ポケットモンスター 元プラズマ団・Nが、伝説のポケモンと往く「トモダチ」ではない「愛」を探す世界再発見の旅 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……計算通りだ。既存の秩序という名の脆弱なソフトウェアが、いま、物理的な破壊という強制終了(シャットダウン)を迎える」
ポケモンリーグ、チャンピオンの部屋。
僕はアデクを倒し、玉座の前に立っていた。敗北したチャンピオンの背中は、僕が予測した通り、古びた時代の終焉を象徴するように静かだった。
だが、これはまだ序章に過ぎない。
僕が求めるのは、単なる王座の交代ではなく、世界そのものの「構造(アーキテクチャ)」の書き換えだ。
「……おいで、僕の城。ハルモニアの意志を、この地に具現化させるんだ」
僕が合図を送った瞬間、大地が悲鳴を上げた。
マグニチュード8.0を超える激震。
強固な石造りのポケモンリーグが、紙細工のように無残に裂けていく。その裂け目からせり上がってきたのは、幾何学的な冷徹さと、圧倒的な威圧感を備えた巨大な城壁。
「Nの城」。
それは、僕が城の中で数えてきた孤独な数字たちが、鋼鉄と石の塊となって現実を侵食していく光景だった。
「……あはは! 見てごらんよ、アデク。君たちが守ってきた『リーグ』という権威が、僕の理想の重圧に耐えかねて、粉々に砕け散っていく。物理的な破壊こそが、最も理解しやすいパラダイムシフト(変革)だと思わないかい?」
巨大な城のパーツが、リーグの建物を外側から包み込み、巨大な爪のように大地へ固定されていく。
轟音。土煙。
そして、空を覆い尽くすほどの絶望感。
僕の城は、ポケモンリーグという「既存のシステム」を物理的に踏みつぶし、その上に新たな王の座標を確立したんだ。
「……何という、デタラメな……。若いの、お前は本当に、こんな破壊の先にハルモニア(調和)があると信じているのか?」
アデクの声は、崩落する瓦礫の音にかき消されそうだった。
「信じているんじゃない。証明しているのさ。調和とは、ノイズの徹底的な排除だ。人間とポケモンが混ざり合い、お互いを磨耗させている今の世界は、設計ミスなんだよ。だから、一度地中に埋めて、真っさらな基盤(プラットフォーム)から再構築する。それだけの話だ」
その時、城の入り口となる跳ね橋が降りた。
そこから現れたのは、息を切らし、傷だらけになりながらも瞳の光を失っていないあのトレーナーだ。
「……遅かったね。でも、観客としては100点満点だ。最高のタイミングで、僕の『真実(あるいは理想)』の完成を見届けてもらえる」
「……N! こんなの、やりすぎだよ! みんなが作った場所を壊して、何が解放なの!?」
「やりすぎ? ……ふむ。君たち人間が、ポケモンの住処を壊して道路を作り、街を広げてきた歴史を棚に上げて、よくそんなことが言えるね。僕はただ、君たちがやってきたことを逆方向に演算しているだけだ。人間の傲慢さを、この城の重量で押し潰しているんだよ」
僕は階段を登り、城の深部へと歩き出す。
背後で、城壁が完全に連結し、外部との回路が遮断される音が響いた。
「この城は、僕の脳内そのものだ。無駄な感情を排除し、ポケモンの自由だけを追求した数式の檻。……おいで。この城の最上階で、最後の演算を行おう。伝説対伝説。君の持つ『不確定な要素』が、僕の『絶対的な論理』を上回ることができるのかどうか……。もし君が負ければ、イッシュの全ポケモンは、その瞬間にボールという檻から解き放たれる」
「……僕は負けない。君の悲しい計算を、僕とポケモンたちの力で壊してみせる!」
「悲しい、か。君の語彙力には、相変わらず客観性が欠けているね。だが……その熱量は嫌いじゃないよ」
僕は城の回廊を歩きながら、窓の外を見た。
そこには、僕の浮上させた城によって引き裂かれた大地の傷跡と、恐怖に震える人間たちの姿があった。
カタルシス。
長年、僕の胸を締め付けていた「ポケモンの悲鳴」というノイズが、この破壊の音とともに、少しずつ中和されていくのを感じる。
「……さあ、舞台は整った。既存の社会システムという名のゴミ箱をひっくり返し、新しい世界をインストール(構築)しよう」
僕は玉座の間へ続く巨大な扉を開いた。
そこに待ち構えるのは、伝説のドラゴンと、僕という名の孤独な王。
そして、この世界に残された最後の「エラー」である君だ。
「10。9。8……。カウントダウンは、もう0に近い。君の数式を見せてくれ。僕の心臓が、この城の振動と同調(リンク)して止まってしまう前にね」
扉が閉まる。
世界は、僕という名の檻の中に閉じ込められた。