です♪」
「あっ、ちょっと!……はぁ。そうだったな、ダンツ。悪い」
頭を掻きながら、素直に謝るトレーナーさん。
「分かればいいんです♪ でも、このスマホは今日は一日、わたしが預かりますからね♪」
「えー? 連絡来たらどうすんだよ」
困ったような顔に、わたしはくすっと笑って、少しだけ意地悪に言う。
「緊急なら返しますけど、それ以外は知りません♪」
一歩前に出て、指をぴしっと突きつける。
「だって今日は——」
胸を張って、はっきりと言い切る。
「今日の“主役”は、わたしなんですもん♪♪」
「私はね、ポッケ……トレーナーさんが幸せなら、それでいいんだ。私が隣に立てなかったのは、私が“キセキ”を届けられなかった——ただそれだけだよ……」
「フジさん……」
「そんな顔しないでくれよ♪ 私だって、ちゃんと前を向いて歩いてるんだからさ。心配はいらないよ」
「——じゃあ、なんでハルさんとダンツのデート尾行してるんすか」
「それとこれとは別問題だよ、ポッケ」
「別問題……?」
「確かに“今は”隣にいない。けどね——最終的にトレーナーさんの隣に立つのは、この私だと決まっているのさ!!」
「えぇ……」
「あっ、トレーナーさんとダンツが向こう行っちゃった!! ほら行くよポッケ!!」
「いや待ってくださいって」
「急がないとトレーナーさんの唇が奪われてしまうからね!!」
「えっ、ちょっ、フジさん——!? くそっ、めちゃくちゃ速ぇ……こんなんでフジさんの速さをを知りたくはなかったぜ畜生……」
ソラ、羨ましいよ……
俺のGW——終わっちゃった
いやマジでトモコレとこの小説書いて終わったんだが????
GW前に言ったネタ切れとは????
誰か、明日上司から「GW何してた?」って聞かれた時のベストアンサーを教えてください。
僕を助けてください。
※当然ながら私が二次創作をしていくことも、ウマ娘にどハマりしてることも秘密にしてます。
新時代の扉を見たトレーナーは全員今すぐにダンツを引け。育成しろ。
新時代の扉 Another Storyだからあれは。
え? 私がどうやってダンツを引いたかって?
残念だったな。天井前に無事に引けたぜ!!(151連)