二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
議論タイム終了後の自由時間、船内の休憩スペースの一角で堀北鈴音と綾小路清隆が向かい合って座っていた。
堀北は腕を組んだまま、珍しく苛立ちを隠しきれない様子でため息をつく。
「……信じられないわ。九条くん、今日の議論タイムで突然ゲームキューブを持ち出して『スマブラでもしませんか?』ですって?本気で呆れた。龍園がいる中で、あんなふざけた提案をするなんて……。Dクラスのイメージを下げているだけじゃないの?あれじゃあ3バカならぬ4バカよ・・・」
綾小路は酷い言われようだなと内心思いつつ堀北の愚痴を聞き続ける。
彼女は眉を寄せ、吐き捨てるように続けた。
「これまでただ目立たず振る舞っていたのに急に積極的になって……しかも議論を放棄して『夏休みを満喫しましょう』だなんて。完全にスタンドプレーよ。いったい何を考えているのかしら」
堀北の声には、驚きと苛立ち、そして明確な不信感が混じっていた。九条に対する認識が、ここ数日で大きく揺らいでいるのがはっきり伝わってくる。
隣に座っていた綾小路清隆は、無表情のまま静かに聞いていた。
内心では、冷たい警戒心がさらに強まっていた。
(九条……ますます怪しいな)
綾小路はこれまでの九条の行動を思い返していた。
無人島での伊吹への牽制、火事の対応、Bクラス神崎への反応、そして今回の干支試験での大胆な提案。
どれも「ただの一クラスメイト」がする行動とは思えない。
(ゲームを持ち込んで場を和ませる?表向きは息抜きと言いながら、実際は皆の緊張を解いて油断を誘っているのか……それとも、何か別の計算があって、グループの主導権を握ろうとしているのか)
綾小路の視線が、遠くで櫛田と談笑している九条の姿に向けられた。
(堀北が驚くのも当然だ。九条間人……お前はDクラスで何を企んでいる?この試験で、ただの調整役を演じているわけじゃない。もっと大きな何かがある……)
堀北が苛立った様子で言葉を続けた。
「綾小路くん、あなたはどう思うの? 九条くんのあの態度」
綾小路は静かに答えた。
「……まあ、確かに変わってるな」
内心では、九条に対する警戒レベルを一段階上げていた。
(今後、もっと注意して観察する必要がありそうだ)
休憩スペースに穏やかなBGMが流れる中、二人の会話は静かに続いていたが、綾小路の胸中は冷たい緊張感で満ちていた。
一方、九条間人が平田洋介と一緒に会議室から出て甲板方面に向かっていると、池寛治、山内春樹、櫛田桔梗、佐倉愛里の4人が偶然合流してきた。
「おっ、九条! 平田も! どうだった? 辰グループの議論タイム」
池が早速、興味津々で聞いてくる。
九条は穏やかな笑みを浮かべ、少し困ったように首を傾げた。
「ええと……実は、議論タイムでゲームをやることになりました」
「ゲーム!?」
山内が目を丸くした。櫛田と佐倉も驚いた顔で九条を見つめる。
九条は苦笑しながら続けた。
「はい。議論が膠着しそうだったので、ちょっと息抜きに……ゲームキューブを持ち込んで、スマブラをやったんです。僕と櫛田さん、それからCクラスとBクラスの人たちと」
その発言に、池が一瞬固まった後、腹を抱えて大笑いした。
山内が被せるように大声で言った。
「ゲームキューブかよ、懐いな! おいおい、九条がマジでスマブラやってたのかよ!?」
池がさらに笑いを加速させる。
「ぶはっ! ははははっ!あんなメンツの中にいてスマブラしてたのかよ!?
龍園とか堀北さんとか葛城とか堀北がいる中で、マリオかリンクか何か操作してたってこと!?想像しただけでヤバすぎるわ! 九条、お前マジで度胸あるな!」
山内も遅れて大笑いし、櫛田がくすくすと笑いながら言った。
「本当、びっくりしたよ〜。九条くんが突然コントローラー出してきたときは、みんなポカーンとしてたもん」
平田は少し眉を顰めながら九条の肩を軽く叩いた。
「九条くん……流石にヒヤヒヤしたよ。もうちょっと控えてくれないと、僕まで胃が痛くなる……」
池がすぐに平田を茶化すように言った。
「ははっ、相変わらず固いな〜平田! 少しはリラックスしないと!」
九条は少し笑いながら、池の言葉に被せる。
「そうそう、あんな濃いメンバーで真面目にずっと議論してる方が、息が詰まるし」
池はすぐに同調して大きく頷いた。
「だろだろ! 九条の言う通り! むさ苦しい話し合いばっかしてたら頭おかしくなるわ!」
佐倉は心配そうに九条を見る。
「九条くん、大丈夫だった……? なんか怒られなかった?」
九条は肩をすくめ、穏やかに答えた。
「まあ、堀北さんには少し呆れられましたけど……皆さんも少しリラックスできたみたいで良かったです」
池はまだ笑いながら九条の肩をバンバン叩く。
「ははっ、最高だよ九条! お前、意外と度胸あるじゃねえか!龍園の前でスマブラとか、普通に考えてありえねえって!」
九条は苦笑しながらも、内心では冷静に状況を整理していた。
「そういえば、そちらのクラスの壬生くんでしたっけ?彼の様子はどうでしたか?」
池は笑いを抑えて真剣に向き直る。
「ああCクラスの壬生か。Cクラスで龍園と対立してるって話だが・・・静かなもんだよ。一度も議論タイムで発言せずただ壁際に立ってるだけ。今までも対立してるってだけで基本は龍園の方針には従ってるだけみてえだし、何考えてるかわからない分いっそう気味悪いぜ」
相変わらずの壬生の存在感に内心苦笑しつつも、九条は冷静に辰グループでの龍園の振る舞いを分析していた。
(あの状況で龍園は大した追求をしてこなかった・・・仮に優待者が特定できていなければもっと圧力を掛けてきてたはず、既に櫛田さんが優待者であることはほぼ確で確定だな。やはり優待者の法則があって、それを既に見抜いているのは確かだ・・・壬生くんと合流して今後の方針について話しておく必要があるな・・・)
そして優待者がどういう法則で選ばれているのか、既に九条は頭をフル回転させて思案していた。
干支試験2日目の深夜、九条間人は再び甲板の人気のない場所で壬生憲剛と合流した。
壬生は手すりに寄りかかり、呆れたような顔で九条を見た。
「先生……スマブラとか何やってんだよ。本気で聞いてんだ」
九条は鼻炎テープを軽く押さえ、苦笑しながら説明した。
「実は、あの提案には理由があってね・・・龍園の反応を探りたかったんだ。今ゴタゴタ議論したって意味がない、話するのは最後の日にしようと言って議論を放棄したら、……龍園がどう動くか、ある程度見えると思った」
壬生が興味深げに眉を上げた。
「で、どうだった?」
九条の表情が少し引き締まった。
「龍園は僕の提案を深く追求してこなかった。ただ軽く笑って流しただけだ。あれは、間違いなく優待者の法則を既に把握している証拠だと思う。法則を理解していなければ、もっと追求してグループ全員の反応を探ってくる筈だよ、クラス対抗を考えるならPPははっきり言って大した意味は無い、遥かに貢献度の高いクラスポイントを獲得できる結果3を目指してくる筈だろうからね」
壬生は低く唸った。
「なるほどな……。先生の読み通りか」
九条は頷き、さらに重要な情報を伝えた。
「それに、もう一つ大きな収穫がある。辰グループの優待者は……櫛田さんだった。彼女が平田くんと僕にだけ、こっそり明かしてくれた」
壬生の目が細くなった。
「櫛田か……。俺の方も派閥の人間から聞いたぞ。巳グループの優待者はCクラスの『小宮』だ」
九条はすぐに思考を巡らせ、静かに言う。
「櫛田……小宮……。ちょっと待ってくれ。壬生くん、小宮くんがいるグループのメンバー全員の名前を教えてくれ。少し船内で話そう、座って話したい。」
船内のラウンジに移動し、間接照明が照らす中、紙にグループ全員の名前を書き下し、思案する。
「子、丑、寅、卯、辰・・・そうか、ははっ」
九条は頭をかいて笑った、存外単純な法則で優待者が決められていたことが分かったからだ。
「分かったよ壬生くん、思った以上に単純な法則だったよこれ。グループのメンバー名を五十音順に並べて、干支の順番に対応する位置の人間が優待者だ。巳グループの小宮、辰グループの櫛田……このパターンで合っているはずだ」
壬生はニヤリと笑い、九条の肩を軽く叩いた。
「確かに言われてみれば至極単純だな、龍園の野郎がすぐ気づけたのも納得がいく」
九条は苦笑しつつも、瞳には鋭い光が宿っていた。
「壬生くん、とは言え龍園はやっぱり頭は相当キレるよ。普通優待者が一定の法則で当てがわれてるなんて気づかないし、確証も無いままでその法則を解くのも、恐らく丸一日も掛かってない。僕らは龍園の動き出しが早過ぎるからこうして気づけてるわけだしね・・・」
壬生は九条の龍園の評価に渋々ながらも首肯した。
「確かにな・・・この試験に関しちゃ奴に軍配を上げざるを得ねえかもな。ただ気になっているが、優待者申告の指示が思ったより少ねえんだよ。分かっちまえば全グループにさっさと指示してしまって、結果3でクラスポイント獲得し、Cクラスが一人勝ち出来るのにだ」
壬生の疑問に九条も同意する。
「辰グループでも龍園の振舞いに対して同じことを思ってたよ、龍園はあの性格上無駄なことはしない。僕の提案は暗に皆で結果1を目指そうというものだったけれど、それを言い出す前から真面目に議論しようとしてたからね・・・」
九条はしばらく考え込んでから口を開く。
「考え過ぎても仕方ないな。希望的観測にすがる他ないけど、壬生くん、Aクラスの誰かにCクラスに優待者がいるグループで、優待者が誰かを密告してくれないか?壬生くんのグループでそれをやると流石に敵対行動とバレるリスクが高いから、他のグループでだ、どういう形でも良い。僕は神崎にCクラスの一人勝ちになる可能性があること、伝えようと思う」
「分かった、こっちは任せろ先生」
二人は短く視線を交わし、夜の海を背に次の行動へ準備する。九条の胸中では、冷たい興奮が静かに燃え上がっていた。
(龍園・・・認めるよ。この試験は君のものだ。だがどういうつもりかは知らないけど、余計な情けを掛けるべきじゃなかったと思い知ることになるよ・・・)