二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜)   作:きんぴら大根

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束の間の休息

九条間人は豪華客船の甲板のベンチに座り、丁寧に洗って乾かした薄ピンクのハンカチを手に持っていた。鼻炎の症状も部屋におき忘れていた鼻炎テープを貼ってようやく落ち着いたところだ。

少し離れたところで、佐倉愛里が海を眺めながら立っているのが見えた。九条はゆっくりと立ち上がり、彼女に近づいた。

 

「佐倉さん」

 

柔らかい声で呼びかけると、佐倉はびっくりしたように振り向いた。頰が少し赤くなる。

 

「あ、九条くん……どうしたの?」

 

九条は穏やかな笑みを浮かべ、ハンカチを両手で差し出した。

 

「これ、洗って乾かしました。長く借りてしまってごめんなさい。本当に助かりました。あの島では鼻炎が酷くて・・・でもおかげで随分気持ちも楽になった気がします」

 

佐倉はハンカチを受け取りながら、照れくさそうに微笑んだ。

 

「ううん……全然。九条くんが無事でよかったよ。島では本当に具合悪そうだったから……心配だった」

 

彼女はハンカチを丁寧に畳みながら、ふと目を細めて海を見た。

 

「無人島試験、色々大変だったけど……九条くんがいてくれたおかげで、Dクラスも少しだけまとまった気がする。トラブルがあったときも、みんなを落ち着かせてくれて……ありがとう」

 

九条は隣に並んで手すりに寄りかかり、穏やかな声で答える。

 

「佐倉さんこそ、ハンカチの一件も島でのフォローも・・・本当に感謝しています。僕だけだったら皆をまとめることはできませんでした。これからも、クラスで何かあったら、遠慮なく声をかけてくださいね」

 

佐倉は少し嬉しそうに頰を緩め、小さく頷いた。

 

「……うん。九条くんも、鼻炎がまた酷くなったら、いつでも言ってね。私、なんか他にできることあるかもしれないから」

 

「鼻炎は流石にもう大丈夫ですよ、ていうか僕、そんなにひどかったですか?」

 

数秒経って佐倉が「うん・・・」と答えると、少しして照れ臭く控えめに二人笑い合った。

 

「いや敵わないな佐倉さんには・・・試験も大事だけど、少しだけでも休めるといいな・・・」

 

二人は並んで海を眺め、穏やかな風に髪を揺らした。甲板の喧騒が少し遠く感じられる中、静かで和やかな時間が流れる。

 

ふと佐倉が何気なく九条に、今まで心の奥底にあった自分の疑問を吐露した。

 

「あの・・・九条くんはこの学校のこと、どう思ってるかな?」

 

九条は少し目を伏せる、それは九条にとっても心の芯に関わる話だったから。伏せた目を少し見開き、再び海の方にまっすぐ目を向けて答えた。

 

「Dクラスのみんなのことは好きです、この無人島試験でもより絆が深くなった気がしますし、ただ・・・すみません、この学校そのものについては、今は答えられない」

 

その決して前向きでない九条の答えを聞いて佐倉は、がっかりするではなくむしろ安心したかのような表情を浮かべた。

 

(きっと九条くんは・・・私と同じで・・・)

 

「ううん、良いの。九条くんのその答えが聞けただけで、私は良かったから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐倉と九条が船内ラウンジに戻理、鼻炎テープを貼った鼻を軽く押さえ、周囲を見回すと、Dクラスの面々があちこちで談笑しているのが目に入った。

平田洋介がすぐに気づいて近づいてきた。

 

「九条くん、佐倉さん、二人ともお疲れ! 島では本当にいろいろありがとう。九条くん、テント設営も、火事のときも……君がいてくれて助かったよ」

 

平田はいつもの穏やかな笑顔で、九条の隣に座った。

九条は柔らかく微笑み返した。

 

「いえ、僕なんて大したことしてませんよ。平田くんがみんなをまとめてくれたおかげです。……それより、平田くんこそ大変だったでしょう? ずっとクラスの皆をまとめて」

 

平田は苦笑しながら肩をすくめた。

 

「まあね……でも、結果的に175ポイント取れたんだから、みんな頑張ったよ。九条くんも鼻炎で辛かったのに、手伝ってくれて本当に感謝してる」

 

そこへ池寛治と山内春樹が、ジュースのグラスを片手に近づいてきた。

 

「おう、九条! お前鼻炎テープ貼ってる顔、島でマジでヤバかったよな! 佐倉ちゃんのハンカチ借りてたって本当かよ?」

 

池がニヤニヤしながら肘で突いてくる。山内も笑いながら追従した。

 

「マジで笑ったわ。あの『鼻炎でバレる』フォロー、佐倉さん天才すぎ!」

 

佐倉は顔真っ赤になりながら俯き、九条は苦笑しつつ、軽く手を振った。

 

「からかわないでくださいよ……本当に死ぬかと思いました。あのハンカチ、ちゃんと洗って返しましたけどね」

 

三人が笑い合うと、近くにいた軽井沢恵が少し離れた席から立ち上がり、近づいてきた。彼女の表情はいつもの強気さの中に、わずかな照れと本気の感謝が混じっていた。

 

「……九条くん」

 

軽井沢は少し声を落とし、九条の目を見つめた。

 

「島では……下着の件で、冷静に状況を聞いてくれたよね。あのとき、みんなが疑い合っててすごく嫌だったのに……九条くんがちゃんと話を聞いてくれたから、少し落ち着けた。……ありがとう。本当に、助かった」

 

彼女の声は少し震えていて、普段の軽井沢らしからぬ素直さが滲み出ていた。

九条は穏やかに微笑み、軽く頭を下げた。

 

「軽井沢さんこそ、大変でしたね。色々混乱もしたでしょうに、みんなの前でしっかり話してくれた……僕の方が、軽井沢さんの強さに感心してました。これからはこういうトラブルも、みんなで冷静に対処していければ乗り越えられると思います」

 

軽井沢は一瞬、目を逸らして照れくさそうに頰を掻いたが、すぐに九条に向き直り、小さく笑った。

 

「……ふん、意外と優しいのね、九条くん。まあ……また何かあったら、頼りにしてるわよ」

 

その言葉に、九条は静かに頷いた。

ラウンジの雰囲気は和やかで、試験の疲れを癒すような笑い声があちこちから聞こえる。

彼はDクラスの面々に混じり、穏やかな笑みを浮かべたまま、船内の賑わいに溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

船内ラウンジのソファエリアで一息ついていた九条間人の元に、明るい声がかけられた。

 

「九条くん!」

 

一之瀬帆波が、笑顔で手を振りながら近づいてきた。その後ろには綾小路清隆と神崎隆二の姿があった。

九条は一瞬、神崎の視線を感じて内心で小さく気まずさを覚えた。

 

(……神崎くん。まさか一之瀬さんと一緒に来るとは……。取引の件、気まずいな……)

 

表向きは穏やかな笑みを浮かべ、九条は立ち上がって軽く頭を下げた。

「一之瀬さん……お久しぶりです、僕のこと覚えてくれてたんですね」

 

一之瀬とは須藤の傷害事件騒動の際、情報収集の協力のため、二、三言程度会話した限りだ。それ以来は神崎との接触もあって顔を敢えて会わせないようしていたため、顔を合わせて会話するのは二度目になる。

一之瀬は屈託のない笑顔で九条の隣に腰を下ろした。

 

「勿論覚えてるよ!私こう見えて人の顔覚えるの得意なんだ!九条くん、Dクラスで大活躍したって綾小路くんから聞いたよ! 無人島試験、火事のときも冷静に対応して、みんなをまとめてくれたんだって? すごいね! Bクラスでも話題になってたよ、Dクラスの新しいムードメーカーが誕生したって」

 

彼女の声は楽しそうで、九条は少し照れくさそうに笑った。

 

「いえ、大したことじゃないですよ。ただ、みんなが慌てていたので……少し声をかけただけです。一之瀬さんこそ、Bクラスをしっかりまとめていて、さすがだなと思いました。190ポイント、クラスでの最高得点おめでとうございます」

 

一之瀬は照れくさそうに手を振った。

 

「えへへ、ありがとう。でも、九条くんみたいに目立たないところで頑張ってる人がいるからこそ、クラスがまとまるんだよね。島で鼻炎も大変だったのに、本当にお疲れ様!」

 

神崎は少し後ろに立ち、表情を硬くしたまま無言で九条を見つめていた。視線が微かに「余計なことは言うな」と警告しているように感じられ、九条は内心で苦笑した。

 

(神崎くん……相変わらず、俺のことを警戒してるな。一之瀬さんの前では、取引の件は絶対に触れないようにしないと……)

 

綾小路はいつもの無表情で、静かに二人の会話を聞いている。

九条は神崎の視線を意識しつつも、柔らかい笑顔を保って一之瀬に答えた。

 

「一之瀬さんは本当に優しいですね。Bクラスが羨ましいです。……これからも、特別試験で何かあったら、よろしくお願いします」

 

一之瀬は目を輝かせて頷いた。

 

「もちろん! 九条くんも何かあったら、遠慮なく声かけてね。DクラスとBクラス、仲良くしていこうよ!」

 

神崎は小さく息を吐き、軽く視線を逸らした。九条は内心で安堵しつつ、表向きは穏やかに会話を続けた。

ラウンジの柔らかな照明の下、三者四様の思いを抱えながら、和やかな会話がお開きになった。

 

 

 

 

 

綾小路清隆の視点

船内ラウンジで一之瀬が「九条くん!」と明るく声をかけると、俺は少し後ろに下がって様子を観察した。

九条間人。島では鼻炎で苦しみながらも、火事の混乱を冷静にまとめ、伊吹を牽制する発言までしていた。表向きは相変わらず「地味な優等生」の仮面を被っているが、行動の端々に計算の高さが滲み出ている。

特に、神崎の存在を意識した瞬間、九条の瞳が一瞬だけ微かに揺れたのを、俺は見逃さなかった。

 

(……神崎か。九条と神崎の間に、何かあるな)

 

神崎はBクラスで一之瀬の右腕格。九条が無人島試験中に神崎と接触していた可能性は高い。しかも、神崎の視線は九条に対して明らかに「警戒」と「苛立ち」が混じっている。九条の方も、神崎の存在を「気まずい」と感じているのが、微妙な肩の強張りでわかった。

一之瀬が無邪気に「九条くんDクラスで大活躍したって聞いたよ!」と話しかけると、九条は穏やかな笑顔で受け答えながらも、視線を神崎から微妙に逸らしている。

 

(九条は、神崎に何か弱みを握られている……?それとも、逆に九条が神崎を巻き込んでいるのか)

 

九条の言葉遣いはいつも通り柔らかく、控えめだ。だが、火事のときの「伊吹が怪しい」という牽制のタイミング、Dクラスを「自然に」まとめていた動き……すべてが計算されているように感じる。

 

(ただのDクラス生じゃない。目立たないよう振る舞いながら、クラス全体の空気をコントロールしている。しかも、神崎を意識しているということは……Bクラスとのパイプを持っている可能性が高い)

 

一之瀬が笑顔で「これからも仲良くしていこうよ!」と言うと、九条は柔らかく頷いた。

しかしその瞳の奥には、冷たい光が一瞬だけ過ぎった気がした。

 

(九条間人……お前は、何を考えている?Dクラスを本気で勝たせようとしているのか、それとも……別の目的があるのか)

 

俺は無表情のまま、静かに三人の会話を聞いていた。

九条の存在が、ただの「地味な優等生」ではなく、徐々に警戒の対象になりつつあった。

 

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