ポケットモンスター 元プラズマ団・Nが、伝説のポケモンと往く「トモダチ」ではない「愛」を探す世界再発見の旅   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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王の孤独 / LONELY KING

「……341、347、349。素数だね。割り切れない数字はいつだって、僕の心を落ち着かせてくれる」

 

薄暗い城の一室。窓のないその部屋で、僕は幾何学模様が刻まれた壁を見つめながら独り言をこぼした。部屋の中には無機質な計算機と、僕が「トモダチ」と呼ぶ幼いポケモンたちが数匹、身を寄せ合っている。

 

僕の名前はN。このプラズマ団の城において、王として定義された存在だ。

 

「N、また計算か? 効率の悪い。世界を数式で計るなど、若者らしい無意味な執着だ」

 

重厚な扉が開き、そこから僕の「父」であるゲーチスが、仰々しいローブを翻しながら入ってきた。彼の背後には常に巨大な影が付きまとっている。実在の影以上に、彼の放つ圧迫感が部屋の空気を黒く塗りつぶしていく。

 

「お父様。計算は無意味ではありません。誤差を排除し、論理的な純粋性を保つためには必要なプロセスです。この世界の不協和音を消し去るために」

 

「ふむ……。不協和音、か。よろしい。ならばその耳で聞き続けなさい。愚かな人間たちが、ポケモンを道具として虐げ、魂を奪い去る悲鳴を」

 

ゲーチスが杖を床に叩きつける。その振動が、僕の足元から心臓へと伝わった。

 

「彼らはポケモンを『ボール』という名の牢獄に閉じ込め、戦わせ、傷つける。それが人間という種の本性だ。救うべきは、言葉を持たぬ彼ら。解放されるべきは、真実なる魂だ」

 

「……わかっています。僕には聞こえるから。彼らの苦しみが」

 

僕は足元に寄ってきたダルマッカの頭を撫でる。

この子の脈拍は1分間に120回。今は少し早い。僕の不安が伝わっているのか、それとも……。

 

「トモダチは言っているよ。外の世界は、冷たい鉄の匂いと、人間の欲望に満ちているって」

 

「左様。だからこそ、お前は王にならねばならん」

 

ゲーチスの声が、歪んだ倍音を伴って部屋に響く。

それはまるで、洗練されたプログラミングコードのように僕の脳内に書き込まれていく。

自由、解放、救済、分離。

キーワードが並び、僕の思考回路を支配する。

 

「お前は選ばれた。人間を超越し、ポケモンと心を通わせる唯一の王だ。伝説のドラゴンを呼び覚まし、愚民どもに引導を渡す。それがハルモニアの名を継ぐ者の義務だ」

 

「……義務」

 

「そうだ。他人のことなど考えなくていい。お前には私がいれば十分だ。そして、お前を信じるポケモンたちが。それ以外の『個』はすべてノイズに過ぎない」

 

ゲーチスが去った後、部屋には再び静寂が訪れた。

僕は壁に描かれた立方体の展開図をなぞる。

僕の世界は、この城。

僕の真実は、ゲーチスが与えてくれる情報。

僕の友人は、人間を傷つけられ、追い詰められたポケモンたちだけだ。

 

「……ねえ、君はどう思う?」

 

僕はダルマッカに問いかける。ダルマッカはただ、潤んだ瞳で僕を見つめ返した。

その瞳には、僕の顔が映っている。

緑色の髪、無機質な服、そして……自分でも驚くほど、空っぽな表情。

 

僕の頭の中では、絶えず数式が流れている。

人間がポケモンを所有する確率、それによって発生する苦痛の総量、そして解放によって得られる幸福の期待値。

すべては1と0の間に収束するはずだ。

世界はシンプルであるべきだ。

愛という名の不確かな変数も、絆という名の欺瞞も、すべては計算エラーの元凶でしかない。

 

「……101、103、107。よし、素数だ」

 

僕は自分を納得させるように呟く。

僕は王。ポケモンのための、冷徹で純粋な支配者。

僕に「心」など必要ない。ただ、彼らの声を解析し、最適解を導き出す計算機であればいい。

 

「もうすぐ、世界を分かつ時が来る。境界線を引くんだ。人間と、ポケモンとの間に。誰も入り込めない、完璧な障壁を」

 

僕は窓のない壁の向こう側、見たこともない「外の世界」を想像する。

そこには、僕の計算を乱すような「不規則性」など存在しないはずだ。

ゲーチスがそう言った。

だから、僕はそれを真実として処理する。

 

「……僕は、誰も愛さないし、誰にも愛されない。それでいいんだ」

 

独り言は、幾何学模様の壁に反射して、空虚に消えていった。

それが「孤独」という単語で定義される感情だと、当時の僕はまだ、理解するだけのボキャブラリーを持っていなかった。

 

僕はただ、割り切れない数字の海に溺れながら、来るべき「解放」の日を待ち続けていた。

その完璧な数式に、たった一人の「イレギュラー」が乱入してくることなど、微塵も疑わずに。

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