二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
九条によるAクラスへの昇格放棄宣言でDクラスのざわめきが止まない中、さらに彼は続ける。
「今僕らの方でプライベートポイントや現金で工作を請け負うインフラを整えています。また退学回避のためのノウハウや、万一退学になったときのための対策についても相談の窓口を開いています。今の生活や将来のためのお金が欲しい方、また退学について不安な方がいればぜひ僕らにご相談下さい。また工作や退学対策に興味がない方でも、Aクラスを目指さずに自分のペースで学校生活を送りたい方も、ぜひ一緒に協力関係を築いて行きましょう」
篠原や軽井沢、また幸村や外村といったメンツも、状況が飲み込めていないのか不安げな表情を浮かべている。そんな中堀北が怒りを滲ませつつも静かに九条に言い放った。
「九条くん、これはDクラスの私達だけじゃない。この学校に対する明確な敵対行為よ。このことは茶柱先生や生徒会にも報告させてもらうわ。せいぜい後悔しないことね」
堀北に対しても大したリアクションもなく、「どうぞこ自由に」と返すばかり。このCクラスとDクラスの反乱は、他のクラスにも波紋を呼んでいた。
一方、高度育成高等学校の教員室は、異様な緊張感に包まれていた。茶柱佐枝は腕を組み、資料を睨みつけて眉間に皺を寄せる。Cクラス担任の坂上教師が汗を拭いながら、震える声で報告を続けた。
「……Cクラスでは壬生が龍園に対して大っぴらに反旗を翻し、『Aクラスを目指さない』と宣言しました。Dクラスでも九条間人が同様の宣言をし、現在、両クラスを中心に『現金による工作請負』が横行している模様です。上級生にもそのネットワークが広がっており、すでに複数の取引が確認されています」
1年Bクラス担任の星乃宮知恵が、頭を抱えながら坂上の発言を捕捉した。
「九条間人と壬生憲剛、彼らが水面下で連携を取っていたのは明白ね。私たちBクラスでも既に工作を依頼した形跡が確認されているわ・・・ご丁寧に法人まで立ち上げてしっかり納税までしてる。『エデュケイト・コーポレーション』・・・全くふざけた会社名ね」
会議室に重い沈黙が落ち、中年男性教師が青ざめた顔で言った。
「これは……非常にまずい。現金工作が世に知られれば、『進路を金で買える学校』と受け取られかねません。高度育成高等学校の『実力主義』という看板が、根底から崩れます。外部に漏れたら大問題です」
別の女性教師が声を震わせて同調した。
「そうです。他の保護者やマスコミに知られたら、学校の存在意義そのものが問われます。一刻も早く九条と壬生を呼び出して、徹底的に事情を聴取し、抑え込むべきです!」
すると、年配の男性教師が反対の声を上げた。
「待ってください。今、強硬に動くのは危険です。特に3年生はもうすぐ卒業です。ここで大々的に騒ぎを起こせば、今年の卒業生にまで悪影響が及びます。せめて3年生が無事に卒業するまで、穏便に事を進めるべきではないでしょうか?」
「そんな悠長なことを言っている場合ですか!」
女性教師が声を荒げた。
「問題を先送りにすればするほど、被害は拡大します。今すぐ対応しなければ、手がつけられなくなりますよ!」
教師陣は二つの派閥に分かれ、激しく対立し始めた。
「3年生の卒業を優先すべきだ。学校の評判を守るためにも、穏便に……」
「そんなことを言っている間に、この学校の実力主義そのものが崩壊します!早期に対処しないと、取り返しがつかなくなります!これだけ情報が漏れてきてるんです、彼らの情報管理は杜撰だ。管理体制だって幼稚なものに過ぎない、きっと今のうちに押さえ込めば・・・」
二人の言い争いに、星乃宮がピシャリと言い放った。
「二人とも甘いわね。この後に及んでまだ情報を抑え込めると思ってるの?今流出している情報自体が彼らからのリーク、すなわち私たち学園側へのメッセージよ。もし自分たちの邪魔をするようであれば、これを世間に公表するぞっていうね・・・」
星乃宮の発言に言い争っていた二人は黙りこみ、茶柱佐枝はその様子を苦々しく眺めていた。
(……九条、お前はこうなることも予測していたんだな。この体育祭直後の時期、特に3年生を巡って対応が割れる絶妙なタイミングだ。恐らくこの膠着状態は続き、学園側の対応も後手後手に回る。それを見越して九条、貴様は・・・)
会議室の空気は重く淀んでおり、高度育成高等学校の教師陣は、初めて「学校の根幹が揺らぐ」事態に直面し、明確な対応策を見出せずに苦慮していた。
当然生徒会でも、対応は定まらない。一向に動きが無い生徒会を見かねて、堀北鈴音が生徒会長、兄に直談判しに生徒会室の扉を勢いよく開いた。
「兄さん!」
堀北学はデスクで書類を整理していた手を止め、妹の剣幕に静かに視線を上げる。
「鈴音か。珍しいな、こんな時間に」
堀北鈴音は兄のデスクに近づき、両手を机について詰め寄った。その瞳には怒りと苛立ちがはっきり浮かんでいた。
「どうして九条や壬生に厳正な処分を下さないの?」
堀北学は軽く息を吐き、書類をそっと置いた。
「鈴音……」
「Cクラスでは壬生が大っぴらに反乱を起こし、Dクラスでは九条がAクラス昇格を放棄すると宣言したわ。しかも現金で工作を請け負うなんて、明らかな校則違反よ!それなのに生徒会は何も動かない。兄さんが会長なのに、どうして?」
堀北鈴音の声は徐々に大きくなり、感情が溢れ出していた。堀北学は妹の視線を真正面から受け止め、苦々しい表情を浮かべた。彼はゆっくりと立ち上がり、窓の外に視線を移した。
「……鈴音。お前の言う通り、九条と壬生の行動は問題だ。だが、これはもう生徒会レベルで処分できる話ではなくなっている」
堀北鈴音が眉を寄せた。
「どういうこと?」
堀北学は重い声で続けた。
「現金工作の噂は既に上級生にまで広がっている。もし我々が強引に九条や壬生を処分しようとすれば、彼らは『学校が自分たちの活動を潰そうとしている』と主張し、外部に情報を流す可能性が高い。そうなれば……『進路を金で買える学校』というイメージが世間に広まり、高度育成高等学校の看板が地に堕ちる。実力主義という建前そのものが崩壊しかねない」
彼は苦々しく唇を噛んだ。
「俺は生徒会会長として、学校の存続と評判を守らなければならない。今、軽率に動けば、3年生の卒業や学校全体の信用に深刻なダメージを与える。だから……動けずにいる」
堀北鈴音は兄の言葉を聞き、呆然としながらも、強い苛立ちを露わにした。
「それじゃあ……このまま見過ごすというの?九条や壬生が学校のルールを踏みにじっているのに?」
堀北学は静かに妹を見つめ、疲れた声で言った。
「今は……耐えるしかない。証拠を固め、外部に漏れない形で対処する道を探っている。」
堀北鈴音は唇を強く噛み、兄を睨みつけたまま、言葉を返せずにいた。
生徒会室に、重く苦い沈黙が落ちた。
体育祭が終わり、1週間が経ったある夕方。九条間人が一人で夜特別棟の近くを歩いていると、後ろから低い、抑揚の少ない声がかけられた。
「よう、九条」
九条が振り返ると、そこに龍園翔が立っていた。いつものニヤリとした笑みではなく、目が鋭く細められ、明らかに苛立ちを抑え込んでいる表情だ。龍園は九条に近づき、壁際に追い込むように立った。
「無人島試験や干支試験で、色々俺の邪魔をしてくれたのはお前だろ?」
龍園の声は低く、静かだったが、その奥に煮えたぎる怒りが感じられた。
九条は穏やかな笑みを崩さず、静かに答えた。
「伊吹さんを嵌めた件以外は……まあ僕と壬生くんがやったことですよ。余りCクラスやDクラスが勝ち過ぎるのは困るので」
龍園の目がわずかに見開かれた。九条は淡々と続ける。
「無人島では伊吹さんの動きを牽制し、干支試験ではポイントの調整をさせてもらいました。まさか伊吹さんが何者かにはめられてポイントを大きく落としたのは想定外ですが。干支試験については龍園くんが法則を見破っていたので、こちらも全力で対応させてもらいましたよ。いやあ、あれは見事でしたよ龍園くん、きっと僕だけだったら法則に気づけなかった」
龍園は低く笑ったが、その笑みには明らかに怒りが混じっていた。
「はっ……随分とペラペラ白状しやがるな」
九条は微笑みを深め、静かに言った。
「今はもう、コソコソする必要がなくなったんです。現金工作のインフラも整いましたし、人手も増えました。だから堂々と動けるようになった…それにもう、今更どうでも良い話ですからね」
龍園は九条をじっと見つめ、声を低く抑えながらも、苛立ちを隠さずに言った。
「どうでも良いだと?」
「ええ、まだあの時は現金工作ではなく、愚直にプライベートポイントでの取引で、ABクラスとCDクラスの競争と停滞の分断を図ろうと考えてましたが・・・今となってはそれも必要ない。工作を請け負う人間を雇う仕組みも整えましたからね。今までみたいに個々の案件でチマチマと動く必要もないので」
今までの顛末を饒舌に喋る九条、だが龍園はそんな九条の真意をいまだに掴めずにいる。
「てめえ……本気でこの学校を潰す気か?」
九条は穏やかに首を傾げ、柔らかい笑みを浮かべたまま答えた。
「潰すというより……少し、変えたいだけですよ。このポイント至上主義の幻想をね」
龍園が何か言おうとしたところで、九条がさらに続けた。
「まあそれこそ今となってはどうでも良い話なんですが・・・そういえば龍園くん。君はなぜ干支試験で法則を見破ったのに、全てのグループで優待者を当てに行かず、Aクラスへの攻撃のみに終始したんですか?素直に優待者を全て当てていればCクラスは今より遥にクラスポイントを稼げてたのに・・・誰かとの取引なのかな?君は確かに頭が良い、暴力に訴えて恐怖で引っ張るだけの不良ってだけじゃない・・・でも」
妙にわざとらしいお世辞を述べたあと、龍園を挑発する。
「その賢さのせいなのかな・・・案外君はせこいというか、やること為すこと一々小さいんですね」
その言葉を皮切りに、龍園は九条のボディを殴りつけた。九条はえづきながら倒れ込む。
「悪いがせこいだけじゃねえんだ。ここ周辺に監視カメラはねえし人もいねえ。助けを呼んだって無駄だぜ」
物陰に潜んでいた山田アルベルト、小宮、そして息吹が背後から姿を現し、アルベルトが九条の体を押さえ込み、龍園は九条の髪の毛を掴み上げる。
「九条、今すぐあのふざけた事業を中止させろ、でねえと本気でてめえを・・・」
そう言いかけたとき、体躯の大きい一人のCクラスの生徒、壬生が現れた。
「先生?生きてる?」