二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
高度育成高等学校の夏休みも残り半分を切った頃。
九条間人は、壬生憲剛に連れられ都心から少し離れた閑静な住宅街にある自動車整備工場の一角を訪れていた。
執務室の中には、すでにノートパソコンと複数の書類が広げられていた。迎えてくれたのは、壬生の地元の後輩だという久我という少年で、いかにも輩と言った風体だ。
「先生、こいつが久我だ。昔から俺の面倒を見てくれてる後輩でな、先生が頼んでた仕事をこいつに一式任せてる」
壬生が軽く紹介すると、久我はややぶっきらぼうに挨拶した
「久我です。壬生さんから話は聞いています。……例の『教育コンサル』立ち上げの件っすね。今から説明するんでこちらへどうぞ」
九条は穏やかに微笑み、頭を下げた。
「九条間人です。突然の依頼で申し訳ありません。壬生くんから信頼できる人だと聞いたので、お願いします」
三人はテーブルを囲んで座り、早速本題に入る。
久我がPCの画面を映しながら説明を始めた。
「今、『エデュケイト・コーポレーション』という教育業務代行の法人を立ち上げてます。ホームページは簡単ではありますが一応こちらに作ってます。まあはっきり言ってあくまで建て付けだけの話なので、管理は最低限で済むよう大して作り込みはしてませんね」
そこには簡単ではあるが教育コンサル事業を手掛けている会社のホームページが載っていた。業務内容は教育プログラムの発案・実行支援・教育事務の代行などだ。加えて代表者と連絡先が載ってある。
「生徒の保護者から直接現金を受け取るための窓口はこちらです。ネット銀行の法人の口座開設なんで、すぐ出来ましたよ。」
壬生が腕を組んで笑った。
「先生の言う『保護者からの現金取引』だな。学校のルールを完全にすり抜ける。久我、お前ならこの辺りの書類の作りこみは問題ないよな?」
久我は眼鏡を軽く押し上げ、冷静に答えた。
「登記関係は問題ないっす、ここの住所を素直に載せてます。あとは最悪凍結された時のためにいくつか予備で口座は開設してます。あと保護者との契約のための書面なんですが、『高育』に関連する記載は一切出さず、あくまで『高校生向けの学習サポート』という名目での書き振ぶりになっております。九条さんの言うとおり、万が一にも詐欺罪を吹っ掛けられた時のためです。」
九条は小さく頷き、静かに言った。
「ありがとうございます。僕と壬生くんは学校に縛られているので、外部の調整は久我くんに大きく頼ることになります。報酬はしっかり出しますので、慎重に進めてもらえますか?」
久我は真剣な目で九条を見つめ、深く頭を下げた。
「わかりました。壬生さんのダチの頼みなんで、全力でやります」
壬生がニヤリと笑って九条の肩を叩いた。
「ほら、先生。久我は口が堅いし、頭も切れる。しかしまあ、もうちょいそれらしいところ借りれなかったのかよ久我?教育コンサル会社がこんな片田舎の自動車整備工場なんてなあ」
九条は壬生を見ながら苦笑する。
「いいよ壬生くん。登記上の住所が実業とかけ離れた場所にあるなんてざらだし、そういう意味では僕らの会社の方が遥かに健全だよ。ああそれと久我くん、個人事業主の契約がスムーズに行えるよう、準備もお願いします。これから手駒を増やすにはそれなりに必要になってくるので」
これから工作を本格化する上での保険のため、壬生や九条のもとで働くメンバー分は全員個人事業主の登録をするよう計画している。それこそ万が一脱税という観点で突かれた場合、しっかりと税金を納めていることを証明するためだ。基礎控除を遥に上回る金を手にする可能性がある以上、この辺りについて手を抜くことは許されない。
「わかりました。あ、そういえば新しく焼肉屋できたみたいなんで、九条さん今から一緒にどうっすか?」
「久我くん、悪いけどちょっとこれからうちの高校の『退学者』と接触しなくちゃならないんだ。夏休みも残り少ない、今のうちにやれることはやっておかないとね」
壬生は軽く笑って九条の肩を叩く。
「先生も随分忙しいんだな、まあいいや。俺は久我と焼肉行ってくるから、また機会があれば一緒に行こう」
「そういえば壬生くん、宿題は大丈夫なの?」
「・・・うるせえ」
後日、退学者複数人との接触を終え、その結果を壬生と共有した。
「壬生くん、思ったとおりだ。皆は退学と呼んでるけど、名目上は『編入』だよ。いくら先進的な教育制度のためとはいえ、国公立で『本当に』ホイホイ退学者が出るような高校だったら、社会的にも問題になってる筈だからね。成績不振や特別試験で『退学者』が出た場合、これはOAAではなく純粋に学力で編入先の学校が紹介されるらしい。この辺りの対策をまとめて共有すれば、きっと高育の『実力主義』の抑止力を崩す一手となる」
壬生は興味深そうに九条の話に耳を傾ける。
「なるほどな。この対策についても俺たちの金稼ぎの一手にしてみるか。ただしポイント獲得の工作よりも良心的な値段でだ。あくまで相談は無料、具体的な対策については有料って形でな。こうして考えると俺たちの方がある意味高育のセンコーどもよか、よっぽど教育者らしいことやってる気がしてきたわ」
九条が皮肉混じりに笑う。
「みなこの実力主義の学校の中でどっぷり浸かっているから気づかないけど、世間一般からしたら相当ズレてる環境に置かれてるんだよね。その摩擦をどうこの高校が回避して、一般社会と折り合いをつけて行ってるか、それに気づけば思いもよらないところでこのシステムの隙をつくことができる。」
壬生と九条が話している途中、スマホからメッセージの通知が来ていた。
「誰からだろ?あれ、佐倉さん?」
控えめに、夏休み終わる前に無人島で仲良くなったメンバー、池や櫛田、山内と一緒にご飯食べないかという誘いのメッセージが来てた。
「あああの無人島で仲良くなったメガネの女子か。良いねえ〜青春だね先生」
壬生はそのメッセージを覗き見ると、半ば揶揄うように面白そうに笑う。
「茶化すなよ壬生くん、これから忙しくなるし普通に断るよ」
だが翻って壬生は真面目な声のトーンで九条に釘を刺す。
「行ってこいよ先生、どうであれ貴重なクラスメイトとの交流だろ?いつまでこの高校にいれるのかも分かんねえんだからさ俺たちは」
壬生の意外な提案に九条は一瞬目を丸くした。
「まさか壬生くんにそんな風に気を遣われるとはね・・・わかった、行ってくるよ。準備の方、久我くんとよろしく頼むね」
そう言ってその場は解散し、九条は日が沈む中足早に家に帰った。帰る道中、なぜか壬生の言葉が頭に反芻するも、「これからこの高校を壊そうって時に何言ってんだか」とやや自嘲気味に発した独り言が、誰に聞かれることなく虚空に消えていった。
「おーい九条、こっちこっち!」
高育近くのチェーン店の焼肉にて、既に九条以外のメンバーが揃っており、池や山内、櫛田、そして佐倉が席に着いていた。
「いや〜最近連れない九条くんも、愛しの佐倉ちゃんからの誘いなら絶対乗ってくると思ったぜ!池、ナイスアイデアだったな!」
「ちょっと山内くん!?」と佐倉が顔真っ赤にしてアタフタし、それを見て櫛田や池も楽しそうに笑っていた。
「揶揄わないでよ、別に池くんや山内くんの誘いを無碍にしたつもりはないんだってば・・・」
やや呆れるように流そうとする池が肩を組み、「まあ良いじゃん、ほら佐倉ちゃんの隣に座らせてやるからさ」と半ば強引に席を案内され、渋々座った。
「では我ら無人島組の再会を祝して!乾杯!」
池の音頭で、ソフトドリンクを片手に皆で乾杯する。その後、無人島や豪華客船での干支試験のことなどで話が盛り上がり、和やかな雰囲気をテーブルが包んだ。
「いやあ〜無人島での九条の顔、今思えばめちゃくちゃやばかったよな!あの時は本当に心配してたけど、今思うと・・・ククッ、ああやば、また笑いそうになってきた」
「また掘り返さないでよ山内くん、それに心配してたとか絶対嘘でしょ」
「いやいやマジだって!でも羨ましいな〜佐倉さんと仲良くなったのはそれがきっかけ?」
山内が切り出した無人島での話や、また豪華客船での話も盛り上がった。
「でも九条くんすごいよね〜龍園くんや葛城くんがいる中で、グループでの議論の主導権全部持って行っちゃってたんだから!堀北さんがすっごく怒ってたのも、ちょっと面白かったし」
櫛田が楽しそうに笑い、池がそれに同調する。
「ゲーム大会しようとか、あの時マジで九条がどうかしちまったかと思ったぜ!でも良かったよな、あれが発端で結構他のクラスの連中とも仲良くなってさ」
池の発言に九条はぴくりと眉を動かす。池を中心に友人関係がクラスを超えて広がっているなら、それを使わない手はない。九条の頭の中で冷たい思考が回る。
「へえ〜あの後も連絡定期的に取り合ってるんだね。池くん、また僕にも紹介してよ、結構スマブラは得意だからさ」
九条の頭の中でそのような打算が回っているとも露知れず、池は屈託ない笑いで答える。
「おう!そりゃ九条のおかげみたいなもんだからな!週末にでも定期的にやろうぜ!」
池に純心な笑顔を向けられ、やや心の奥底で罪悪感がちくりと心を刺す九条ではあったが、見ないふりをしてまた会話の輪に溶け込んでいった。
「じゃあまたなみんな!もうすぐ学校始まるけど、そんときも集まろうぜ!」
池の声掛けで解散し、皆が寮に帰宅する。九条も買い出しに寄ろうと足を向けたところ、佐倉がやや震える声で九条を呼び止める。
「九条くん!あの・・・ちょっとまだ良いかな?少しだけお話ししたくて・・・」
やや遠慮がちにも力のこもった声で呼び止められ、九条も流石に無碍にはできないと思い、その誘いにのった。
「良いよ佐倉さん、じゃあそこのカフェで少しゆっくりしようか?」
そのまま二人はカフェに入り、九条はブラックコーヒー、佐倉はロイヤルミルクティーを頼み、向かい合って座る。
「そういえば無人島の時は色々助かったよ、ハンカチもそうだけど、ほら下着の件でみんなに疑われた時とかさ、あのままだと精神的にかなりきつかったし」
「ううん、私がやれることをしただけだから。それと九条くん、もし違ってたらごめんね?九条くんはこの学校のこと、余り良く思ってないのかなって・・・」
コーヒーを飲んでいた九条の手が止まった。九条にとって核心をつく言葉だっただけに、止めざると得なかった・・・
「佐倉さん、どうしてそう思ったのかな?いや責めてるわけじゃなくてさ、純粋にそう思っただけで・・・」
佐倉が九条の問いかけに対し、ゆっくりと答えた。
「九条くんは無人島や干支試験でもみんなをまとめてくれたし、勉強もよく見てたんだけど・・・一番Aクラス昇格を目指してる堀北さんとちょっと距離があるように思ってて・・・ごめんね、ただの邪推でこんなこと言って・・・」
佐倉のその疑問について追求することなく、九条は静かに言葉を紡いだ。
「良いよ佐倉さん。俺も正直、みんなが仲違いしてまでAクラスを目指したいなんていう強い動機はないんだ。それに平田くんみたいな良い人が消耗していくのも見てて辛いからね・・・佐倉さんもそう思ってるのかな?」
少し間をおいて佐倉が、ポツポツとだが言葉を発した。
「うん、正直私、皆についていくのが必死で・・・体を動かすことだけじゃない、勉強の方だって実は必死に頑張ってもギリギリで。それに行事ごとでずっと特別試験があって気が抜けないような状態が続いたら私・・・想像したら耐えられそうになくてっ・・・甘えだって分かってる、でも好きなことにも時間が使えなくてっ・・・」
佐倉が涙ながらに九条に心の奥底を打ち明けた。やはりこの高校のシステムは残酷だ。本当に競わせたいなら、わざわざ「多様な」人材を入学させず、体力にしろ学力にしろ一定の線引きをしてから入学すればいい。なのに最初から無理がある学生を入学させ、こうして精神を消耗させている・・・
「ごめんね九条くん、私・・・九条くんになら理解してくれると思って・・・本当に勝手だよね?」
そう言って涙を拭う佐倉。九条は静かに手を置いた。
「大丈夫だよ佐倉さん。辛いときは僕だけじゃない、他の人にも相談すれば良い。それに・・・きっとこの学校だって変わってくるよ」
(まだ僕らの計画を打ち明けるのは早いな)と内心思いながら、佐倉には優しく声を掛ける。
(決して流されたわけじゃない。でもこうやって犠牲になってる子も少なからずいる以上、やっぱり僕たちがやろうとしていることは間違いじゃない・・・)
内心そう心に強く思いつつ、佐倉の境遇に同情する「フリ」をして、帰りを促す。
「そろそろ夜も遅くなるし帰ろうか?もうすぐ学校も始まっちゃうからね。また週末にでもみんなで集まって、その時はクラスポイントとかそんなこと忘れて楽しもう」
佐倉を落ち着かせながら席を立ち、寮まで二人で帰った。セミの鳴き声も小さくなり、夏の終わりを匂わせていた・・・