二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜) 作:きんぴら大根
中間試験からさらに十日ほど経った夜。
Dクラスの九条間人は、いつものように目立たない制服姿で校舎裏の薄暗いベンチに腰を下ろしていた。街灯の光が届かない影の中で、スマホの画面だけが淡く照らしている。壬生憲剛からの返信は「了解。いつもの場所で」とシンプルだった。
数分後、足音が近づいてきた。壬生はCクラスの制服を少し乱したまま、肩を軽く回しながら現れる。龍園との日常的な対立で疲れているはずなのに、目だけは鋭く光っていた。
「よう、先生。クラスポイントの『還流』について、詳しく話し合いたいってメッセージだったな」
九条は小さく頷き、いつもの穏やかな声で、しかし少し砕けた口調で切り出した。
「壬生くん、この学校のシステムを本当に理解しないと、俺たちの企みは破綻する。まずは基本から……クラスポイント(CP)と私的ポイント(PP)の仕組みだ」
彼は指先で地面に軽く線を書きながら説明を始めた。まるで二人だけの授業のように。
「毎月1日、クラス全員に支給されるPPは、シンプルに『現在のクラスポイント × 100』なんだ。つまり、CPが1000なら一人10万円相当、CPが500なら5万円相当……これが毎月の『給料』になる。
学校側はこれを『還流』という形でコントロールしてる。CPは授業態度、定期試験、特別試験で増減するけど、意図的に減らしても即座に罰則はない。ただ、減らした分だけ次の月のPPが減る……それが『還流』の本質だ。学校にCPを『返還』するような形になる」
壬生は腕を組んだまま、じっと聞いている。
九条は静かに続けた。
「俺たちの計画は、ここを逆手に取る。Aクラスを狙わず、むしろCPを意図的に低く抑える。授業中の軽い態度悪化、小テストでの調整、特別試験では『勝ちすぎない』ように動く。DクラスやCクラスの一部派閥として、表向きは『普通に頑張ってるけど結果が出ない』クラスに見せる。
そうすると、上位クラス——特に現AクラスやBクラスは安心する。俺たちが勝ち上がらない限り、彼らのポジションは安定するからな。その『安心料』として、水面下で取引を持ちかける。『俺たちはAを目指さない代わりに、特別試験で協力する(またはわざと負ける)から、見返りにPPを譲渡してくれ』って形だ。
たとえば、特別試験でCPを200P還流させた場合、本来なら次の月で一人2万円分減る。でも上位クラスから直接PPを1融通してもらえれば、還流による損失を『特定個人に絞る場合』大幅に上回る。結果として、クラス全体で大量のPPを『現金化』ルートに乗せられる」
壬生の口元がわずかに緩んだ。
「なるほど……CPを学校に還流させるふりをして、実際は上位クラスから金(PP)を吸い上げるってわけか。龍園の派閥とは完全に別行動で、俺の信頼できる連中だけに『CPをある程度抑える方向で動く』って最小限の匂わせだけ流す。還流のタイミングや金額は、お前と俺でしか決めない」
九条は頷いた。瞳に静かな決意が宿る。
「そうだ。現金化の部分も大事だ。私的ポイントは1P=1円として、学校内の買い物はもちろん、高額商品の購入代行や外部ルート経由で実質的に現金化できる。卒業時にまとめて引き出す方法も学校側が黙認してるケースがあるらしい。俺たちはDクラスで目立たず情報を集め、壬生くんはCクラスで派閥を固めながら接触ルートを探る。
最初は少量の還流からテストする。100P、200P単位で。学校の監視を避けつつ、少しずつスケールを大きくしていく。すべては仲間内だけで、水面下で」
二人はそれ以上言葉を重ねず、夜の闇に溶けるように別れた。
九条は一人、寮への道を歩きながら胸中で繰り返していた。
(この還流計画が成功すれば、学校の選別装置はただの幻想になる。CPという『競争の象徴』を、俺たちだけで無力化できる……)
壬生はCクラスの方向へ歩きながら、龍園との次の対峙を思い浮かべていた。表の派閥争いは相変わらず。裏の準備は、今日から本格的に動き出す。
この『クラスポイント還流計画』は、静かに、しかし確実に形を成し始めていた。
中間試験を終えてからさらに数週間が経ち、最初の大きな特別試験(無人島試験)が近づいていた頃。
九条間人は、Dクラスの自分の席で静かに教科書をめくりながら、頭の中では別の計算を進めていた。
壬生憲剛とは、校舎裏のいつもの場所でしか詳細を話さない。二人だけのルールだ。
その夜、再び薄暗いベンチで向かい合うと、九条はいつもの穏やかな声で切り出した。
「壬生くん、次は特別試験だ。特に無人島のような大規模なやつでは、クラスポイントの還流を本格的に試せる。
でも、ただ適当に負けるんじゃなく、戦略的に還流しないと上位クラスに怪しまれるし、学校側にも気づかれるリスクがある」
壬生は腕を組み、低い声で応じた。
「そうだな。表では『頑張ってるけど結果が出ない』くらいのラインを保ちたい。先生はどういう還流戦略を考えてる?」
九条は地面に指で簡単な図を描きながら、丁寧に説明を始めた。
「まず基本として、特別試験ではCPの増減幅が大きい。特に無人島試験みたいなやつは、Sポイントの残高やボーナスポイント(BP)、リーダー当てで数百ポイント単位の変動があり得る。
俺たちの還流戦略は『意図的な小規模還流+上位クラスとの水面下取引』を組み合わせる形だ。
1. 還流の規模とタイミング
• 全力で勝ちに行くふりをしつつ、終盤で『計算ミス』や『情報漏れ』を意図的に起こす。 例えば、無人島ではSポイントを少し多めに使って消耗させたり、リーダーの隠し方をわざと甘くしたりする。でも、明らかなサボタージュには見せない。
• 目標還流量は試験ごとに100〜300CP程度。最初は少なめ(100CP前後)からテストして、学校の反応を見る。 これで次の月のPP支給が1人あたり1〜3万円分減る計算になるけど……ここで上位クラスから補填をもらう。
2. 上位クラスとの取引パターン
• 現AクラスやBクラスに対して、『俺たちはAを狙わない』という暗黙のメッセージを送る。 具体的には、特別試験で『協力的な動き』を見せる(例:CクラスやDクラスがAクラスを直接狙わず、Bクラスを牽制するなど)。 見返りに、『試験後のPP融通』を水面下で約束させる。 還流で失うCPの何割かのPPを、上位クラスから受け取るイメージだ。
3. 派閥内での運用
• 壬生くんはCクラスで、自分の信頼できる派閥メンバーだけに『CPをある程度抑えて、長期的にPPを増やそう』という最小限の匂わせだけ流す。 龍園派とは表向き対立を続けながら、壬生派だけを固めて動く。
• 俺はDクラスで、堀北さんや綾小路くんの動きを観察しつつ、須藤くんたちには『勉強フォロー』を続けながら、試験本番では目立たないサポートに徹する。 還流の指示は、絶対に二人(または極少数の核心メンバー)だけで決める。
4. リスク管理
• 還流が多すぎると学校側が不自然と判断する可能性があるから、試験ごとに『自然な失敗』に見せる。
• PPの現金化ルートは、試験後に上位クラス経由で少しずつ。学校内の高額商品購入代行や、卒業時の引き出しを想定。
• 万一バレそうになったら、すぐにスケールを縮小。すべては水面下、仲間内だけで」
壬生はニヤリと笑い、九条の肩を軽く叩いた。
「なるほど……『負けを装いつつ、金を吸い上げる』ってわけか。
無人島試験では、俺はCクラスで龍園とやり合いながら、派閥の連中には『勝ちすぎないように調整する』程度の指示だけ出す。先生はDクラスで静かにフォローしてくれ。……これで少しずつ、この学校の競争そのものを腐らせていけるな」
九条は静かに頷いた。瞳の奥に、冷たい決意が宿る。
(特別試験こそが還流の最大のチャンスだ。CPという『競争の象徴』を、俺たちだけで無力化していく……まだ始まったばかりだけど)
表向きは、Dクラスは堀北を中心に無人島試験へ向けて動き始め、Cクラスは龍園と壬生の対立が続いているように見える。しかし、水面下では『特別試験還流戦略』が、静かに、慎重に準備され始めていた。