二人は超問題児?(もしよう実世界に「九条の大罪」悪徳弁護士と半グレが入り込んだら〜)   作:きんぴら大根

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「らしい」トラブル

Dクラスの教室は、放課後のざわつきに包まれていた。

 

九条間人は窓際の自分の席に座ったまま、静かに周囲の様子を眺めていた。堀北鈴音が黒板の前に立ち、いつもの冷たい視線でクラスメイトたちを見回している。平田洋介が隣で穏やかにフォローし、須藤健は机に突っ伏したまま苛立った様子で腕を組んでいた。池寛治や木村拓也たち運動系の面々も、緊張した面持ちで集まっている。

 

九条は自然とその輪に混じり、誰にも目立たない位置で耳を傾けていた。

 

「状況は最悪よ」堀北が抑揚のない声で切り出した。「生徒会での審議は、Cクラス側の証言が三対一で揃っている。石崎、小宮、そしてもう一人のCクラス男子が『須藤くんが一方的に殴りかかってきた』と主張しているわ。目撃者も証拠もない以上、学校側はCクラス寄りの判断を下す可能性が高い」

 

須藤が舌打ちを漏らす。教室に重い沈黙が落ちた。

 

「でもさ……俺らだって須藤が悪いってわけじゃねえだろ? 向こうがわざと絡んできたんだぜ」池が声を上げた。

 

平田が慌てて宥めるが、堀北は冷たく続けた。

 

「それが問題なの。向こうは完全に準備していた。バスケの練習後にわざと接触して、須藤くんを挑発。証言も統一されている。こちらに反証がなければ、クラスポイントの大幅減点は避けられないわ」

九条は穏やかな表情を保ったまま、内心で静かに分析していた。

 

「須藤が先に殴りかかってきたって? ……なるほど」

 

彼は小さく息を吐き、ペンを止めた。表情は相変わらず穏やかだったが、瞳の奥には冷たい計算が浮かんでいた。

 

(どっちに転んでも、俺にとっては好都合だ)

 

九条は席を立ち、誰にも目立たないように教室を出た。校舎裏のいつもの薄暗い場所へ向かいながら、スマホで短いメッセージを送る。

 

《今夜。須藤の件で話がある。》

 

 

 

 

 

 

夜、校舎裏のベンチ。

 

壬生憲剛は少し息を乱した様子で現れた。

 

「よう、先生。早速面倒ごとが起きたな」

 

九条はベンチに腰を下ろしたまま、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

 

「壬生くん、Cクラス側は龍園の指示かい?」

 

壬生は鼻で軽く笑い、フェンスに背を預けた。

 

「ああ。あの短気な龍園が『Dクラスを叩くいい機会だ』って息巻いてる。須藤を挑発したのは石崎と小宮、それに山内……いや、Cクラスの連中だ。バスケの練習後にわざと接触して、須藤がカッとなったところを三人で囲んで殴り合いを誘発した。証言は全部Cクラス側で揃えてる。『須藤が一方的に暴れた』って線で学校に訴えるつもりらしい」

 

壬生はベンチに腰を下ろすと、メモリを九条に差し出した。声は低く、いつもの薄い笑みを浮かべている。

 

「Cクラスの石崎と小宮たちが、事件のあとで『須藤を嵌めた』と笑いながら話してる録音だ。『わざとぶつかって挑発して、囲んで殴りかからせて、証言は三人で揃えとけ』って内容が、はっきり入ってる。龍園の指示で動いたことも匂わせてる部分もある」

 

九条はメモリを受け取り、穏やかな笑みを崩さずに指で軽く転がした。

 

「壬生くん……ありがとう。でも、できれば使いたくないな、これ」

 

壬生がわずかに眉を上げた。

 

「は? なんでだよ。先生が頼んだんだろ?」

 

九条は小さく肩をすくめ、いつもの少し砕けた口調で続けた。

 

「最後の手段だよ。壬生くんが水面下で録音を取ってくれたのは助かるけど……この証拠を表に出せば、須藤くんは確実に助かる。Dクラスもクラスポイントの減点を最小限に抑えられる。でも、それじゃあ面白くないんだよね」

 

壬生がわずかに眉を上げた。

 

「どういう意味だよ?」

 

九条は地面に指で軽く線を引きながら、淡々と続けた。

 

「もし須藤くんが停学になってDクラスがクラスポイントを大きく減らしても、それは学校の『障害事件=クラス全体の罰』という歪んだルールを、俺たちに改めて見せつけるだけだ。生徒を『育成』するはずの学校が、ただの選別装置でしかない証拠の積み重ねの一つになる。還流計画を進める上での、いい正当性になるよ。

 

逆に、須藤くんが無罪放免になったとしても……内部では『本当にこれで良かったのか』という不信が芽生える。龍園派と壬生派の亀裂が深まる材料にもなる。どちらにせよ、CクラスのCPをコントロールしやすくなるし、Dクラス側も表向きは『一致団結して戦った』という空気が作れる」

 

九条は小さく肩をすくめ、薄く笑った。

 

「要するに、須藤くんを助けるのは表向きの話だ。本音を言えば、この事件そのものが俺たちの計画の駒になる。学校のシステムがどれだけ脆いかを、俺たちだけで証明できるチャンスなんだよ」

 

壬生は低く笑い、腕を組んだ。

 

「相変わらず冷徹だな、先生。クラスメイトが危うい状況だってのに」

 

「須藤くんは助ける。でも、この学校のシステムそのものを壊すのが優先だ。龍園がこの一件で調子に乗れば乗るほど、Cクラス内の亀裂は深くなる。壬生くんの派閥を固めるいい材料になるはずだよ」

 

二人はしばらく無言で夜風に当たり、互いの思惑を確認するように視線を交わした。

 

九条は内心で静かに繰り返していた。

 

(須藤事件がどう転ぼうと、俺たちの『クラスポイント還流計画』にはプラスにしかならない。Dクラスが傷つこうが、Cクラスが浮かれようが……結局はこの学校の競争そのものを腐らせるための、ただの序盤の駒だ)

 

壬生はCクラスに戻る道を歩きながら、口元を歪めた。

 

(龍園よ、好きに暴れろ。俺はその隙に、先生と一緒にこの学校を食い散らかしてやる)

 

Dクラスでは堀北がすでに生徒会への抗議を準備し始め、綾小路が静かに動き出そうとしていた。その裏で、九条間人と壬生憲剛の水面下工作は、着実に一歩を踏み出していた。

 

須藤事件は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

Dクラスの面々が集められた生徒会室は、緊張した空気に包まれていた。

 

九条間人は、部屋の端の席に静かに座り、誰にも目立たない位置で周囲を観察していた。堀北鈴音が兄の同席のせいもあってか、緊張した面持ちで鎮座し、須藤健は腕を組んだまま苛立った様子で椅子に腰掛けていた。Cクラスからは石崎や小宮たちが余裕の笑みを浮かべている。

 

審議はすでに膠着状態に入っていた。Cクラス側の証言が三対一で揃い、「須藤が一方的に暴れた」という主張が繰り返される中、Dクラス側の反論は十分に通っていない。

 

茶柱先生がため息をつき、軽い調子で言った。

 

「この程度のことで生徒会が動くとはね。喧嘩の一つや二つ、普通の学校なら教師だけで片付く話だろうに」

 

九条は穏やかな表情を崩さなかったが、内心で小さく息を飲んだ。

 

(……明らかな傷害事案だというのに、この扱いの軽さか。学校側が傷害事件を「この程度」と片付ける姿勢が、すでにシステムの歪みを露呈している。しかも生徒会長とはいえ、一人の生徒だけにこの事件の判断を丸投げするなんて・・・生徒を「育成」するはずの場所で、これが普通なのか?)

 

彼は静かに指先を組み、内心の計算を続けた。

 

(どっちに転んでも、俺にとっては好都合だ。このままCクラス寄りの判断が出ればDクラスは減点され、学校の選別装置としての脆さが証明される。逆にここで覆せばCクラス内に亀裂が入る……)

 

審議がさらに進み、Cクラス側の主張が優勢になりかけたところで、九条は自然と口を開いた。声はいつもの穏やかで少し砕けた調子だったが、言葉の内容は意図的に重い。

 

「埒が開かないようでしたら……警察に任せてみてはどうでしょうか? これはただの喧嘩ではなく、明らかな傷害事件です。学校内で解決できないのであれば、外部の判断を仰ぐのも一つの手かと」

 

一瞬、部屋全体が凍りついた。

 

堀北の冷たい視線が九条に向き、須藤は「は?」と小さく声を漏らし、Cクラスの石崎たちが顔色を変えた。龍園の口元から笑みが消え、生徒会側の面々もざわつき始める。茶柱先生さえ、わずかに眉を寄せて九条を見つめた。

 

「九条……お前、何を言い出すんだ」誰かが低い声で呟く。

 

九条は穏やかな笑みを浮かべたまま、静かに続けた。

 

「ただの提案です。証言が食い違う以上、学校だけで決着がつかないなら、警察の捜査を入れた方が公平ではないかと。クラスポイント云々以前の問題だと思いますが」

 

その言葉は、部屋に重い波紋を広げた。誰もが一瞬、事の重大さを再認識したように沈黙する。Cクラス側は明らかに動揺し、Cクラス担任の目が鋭く細められた。Dクラスの面々も、九条の突然の提案に驚きを隠せない様子だった。

 

まさにそのタイミングで、生徒会室のドアが静かに開いた。

 

入ってきたのは、Dクラスの佐倉愛里だった。撮影した写真とともに、彼女は少し緊張した面持ちで部屋の中央に進み出ると、小さな声で切り出した。

 

「……あの、私、特別棟で全部見ていました。Cクラスの三人が須藤くんにわざとぶつかって、挑発して……三人で囲んで殴りかかったんです。須藤くんは最初、耐えようとしていただけです」

 

部屋が再びどよめく。

 

生徒会側がすぐに確認を始め、佐倉の証言が詳細に記録される。Cクラス側の証言に矛盾が生じ、審議の流れが一気にDクラス寄りに傾き、石崎たちが焦った様子で互いに視線を交わす。

 

審議は佐倉の証言により、Dクラス側に有利な形で幕を閉じた。

 

---

 

生徒会室から退出する廊下で、綾小路清隆は静かに歩きながら、先ほどの場面を思い返していた。

 

(……九条間人。あの一言は予想外だったな)

 

彼は淡々と内心で分析を重ねた。

 

(警察介入を平然と持ち出すなんて、ただの「目立たない補習役」がする発言じゃない。学校のルールが内部で完結することを前提にしていることを、正確に理解した上での一手だ。あの発言一つでCクラスを焦らせ、審議全体の空気を変えた。周囲を動揺させ、佐倉の登場を引き出すきっかけにもなった・・・だが一体ここにきてなぜこんな動きを・・・)

 

綾小路の視線が、わずかに前を歩く九条の背中に注がれる。

 

 

 

 

 

 

九条間人は、穏やかな笑みを浮かべたまま歩き続けていた。ポケットの中でUSBメモリをそっと握りしめ、次の手を胸の内で着実に練り始めていた。

 

「にしても今回の事件、存外つまらない結末だったね」

 

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