二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
夏休みが終わり、焼け付くような暑さも少しだけマシになった頃。九条の所属するDクラスでは体育祭の説明が茶柱佐枝から発表され、クラスがざわついていた。それは「祭り」とは名ばかりの純粋に競技をクラス対抗で競い合うものとなっており、団体競技と個人競技合わせ13競技を1日でこなすハードなもの。そのハードさや個人の成績にも反映され、結果が筆記試験にも影響するという、極めて生徒にとっても負荷の大きい特別試験となっていた。
早速Dクラスでは誰をどう推薦競技に当てるか、団体競技ではどう組み合わせを行うかで、堀北と篠原、そして軽井沢と口論が始まっていた。
平田の提案に対して補足提案を堀北が提案し、篠原がそれを巡って口論が起こっている。
堀北がクラス全体の最適解である補足提案を強く主張する。
「だから運動能力に長けてる人が食い合う状況を避けるため、得意でない人とそうでない人とでペアを組むべきだと言ってるのよ!それがクラスにとって最適解であることは自明でしょ篠原さん!」
「じゃあ運動が得意じゃない人は個人成績犠牲にしてまで貢献しろって言うの?そんなの横暴じゃない!?」
段々と口論が激しくなり、まとめ役である平田もどう収拾つければいいか対応仕切れずにいる。
そんな様子を横目に綾小路は九条の様子が気になり目を留めた。
(無人島や干支試験での振る舞いを見ると、そろそろ何か皆をまとめるような発言が、九条の口から飛び出してもいい頃合いだが・・・)
だが九条は静かにただ黙って黒板を見ている。まるでクラス内の口論など意に返さないかのように。
(今までの特別試験では随分と雄弁に振る舞っていたのに、また最初の頃の地味な優等生に元通りだな。一体何を考えているんだか・・・)
九条は不気味なほど静かだった。発言が全くないだけじゃない。言ってみればちょっとしたらリアクションなんかも発さず、文字通り一言も喋らず、九条はその時間を過ごした。
クラスが解散した後、堀北が綾小路を呼び止める。
「ちょっと待って綾小路くん。今回の試験のことなんだけど・・・無人島や船上試験みたいに、またみんなで力を合わせれば乗り越えられるんじゃないかと思って・・・」
恐らく綾小路に助言を求めてのことだろう。だが何か特別なことを出来る余地は少ないと堀北に返す。
「無人島や干支試験なんかはルール自体も初出で不確定要素が大きかったが今回は違う。裏技はあるかもしれないがペーパー試験と同様、求められるのは身体能力だ。正直ウルトラCで何とかするのは難しいと思うぞ」
堀北はそれを聞き、やや落胆した様子を見せながら「それもそうね・・・」と力なく返事した。
「そういえば九条はどうした?あいつなら何かしらアドバイスをくれるんじゃないか?」
「九条くんにも声を掛けたわよ。でも自分の『不得意分野で、すみません』ってあっさり話を切られてすぐどっかに行っちゃったわ。忙しいとか何とか言って・・・大体九条くん帰宅部でしょ。この体育祭以上に大切なことなんて何があるってのよったく・・・」
酷い言われようだと綾小路は内心思いつつも、やはり九条の行動に違和感を募らせた。
(あいつならクラスメイトにとっての心情を加味した九条自身の思う最適解を、クラス皆の前ならともかくアドバイスを求められた堀北になら話す筈だ。なのに会話らしい会話もなくコミュニケーションを避けるように話を切るのはやっぱり変だな。コソコソ動いている俺が人のことは言えないが、どうにもきな臭い匂いがしてきたなこの試験・・・)
放課後、池は九条に呼び出されていた。
「九条!話ってなんだよ。あのゲーム大会の話か?でもこれから体育祭の練習もあるし、平日の放課後は流石に厳しいと思うけどなあ〜」
いつも通り明るい調子で話す池。その質問に笑顔で九条は回答する。
「それも関係ある話なんだけど・・・ちょっと合わせたい人がいてね」
いつもは使わない特別棟の一室へと案内する九条。Dクラスにとっては須藤が暴力沙汰のトラブルに巻き込まれたちょっとしたトラウマの場所だ。
それもあって池はやや怪訝そうに九条に尋ねる。
「なあどこまで連れて行く気なんだよ九条?」
「ああごめんね?もうすぐだから」
そして特別棟の会議室に案内されると、そこには壬生が座っていた。Cクラスで龍園と対立しているとされる、体の大きさと威圧感で存在感は龍園に並ぶCクラスの異物。対立しているとは言えおおよその方針は龍園に従っており、特に大きな動きは今まで見せていないものの、Cクラスということもあって池の中で警戒心が跳ね上がった。
池は思わず後ずさるも、九条が落ち着かせる。
「大丈夫だよ池くん、安心して。彼は僕の友達なんだ、ここに来る前からね」
にわかに信じられず九条の顔を見るも、いつも通り穏やかで落ち着いた表情だ。あたふたしていると壬生が立ち上がり、その大きな手を差し出した。
「Cクラスの壬生だ、よろしくな」
極めて端的な自己紹介に握手を求める手。池はオズオズと手を差し出し、軽く握手を交わす。
「池くん、いきなりこんなところに呼び出してごめんね?早速なんだけどさ、池くんはAクラスへの昇格はどこまで本気で考えてるかな?正直にで構わないから答えてほしい」
池はまだ今の状況が把握しきれず混乱しているが、それでも何とか言葉を紡いだ。
「いやあ、そりゃあAクラス上がれば良いなって思ってるけどさ・・・ぶっちゃけ死に物狂いになってまで行きたいってほどじゃねえかな・・・」
真剣な表情で聞いていた苦情が少し表情を崩して笑った。
「いや良かったよ本当に・・・実はさ、僕たちも同じくAクラス自体にそこまで興味はないんだ。そもそも特別試験だので消耗するより、ちゃんと真っ当に受験勉強するなりして、普通に大学に行った方が健全だとさえ思う・・・勝ち筋の薄い勝負にずっと高校生活を捧げるよりもね・・・それにずっとギスギスしてちゃ息が詰まるでしょ?」
まだ状況が理解できていないながらも、池は九条の言葉にハッとさせられていた。今まではAクラスになって自分の望む進路に進むことを目的としていたが、九条の言う通り普通の高校生のように真っ当に実力をつける方がよほど健全ではないか?しかも自分たちはDクラス、Aクラスに上がれるハードルだって極めて高い。そんな見込みの薄い勝負に3年間高校生活を捧げるより、真っ当に勉強なり部活なりして、みんなで楽しく思い出を作った方がより健全ではないかと・・・
「実は壬生くんと協力してね・・・少なくともAクラスを切符に勝負に消耗したくない人だけでも、真っ当に高校生活を送れるよう、ちょっとした『悪巧み』をしててさ。壬生くん、池くんにアレ見せてあげて」
壬生は無言でノートPCの画面を開いて池に見せる。
「俺たちの派閥の中で、試験的に金を報酬として特別試験やテストの工作を引き受けている。いいか、プライベートポイントじゃない、『現金』だ、ここの学生の保護者からのな。既百万以上のの取引がこの口座でなされている」
PCに写っているのは口座の取引履歴だ。壬生の言うとおりの額が既に取引されているのが見てとれた。
「・・・すげえ」
思わず池は息を呑む。続けて九条は池に説明を続けた。
「こうした工作や、あと退学になった場合の進路相談とかも引き受けていてね・・・実はこの学校での『退学』は文字通りの退学じゃない。実際には編入なんだ。高育側も世間体があるから、そう何人もホイホイ退学にはできない。こうした動きが広まれば、Aクラスを目指す実力主義は札束の叩き合う工作合戦へと堕ち、退学の恐怖という抑止力も削げる。」
代わって壬生が話を続ける。
「俺たちは非現実的なAクラスなんて目指さない。代わりにこうして金と、いつか有力者になるであろうAクラスのメンバーに唾をつけておいて、将来の人脈作りに努める。今ある実と、確実な未来への投資だ」
想像を超えるスケールの話に池は面食らっていたが、頭に浮かんだ疑問を九条にぶつけた。
「でもなんでそんな話を俺に?」
「それはね・・・今まで接してきて池くんになら分かってくれると思ってね。それに池くんは干支試験でのゲーム大会みたいにさ、人脈を作るのが得意だろ?僕らの計画に乗ってくれそうな人に、声を掛けて欲しいんだ。できれば僕らの思想に同調してくれそうで、口が堅そうな人が良い。」
顔に迷いが残っている池に九条はさらに畳み掛ける。
「勿論、無理強いするつもりはないよ。ただ僕らの工作に乗らずとも、いずれ僕はDクラスで『謀反』を起こすつもりだ。僕はAクラスへの昇格は目指さない、真っ当に高校生活を送りたい人は僕についてきてくれという風にね。DクラスとCクラスでそういう動きが起きれば、DとCは競争原理が完全に崩れ、AクラスとBクラスで血みどろの工作合戦となり、この高校の『実力主義』は完全に崩壊するだろう。だからもし良ければ・・・君も僕らの『悪巧み』に噛まないか?」
池の感情は最初は迷いが、でも今は興奮が湧き上がっていた。この高校自体を敵に回すほどの、何かでかいことをやろうとしている。そのスケールのデカさに池は高揚さえしていた。
「・・・やる、やらせてくれ九条。全部分かったわけじゃねえけど、Aクラスを目指すよかよっぽど面白そうだ。壬生って言ったか?あんたもよろしくな。スカウトは俺に任せてくれ」
壬生も池の決意表明を真っ直ぐに受け止める。
「ああよろしくな池、先生から面白い奴だって聞いてたんでな、これから楽しみにしてるぜ」
この高度育成高等高校自体を敵に回す壮大な悪巧みが、静かな特別棟の一室で今本格的に回りだそうとしていた。