二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜)   作:きんぴら大根

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不穏な噂(高育落堕とし編2)

体育祭の準備が佳境を迎えた放課後、Dクラス教室は熱気と緊張が入り混じった空気に包まれていた。黒板には様々な競技の割り振り表がびっしりと書かれ、堀北鈴音がクラスを仕切ろうとし、平田洋介は穏やかに皆をまとめようとしていたが、すでにいくつかの競技で意見の対立が生じ始めていた。

そんな中、軽井沢恵が少し興奮気味に声を潜めて周囲に話しかけた。

 

「ねえ、みんな聞いた? 最近学校で変な噂があるんだって」

 

篠原が興味ありげに振り向き、やや興奮気味に身を乗り出して軽井沢を促す。

 

「変な噂? へえ、もうちょっと詳しく聞かせてよ」

 

軽井沢は周囲を素早く確認してから、声をさらに低くした。まるで秘密を共有するような仕草だった。

 

「プライベートポイントじゃなくて、現金で工作を請け負うところがあるって話。特別試験の調整とか、退学の相談とか……全部現金でやってくれるらしいよ。AクラスやBクラスの保護者も利用してるって、上の学年で結構本気で囁かれてるみたい」

 

その言葉に、教室の空気が一瞬でざわついた。数人の生徒が顔を見合わせ、驚きの表情を浮かべる。

 

堀北は腕を組み、冷たい視線を軽井沢に向けたまま鼻で笑った。

 

「またそんな根拠のない噂……。誰がそんな馬鹿げたことをするというの? 現金で工作を請け負うなんて、学校側にバレたら即退学よ。信憑性ゼロじゃない」

 

軽井沢は肩をすくめ、しかし真剣な顔で続ける。

 

「でも結構本気で言ってる人多いよ。特に3年生とか。『外部の関係者が裏でネットワーク作ってる』とか、『DクラスとCクラスが絡んでる』とか……かなり具体的な話も出てるの」

 

堀北は呆れたように息を吐いた。

 

「馬鹿馬鹿しい。DクラスとCクラスがそんな大それたことをできるわけないでしょう」

 

その時、教室の後ろの方から静かな声が上がった。

 

「……でも、もし本当なら面白い話だな」

 

綾小路清隆だった。彼は無表情のまま、淡々と続けていた。

 

「ポイントじゃなくて現金で取引するってことは、学校の監視を完全にすり抜けられるってことだろ。もしそんな組織が本当に存在するなら……この学校の『ポイント主義』そのものを崩すきっかけにはなる。学校外の人間を使って外部ネットワークを作ってるって話も、一定の筋はある仮説だ」

 

堀北は少し黙り込み、苛立った様子で腕を組んだ。

 

「……仮にそんなものが存在するとして、誰が主導してるっていうの?」

 

綾小路は視線をわずかに窓際の席——九条間人が静かに座っている方向に移した。

 

「さあな。でも、干支試験で急に社交的になった人間がいるのは確かだ」

 

堀北も九条の姿を一瞬見て、わずかに表情を硬くする。教室の片隅では、池と山内がひそひそと噂話を続けていた。学校全体に広がり始めた「現金工作」の噂は、体育祭前という大事な時期に、静かに、しかし確実に波紋を広げ始めていた。

綾小路清隆は無表情のまま、内心で静かに考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

体育祭準備が一段落した夕方、綾小路清隆は茶柱佐枝に呼び出され、学校裏の屋上で向かい合い、いつもの鋭い視線を綾小路に向けた。

 

「綾小路。体育祭もまもなく始まる。引き続きDクラスのサポートを頼んだ。特に堀北が暴走しないよう、適度にコントロールしろ」

 

綾小路は無表情のまま、淡々と答えた。

 

「了解した。でも……先生、九条間人のことはどう思う?」

 

茶柱がわずかに眉を上げた。九条の名前が挙がること自体が全くの埒外だと言わんばかりに。

 

「九条?」

 

綾小路は視線を少し逸らしながら続ける。

 

「最近、動きがどうにもおかしい。干支試験では龍園相手に大立ち回りするほどの動きを見せ、クラスを超えた交流を積極的に行なったかと思えば、体育祭の準備では発言すらなく最初の頃の寡黙な一生徒に逆戻りだ。ただの目立たない優等生とは思えない。どこまで関連してるか知らないが、『現金工作』の噂もある。……いずれにしろ、何かしら警戒した方がいいと思うが」

 

茶柱は軽く肩をすくめ、鼻で笑う。

 

「ふん……九条か。確かに最近少し目立つような動きを見せたが、そこまで大袈裟な話でも無いだろ。お前みたいに学力や体力を偽ってるようにも見えん。普通の優等生が少し目立ちたがっただけだ。一々お前が気にするほどの話ではない。」

 

綾小路は内心で小さく息を吐いた。

 

(……先生も、九条のことをまだ軽く見ているのか)

 

そんな九条の内心の呆れにも気づかず、茶柱はいつもの余裕のある笑みを浮かべる。

 

「とにかく、DクラスをAクラスに近づけるのが優先。九条が多少動こうが、大きな影響はない。お前はいつものように、堀北を上手く操ってくれればいい」

 

綾小路は「了解した」と短く答え、内心で思った。

 

(先生……九条を甘く見すぎだ。あいつは、すでにDクラスの中で静かに牙を隠している)

 

茶柱はそれ以上九条の話題に触れず、その場を去っていく。綾小路は無表情を保ちながらも、九条間人に対する警戒心をさらに強めていた。

 

 

 

 

佐倉愛里に九条から「少し話したい」と連絡が来たのは、体育祭の準備が始まる少し前だった。

九条間人は、佐倉が以前無人島や干支試験の合間に心の内を打ち明けてくれたことを覚えていた。あの時の彼女の不安を、九条は忘れていなかった。

二人は学校近くの静かなカフェの奥の席に座っていた。佐倉はロイヤルミルクティーを、九条はブラックコーヒーを前に、しばらく他愛もない話をした後、佐倉が少し緊張した様子で切り出した。

 

「九条くん……あの時、相談に乗ってくれてありがとう。でも……九条くん自身はどう思ってるの? この学校のこと。Aクラスを目指すことについて……」

九条はカップを静かに置き、穏やかな笑みを浮かべながらも、真剣な目で佐倉を見つめた。

 

「佐倉さん……正直に話してもいいかな?」

 

佐倉が小さく頷いた。

九条は少し声を落とし、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。

 

「僕、Aクラス昇格に興味はないんだ。堀北さんや他のみんなが必死に目指しているのはわかるけど……僕は、皆が不毛な消耗を繰り返してまでAクラスを目指す必要はないと思ってる。各々が自分のペースで、真っ当に勉学をしたり、課外活動をしたりして、実力を身につけていく道を探していきたい。この学校の『ポイント至上主義』に縛られて、3年間を消耗するなんて……あまりに勿体ないと思うんだ」

 

佐倉は目を見開き、驚いた様子で九条を見つめた。

 

「……九条くん、そんな風に思ってたんだ……」

 

九条は静かに頷き、続ける。

 

「それで……今学校で噂になってる『現金での工作を請け負うところ』があるって話、聞いたでしょ?」

 

佐倉が息を呑んだ。Dクラスでもその話題で持ちきりで、クラスの女子の中でも盛り上がっていた話だ。九条は真剣な面持ちで、はっきりと言った。

 

「あれは……僕が絡んでいる」

 

佐倉の瞳が大きく揺れる。

 

「え……?」

 

「正確には、僕と壬生くんが中心になって進めている。ポイントに頼らず、保護者から直接現金を受け取るルートを作ってる。Aクラスを目指す消耗戦から、少しでも多くの人を解放するための……『逃げ道』を作ろうとしているんだ」

 

九条は佐倉の目を見つめ、静かに微笑んだ。

 

「佐倉さんが前に話してくれたように……この学校のシステムに息苦しさを感じている人は、きっと他にもたくさんいる。僕たちは、そういう人たちのために、少しずつ基盤を作っていきたいと思っててね・・・」

 

佐倉はしばらく言葉を失い、震える声で尋ねた。

 

「……九条くん、それって……すごく危ないことじゃないの?」

 

九条は柔らかく笑った。

 

「危ないよ。だからこそ、佐倉さんにはまだ深くは巻き込まない。でも……もし佐倉さんが『この学校の在り方』に疑問を感じているなら、いつでも味方だと思ってほしい」

 

カフェの柔らかい照明の下、佐倉は九条の顔をじっと見つめていた。

驚きと、不安と、そしてわずかな希望が、彼女の瞳の中で複雑に混ざり合っていた。

 

 

 

 

体育祭を間近に迎えた放課後、ほとんどの生徒が帰った後の教室に、平田洋介の姿があった。彼は黒板に残った競技のメモを消しながら、疲れた様子で肩を落としている。

そんな平田に九条間人は静かに近づき、穏やかな声をかけた。

 

「平田くん、まだ残ってたんだね。……最近、クラスの取りまとめでかなり消耗してるみたいだけど、大丈夫?」

 

平田は驚いたように振り向き、すぐにいつもの柔らかい笑顔を作った。

 

「ああ、九条くん。……うん、大丈夫だよ。ただ、体育祭って思ったより調整が大変でさ……」

 

九条は隣の机に軽く腰をかけ、静かに続けた。

 

「平田くんはいつもクラスをまとめてくれて、本当にすごいと思うよ。でも、負担が大きすぎるんじゃないかな?」

 

平田は少し苦笑し、黒板消しを置いた。

 

「ありがとう。でも、誰かがやらないと……堀北さんも頑張ってるし、須藤くんたちも一生懸命なんだ。僕がまとめるくらいしかできないから」

 

平田はそれでも弱音をこぼさず、自分に言い聞かせるように自身を鼓舞するような前向きな言葉を紡ぐ。そんな平田に対し、九条は少し間を置いて、核心に触れた。

 

「平田くんは……Aクラスへの昇格について、どう思ってる?本気で目指したいと思ってる?」

 

平田は少し驚いた顔をした後、視線を少し落として答えた。

 

「……正直に言うと、Aクラス自体に強い執着はないかな。みんなが笑顔で卒業できれば、それでいいと思ってる。でも、堀北さんや他の子たちが頑張ってるから、僕もできる限り支えたいって気持ちが強いんだ」

 

九条は静かに頷き、声を少し低くした。

 

「僕も……実はAクラスを目指すことには、あまり興味がなくてさ。この学校のシステムに縛られて、3年間を消耗するより……各々が自分のペースで、真っ当に力を身につけていく道を探したいと思ってる」

 

平田が少し目を見開いた。

 

「九条くん……?」

 

九条は穏やかな笑みを浮かべたまま、しかし目だけは真剣に平田を見つめた。

 

「今、学校で少し噂になってるでしょ? 『現金で工作を請け負うところ』があるっていう話……あれは、ただの噂じゃない。僕が……ちょっと噛んでいてね」

 

平田の表情が固まる中、九条は静かに続けた。

 

「Aクラスを目指す消耗戦から、少しでも多くの人を解放するための……別の道を作ろうとしてる。平田くんみたいに、クラスのみんなを本当に大切に思ってる人が消耗していくのを見てるのは、正直辛いんだ。もし平田くんが……『みんなが無理なく過ごせる道』に興味があるなら、いつかちゃんと話したいと思ってる」

 

平田は言葉を失い、九条をじっと見つめていた。驚きと、戸惑いと、そしてわずかな好奇心が、彼の瞳に混ざっていた。

そんな平田の様子を察してか、九条は最後に柔らかく微笑んだ。

 

「今日はこれくらいにしておくよ。平田くん、くれぐれも体を壊さないでね」

 

そう言い残し、九条は静かに教室を出ていった。

平田洋介はしばらくその場に立ち尽くし、九条の背中を見つめていた。

 

(九条くん……君は一体どこまで……)

 

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