二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
豪華客船の甲板は、夕陽に染まって穏やかなオレンジ色に輝いていた。無人島試験が終わり、ようやく解放された生徒たちがあちこちで談笑している中、九条間人はフェンス際に一人で立っていた。鼻炎の症状が緩和され、軽く鼻を押さえながら海を眺めていると、後ろから聞き覚えのある足音が近づいてきた。
「おう、先生」
壬生憲剛が、いつもの薄い笑みを浮かべて近づいてきた。フェンスに肘をつき、ニヤニヤと九条の顔を覗き込んでいる。
「随分とDクラスで打ち解けたみたいじゃねえか。佐倉ちゃんにハンカチ借りたり、池とテント作ったり、女子テントの火事でみんなをまとめたり……先生、すっかりクラスメイトの人気者だな。さっきラウンジでも随分打ち解けたみたいじゃねえかよ」
九条は鼻炎テープを鼻に貼りながら、露骨に顔をしかめた。
「冗談じゃない。鼻炎テープ忘れるわ、散々だよ。二度とこんな試験ごめんだ。今回のクラス得点操作も運が良かっただけ。本気で体力的に無理だった……」
彼は小さくため息をつき、愚痴をこぼした。
壬生は低く笑ったが、すぐに表情を真剣なものに切り替えた。声を少し落として本題に入る。
「それより、先生。話がある。坂柳の件だ。あの女、龍園とも通じてAクラスの情報を漏らしてた。俺との契約を『様子見』扱いして、保険みたいに龍園とも繋がってやがった」
九条の瞳が一瞬、大きく見開かれた。
「……初耳だ。坂柳さんが龍園と……?」
「ああ。資料室で直接詰め寄ったら、平然と『あなたの腕前を見たかっただけ』とか抜かしやがった。食えねえ女だ。本気で次もふざけた真似したら、ただじゃおかねえって言っといたが……油断ならねえ」
壬生はフェンスを軽く叩いた。
九条は鼻炎テープを押さえながら、静かに頷いた。
「わかった……。それと、Dクラス内の件だけど……試験中に話した通り、俺以外に裏で動いている人間がいる可能性が高い。伊吹の行動がタイミング良すぎた。火事の件も、誰かが伊吹を誘導していたようにしか見えない。Aクラスのリーダー替えした結果の点数があれなら、おそらくDクラスを利する側に動いたんだと思うけど・・・まだ断定できないかな、どちらにせよ不確定要素だ」
壬生の表情がわずかに引き締まった。
「坂柳が二重取引してた以上、こっちの情報もどこまで漏れてるかわからねえしな・・・」
九条は海を見つめ、静かに続ける。
「ポイント還流計画も、見直す必要があるかもしれないな。今のままじゃ、思わぬところで足をすくわれる可能性が出てきた。無人島で175ポイントに抑えられたのは幸いだったが……次に同じような不確定要素が絡んだら、計画全体が狂う」
壬生は低く唸り、九条の肩を軽く叩いた。
「了解だ。俺もCクラス内でさらに警戒を強めておく。先生はDクラスでその『裏の人間』を少しずつ探ってみてくれ」
二人は並んでフェンスに寄りかかり、夕陽が沈む海をしばらく無言で見つめた。
九条は鼻炎テープの感触を確かめながら、胸の奥で冷たい決意を新たにしていた。
「壬生くん、加えてだけど大事な話だ。ずっと考えていたことがあってね・・・」
いつにも増して真剣な様子の九条に、壬生は目を細めて九条の顔を見つめる。
「良いぜ、先生」
九条は少しだけ微笑して話を続ける。
「還流計画自体はまだ有効だと思う。ただ……今のやり方だけじゃ限界がある。ポイントの融通だけじゃなく、次の段階を考えている」
壬生が興味深げに眉を上げた。
「次の段階?」
「ああ、次の段階だ。クラスポイントやプライベートポイントだけでは、所詮パイが限られる。結局は高度育成高等学校側の供給で決まるからね。龍園やAクラスの坂柳が積極的にポイントでの取引を始めてしまっている以上、食い合ってしまう可能性が高い。」
壬生が九条の懸念に同調する形で答えた。
「俺も同じことを考えてたよ先生、特に龍園や坂柳はとかく『そういうやり方』を好む性だからな。これからもポイント取引が活発化されたら、はっきり言って還流しても大した額にならないかもな・・・」
九条がニヤッと笑って話を続けた。
「そこでだ・・・取引の対象を、ポイントじゃなく『生徒の保護者からの現金』にシフトする。それなりに金持ちの保護者はこの高校には多い筈だ。ましてやAクラスという、どの進路にも子供を行かせられる魔法の切符の為なら、数百万、いや数千万はたく親がいたとて不思議ではない。だから、『校内テスト対策相談料』や『外部ネットワーク構築コンサルティング」といった名目で、直接現金を振り込ませる。そのために、口座開設と税金対策としてペーパーカンパニーを立ち上げる。表向きは教育事務の代行会社か何かで、実際は俺たちの資金ルートになる。まあ、名目上も決して間違ってはいないしね」
九条はフェンスに両肘をつき、淡々と説明した。
「ポイントのやり取りではなく、保護者からの現金でAクラスの昇格競争が活発になれば……本当の意味でこの学校の『実力主義』を地に堕とすことができる。表向きの競争は続いているように見せかけながら、実際は札束で叩き合う工作合戦とあるわけだ。完璧な欺瞞だろ?」
壬生は一瞬、目を丸くした後、腹を抱えて低く笑い出した。
「はっ……生徒の親から直接金を巻き上げるなんて、先生、人としてどうかしてるな。本気で笑えるわ。確かに保護者からの金となれば、ポイントと違って際限がない。しかも学校の『実力主義』を金で腐らせるって……最高に面白えな。でも口座の開設だけならともかく税金対策に会社まで立ち上げる必要はあんのか?」
「この高校、おそらく相当国からの予算が注ぎ込まれている筈だからね。上は何がなんでもこの高校の威信を維持したいと思う筈だよ。だからいざこれが学校側に知れた時に、どういうネタで引っ張ってこようとするかわからない。だから極力突っ込まれても大丈夫な体制は整えておく必要がある。いざ『上』と戦うときにはね」
彼は笑いながらも、楽しげに九条の肩を軽く叩いた。目には好奇心と興奮の色が浮かんでいる。
「了解だ。残りの夏休み、俺も本格的に動く。俺にとっても金を本格的に稼ぐいいチャンスだ。口座のルートもペーパーカンパニーも任せとけ。外にいる後輩の久我でも動かしてやってみるわ。龍園や坂柳の目をかいくぐりながらやるのは、なかなか燃えるねえ」
九条は小さく肩をすくめ、穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう、壬生くん。加えてやりたいことがあってね・・・過去の退学者との接触だ」
壬生は意外そうな表情を浮かべる。
「退学者?随分と話のベクトルが違う話じゃねえか?」
「ああ、この実力主義を腐らすために必要な話さ。この高校、随分と毎年退学者を出しているらしくてね。だからその仕組みこそが、例えAクラスを目指すモチベーションがない生徒でも、強制的に同じ方向を向かせる抑止力となっているわけだが・・・何のフォローも無しに毎年退学者を出してちゃ、流石に問題になってる筈だろ?おそらく編入でもさせてるんだろうけど、それを徹底して暴きたいんだ。そうすればこの実力主義を維持する抑止力すら機能しなくなり、いよいよ持ってこの高校の実力主義は機能不全に陥る。こっちは僕が中心に動くよ」
「なるほど、そういうことか・・・了解した。そっちの接触は先生と俺で一緒にやっていこう。先生の企み、どんどんスケールがでかくなってんな。これが実現できたら先生は天才だよ」
二人は並んで夕陽が沈む海を見つめ、静かに次の計画を共有した。
九条の胸中では、冷たい満足感とさらなる野心が静かに燃えていた。
(これで、学校のルールそのものを、もっと根本から食い破れる……)
南国の風が、二人の会話を優しく包み込んでいた。