二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜)   作:きんぴら大根

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「実力主義」への疑義

春の陽射しが次第に強さを増し、入学から一ヶ月が過ぎた頃。

Dクラスの教室は、すでに中間試験の空気に包まれていた。原作通り、というより、この学校の“普通”として、堀北鈴音はいつものように冷たい視線を教室の後ろの方へ向けていた。須藤健、池寛治、木村拓也ら運動系男子の成績が、入学時の基礎学力テストの結果から想像できた通り、危うい水準にある。堀北は彼らを「足を引っ張る存在」と見なし、勉強会の主宰を平田洋介に任せつつ、自らも指導に乗り出していたが、須藤の反抗的な態度と、堀北の容赦ない指摘がぶつかり合うたび、教室の空気がピリピリと張りつめていた。

 

「須藤くん、もう少し真剣にやってくれない? このままじゃ本当にクラス全体が……」

 

堀北の声が尖る。須藤は机に突っ伏したまま、苛立ったように舌打ちを返す。平田が慌てて間に入るが、すでに何度目かの衝突だった。

九条間人は、そんな光景を窓際の自分の席から、静かに観察していた。

 

(……またか。人間関係の軋轢が、勉強以前の問題になってるな)

 

彼は内心で小さくため息をついた。入学当初から目立たないよう振る舞ってきた九条だが、クラスメイトたちの動向は細かく見ていた。特に、堀北と須藤グループの対立が、ただの勉強会で爆発しそうな気配を察知すると、胸の奥に重いものが沈むのを感じる。

 

(このまま放っておけば、単なる成績の低迷じゃ済まない。信頼関係が壊れて、後のクラス戦で致命傷になる可能性が高い。……俺が、少しでもフォローするしかないか)

 

九条はそう判断した。堀北たちとは別々に、須藤ら運動系の面々を対象にした勉強会を、放課後や休み時間に小規模で開くことにしたのだ。堀北の勉強会は堀北のペースで進めさせ、自分は「補習役」として須藤グループに特化して教える。直接対面させないことで、衝突を最小限に抑える算段だった。

しかし——。

 

「九条、すまん……マジでわかんねえよ、これ」

 

須藤が頭を抱え、教科書を睨みつける。九条は穏やかな声で説明を繰り返す。

 

「大丈夫です、須藤くん。一つずつ分解して考えましょう。ここは基本から……」

 

丁寧に、でも会話の流れで少し砕けた口調でフォローする。池や木村も隣でノートを握りしめ、必死に食らいついてくる。九条は彼らのペースに合わせ、基礎の基礎から丁寧に教えていた。堀北の勉強会とは完全に別日程・別場所で、九条一人で回す形だ。

だが、限界はすぐに訪れた。

 

(……これは、厳しい)

 

九条の胸中で、静かな苛立ちが渦巻いていた。

入学時点での基礎学力の差が、想像以上に大きすぎた。須藤たちは中学時代から勉強をほとんど放棄していたようで、高校の授業についていくための土台自体が、ほとんど存在しない。九条自身は、普通の高校レベルの予備知識を当然のように持っていた。それが、この学校の「Dクラス」では、まるで異次元のように浮いていた。

 

(この差は、ただの個人差じゃない。この学校の入試システム自体が……おかしい)

 

九条は内心で、強い疑義を抱いていた。

高度育成高等学校。表向きは「全国から優秀な人材を集め、未来のリーダーを育てる」エリート校として宣伝されている。だが、現実は違う。入学時の学力テストでクラス分けされ、Dクラスに回された生徒たちの多くは、基礎学力が致命的に低い。まるで「育てる」という名目で、最初から格差を意図的に作っているようにさえ思える。

 

(堀北さんたちは一生懸命やっている。須藤くんたちも、努力はしている。でも、このスタートラインの差を、たった数ヶ月の勉強会で埋められるはずがない。……この学校は、本当に「育成」しているのか? それとも、ただの選別装置なのか?)

 

九条の視線が、須藤の震える手元に落ちる。説明をしても、すぐに忘れ、似た問題でまたつまずく。九条は笑顔を保ったまま、再度最初から教え直すが、心の中では冷たい疑問が広がっていく。

 

(壬生の奴は今頃、Cクラスで龍園とやり合ってるんだろうな。あいつも、似たような思いを抱いてるかもしれない。でも俺は……ここで、ただ見てるわけにはいかない。)

 

九条は静かにペンを走らせ、須藤のために簡略化したまとめノートを作成しながら、胸の内で決意を固めていた。

この学校の“ルール”に、強い疑義を抱きつつも——彼は、目立たないまま、静かに動き続けようとしていた。

 

 

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そして、試験問題の変更など、大きなトラブルにも見舞われつつ、中間試験を迎えた。

 

綾小路清隆の機転が、すべてを救った形だった。須藤健たちの答案が危ういラインに達した瞬間、綾小路が裏で手を回し、平田洋介の勉強会と九条の別動フォローを組み合わせた形で、Dクラスは辛うじて全員合格を果たした。堀北は「私の力ではない」と冷たく言い放ち、須藤は「マジで助かったぜ……」と頭を掻きながらも、どこか不満げだった。教室全体が、ほっと胸をなで下ろすような空気だった。

だが、九条間人は一人、窓際の席で静かに違う感情を抱いていた。

 

(……これでいいのか?)

 

中間試験を「乗り切った」事実は、彼の中で学校の選別システムに対する疑念を、決定的なものに変えていた。綾小路の機転、堀北の指導、須藤たちの努力、そして自分自身の補習——すべてが、ただ「この学校のルールに適応するための苦闘」に過ぎない。入学時の学力格差、クラスポイント制度、私的ポイントの変動、そして三年後の「Aクラス卒業=エリート待遇」という報酬構造。すべてが、意図的に作られた競争と淘汰の装置にしか見えなくなっていた。

 

(この学校の存在意義自体が、欺瞞だ。生徒を「育成」する名目で、ただ階層を固定し、勝者と敗者を分けるだけ。こんなゲームにいつまで消耗させられるんだ?)

 

九条はスマホを握りしめ、以前からの知り合いである壬生に、短いメッセージを送る。

 

《今夜、校舎裏のいつもの場所で。話がある。》

 

夜の校舎裏。街灯の薄い光の下で、二人は久しぶりに顔を合わせた。九条は相変わらず目立たない制服姿で、穏やかな表情を崩さない。壬生はCクラスの制服を少し乱し、肩を回しながら近づいてきた。

「よう、先生。入学してから初めての密会だな。龍園の野郎と毎日睨み合ってる俺に、何の用だ?」

 

壬生の声は低く、笑みを浮かべているが、目は鋭い。九条は軽く肩をすくめ、いつものように少し砕けた敬語で切り出した。

 

「壬生くん……この学校のシステムを、壊したいとは思いませんか?」

 

「はっ、なんだよいきなり」

 

壬生の眉がピクリと上がる。九条は静かに続けた。

 

「Aクラスを目指さない。クラスポイントをわざと還流させて、私的ポイントに変換し、現金化する。それを、現AクラスかBクラスと取引の上でやるんだ。学校が一番嫌う『ルールの抜け穴』を、俺たちで作る。競争そのものを無意味にすれば、この選別装置は機能しなくなる。……Aクラスなんぞを目指すよりよほど面白いゲームになりそうだけど?」

 

壬生は一瞬、目を細めて九条を見つめた。Cクラスで龍園翔と毎日対立し、派閥を形成しつつある彼にとって、この提案はまさに「破壊」の匂いがした。

 

「はっ……面白いこと考えてるねえ先生。A狙わず、ポイントを金に換えて上位クラスに流す? そりゃ学校側が血相変えるレベルの反則だな。龍園の奴は『Cクラスを支配してAに上がる』って息巻いてるけど、俺は別にそんなもんに興味はない」

 

壬生はニヤリと笑い、九条の肩を軽く叩いた。

 

「わかった。乗るよ先生。先生はDクラスで目立たず動くなら、俺はCクラスで派閥を固めて水面下で準備する。龍園とは……ちょうどいい。奴と正面からぶつかって、俺の派閥を明確に作る口実にもなる」

 

九条は小さく頷いた。

 

「大っぴらには絶対に言わない。俺はDクラスで目立たず、必要な情報を集めながら動く。壬生くんはCクラスで、自分の派閥を静かに固めてくれ。仲間内だけで、水面下で準備を進める。誰にも気づかれないように」

 

壬生はニヤリと口角を上げ、九条の肩を軽く叩いた。

 

「了解だ。表では龍園と普通に派閥争いしてるふりをして、裏でだけ俺の信頼できる連中だけに少しずつ話を広げていく。AやBクラスへの接触ルートも、慎重に探る。……まだお前と俺だけの企みだな、先生」

 

二人はそれ以上言葉を交わさず、別々の方向へ歩き出した。

翌日から、動きは静かに始まった。

Cクラスでは、壬生憲剛が龍園翔と相変わらず対立を続けていた。表向きは「龍園派 vs 壬生派」のわかりやすい抗争に見える。しかし、壬生派の核心メンバーだけには、極めて限定的に「もっと大きな視点で動こう」という匂わせだけを流していた。

龍園との対峙も、派閥を固めるための格好の口実になっていた。

 

「龍園よ。お前は好きにやればいい。俺は俺のやり方でクラスを動かすだけだ」

 

壬生は龍園の前でいつも通り余裕の笑みを浮かべ、表面上は何も変わらないように振る舞っていた。

だが、心の中ではすでに「ポイント還流・現金化ルート」の準備を、水面下で着実に進め始めていた。

 

一方、Dクラスの九条間人は、相変わらず窓際の席で目立たない存在のままだった。

堀北や綾小路、須藤たちと接する時も、いつもの穏やかな笑顔と少し砕けた敬語で対応し、勉強のフォローも控えめに続けている。

誰にも気づかれないよう、クラスポイントの仕組みや上位クラスの動向を、細かく観察し続けていた。

 

二人は別々のクラスで、別々の顔を保ちながら——

「この学校のシステムそのものを無力化する」という目的を、

ただ二人と、ごく少数の信頼できる仲間内だけで、

静かに、慎重に、着実に準備を進めていた。

まだ、誰もその企みに気づいていない。

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