二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
各クラスの生徒がそれぞれグループに振り分けられ会議室に集められ、船上特別試験『干支試験』の開始が発表された。
壬生憲剛は丑グループにあてがわれ、腕を組みながら会議室の端に静かに佇んでいる。ただその体格の大きさと、龍園にも負けず劣らない否応のない威圧感が、丑グループのメンバーの空気を支配している。
丑グループのラウンジに集まった生徒たちの前に、教師が現れルール説明を始めた。
「これより干支試験ルールを説明します。各グループには1人の『優待者』が選ばれています。優待者は自分から名乗り出ることもできますが、基本的に隠すことが推奨されます。 グループ内では話し合いによる情報交換が認められ、1日2回の議論タイムと自由行動時間があります。最終的に、優待者を特定して学校側に解答を提出してください。 正解・不正解により、プライベートポイントとクラスポイントが大きく変動します。詳細は配布資料を参照のこと。……以上です」
簡単に得点の獲得のパターンをまとめると以下のようになる。
結果1:最後に全員が優待者を正解 メンバー全員(+50万PP)、優待者(+100万PP)
結果2:最後に不正解が1人でもいる 優待者(+50万PP)
結果3:途中で単独で優待者を正解 優待者(-50CP)、回答者(+50万PP、+50CP)
結果4:途中で単独で優待者を不正解 優待者(+50万PP、+50CP)、回答者(-50CP)
説明が終わると、部屋の空気が一気に重くなった。
須藤健は腕を組んだまま、部屋の端に佇む長身の男を睨みつけていた。 壬生憲剛——その体格の大きさと、龍園にも引けを取らない否応のない威圧感が、丑グループ全体の空気を支配している。
「……チッ、てめえが龍園と対立してる壬生って野郎か。随分と余裕たっぷりじゃねえか、ええ?」
須藤は相手の底知れぬ気配に一瞬圧されそうになったが、すぐに目を鋭く細めて挑発的な視線を送った。池が慌てて「やめとけって、須藤」と制止するが、須藤は一歩も引かない。
壬生は須藤の視線を受け止めると、口の端をわずかに上げて軽く笑っただけだった。 挑発に乗るでもなく、ただ余裕たっぷりに視線を逸らし、壁に背を預ける。その態度が逆に須藤の苛立ちを増幅させたが、それ以上言葉を交わすことはなかった。
辰グループの会議室では、九条間人が静かに隅の席に座っていた。
教師によるルール説明が終わると、龍園翔が悠然と歩み寄り、堀北鈴音に声をかけた。
「よう、鈴音。久しぶりじゃねえか。良い天気だな」
堀北は即座に冷たい視線を向け、剣呑な声で切り返す。
「はあっ、下の名前で呼ぶんじゃないわよ、気持ち悪い」
二人の間に、火花が散るような緊張感が走った。 周囲の生徒たちが息を呑む中、九条は穏やかな表情を保ったまま、静かにそのやり取りを観察していた。
(龍園くん……相変わらず、堀北さんを狙っているな。 しかも、ただの嫌がらせではなく、心理的な揺さぶりをかけている……)
九条の瞳は冷たく、二人を淡々と分析し続ける。
「そんなことより聞かせてくれよ鈴音、無人島でどうしてあんな結果を残せた?伊吹からの報告だとお前が動いた形跡はなかったそうだ。」
ぴくりと九条の眉が動く。それは九条自身も気になっていたことだったからだ。特にあの放火、あれだけは伊吹がやったとは考えにくい。素知らぬ顔をしながら会話に耳を側立たせる。
「そこまで見抜かれるほど私は甘くないわよ」
恐らくそれは嘘だろう、あの体調不良はブラフなんかではない、あの状況で搦手を実行できる余裕など無かった筈だ。
「お前みたいな真面目ちゃんにできる芸道じゃねえんだよ、もちろんそこにいる腑抜けどもにもな」
龍園は九条含めた他のDクラスのメンバーに対して言葉を放つ、九条はただ黙って会話を聞いているだけだ。
「随分とDクラスに執着するのね」
「葛城も一之瀬も実力の程は知れた、俺の敵じゃねえ」
そう言い残し、龍園は悠然と去っていった。 だが龍園はまだ知らない。人間はときとしてとてつもない変化をするものだということ、そして化け物はすぐそばにいるということを・・・・
グループの初顔合わせが終わり、各々が一旦解散した後。
Dクラスが集まっているエリアに戻ると、無人島試験ですっかり親しくなった池が、九条の肩を軽く叩いてきた。
「おい九条、さっきの丑グループにいたCクラスの壬生ってやつ、見るからにヤバそうだったぜ! 須藤も睨み合ってたみたいだし、絶対トラブル起こす予感しかしねえわ!」
池は興奮気味に話しかけてくる。
九条は内心で苦笑しつつ、表面上は穏やかな笑顔を崩さずに同調した。
「確かに……龍園に負けず劣らずの迫力あるね。Cクラスの中でもかなり目立つタイプだし、気をつけた方が良いかも・・・こっちも龍園が絡んできて一触触発だったよ」
「マジか!そっちも大変だな九条!」
(壬生くん……相変わらず目立つな)
九条は内心で小さくため息をつきながら、知り合いであることを一切匂わせず、自然に会話を流す。
船上試験はまだ始まったばかりだったが、各クラス・各生徒の思惑が静かに交錯し始めていた。
丸一日経った後、甲板の端に立っている九条に対し、珍しく壬生が焦った様子で声を掛けてきた。
「先生今一人か?まずいぞ、龍園のやつ、Cクラスのメンバーに指示して優待者を申告してやがる」
九条も顔に焦りを見せ、思考をフル回転させる。
(交渉や買収で優待者を特定した?いやそれにしては流石に早すぎる。この短時間で他グループの交渉を出し抜くなんて恐らく不可能だ・・・いや待てよ、ひょっとしたら・・・)
九条は壬生に声を顰めて壬生に頭に浮かんだ重大な懸念を伝えた。
「壬生くん、僕は・・・いやというよりも他のメンバーのほどんどが、これは交渉をメインにポイントを獲得する人狼ゲームのようだと思い込んでいたが・・・優待者はランダムじゃない。何かしら法則があって、それを龍園は見抜いた可能性が高い。ひょっとしたら僕らは龍園のこと、相当見くびっていたかも知れない・・・」
壬生は少し笑いながら答える。
「マジかよったく・・・狡い手ばかり使うチンピラの類いかと思ってたが・・・もっと奴を警戒するべきだったかもな。先生、これからどうする?」
九条は少し考え込む。
「・・・壬生くん、正直この試験はCクラス、というより龍園の一人勝ちだ。法則を見破った以上、恐らく彼の采配でこの試験の結果はどうにでも出来てしまうだろう。言ってしまえば他クラスはもはやまな板の鯉のような状態だろうね。こうなれば交渉そのものが無意味と化してしまう。強いて何かできる余地があるとすれば・・・優待者がCクラスのグループである場合のみだ」
「なあ先生、俺がわざと誤爆して少しでもCクラスの勝ち逃げを抑えるというのはどうだ?」
「いや、派閥で対立してると言っても、あからさまに自グループの足を引っ張るような真似をすれば、確信的に龍園に工作してると疑われるから止めた方がいいと思う。やれることと言えば・・・僕らがCクラスの優待者を見つけ出して、他のクラスのメンバーに当てさせるぐらいしかない。余り時間はないが壬生くん、悪いけど協力してくれ」
珍しく二人に緊張が走る。
(恐らくこの試験は「負け筋」。ただどこまでそれを抑えるか、よくよく考えないと・・・)
九条はそう思案しながら、次の戦略について頭を巡らせていた・・・