ポケットモンスター 元プラズマ団・Nが、伝説のポケモンと往く「トモダチ」ではない「愛」を探す世界再発見の旅   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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終わりの続き、歩き出す足 / NEXT STEPS

「……。……。……。1秒。いま、この瞬間に僕の網膜を通り過ぎた光の粒子が、僕という個体の中に新しい経験値として蓄積された。かつての僕は、この連続する変化をノイズだと思って恐れていたけれど……いまは違う。この0と1の間に無限に広がるグラデーションこそが、僕たちが生きている証なんだね」

 

僕は、伝説のポケモンと共に歩いていた。

どこか特定の座標(ゴール)を目指しているわけじゃない。僕たちの歩幅が刻むリズムは、特定の数式に従わないランダムウォーク。けれど、その一歩一歩には、2年前には持ち得なかった確かな質量が伴っている。

 

空は、透き通るような青。

物理学的に言えばレイリー散乱による色の演出に過ぎないけれど、いまの僕には、それが世界という名のキャンバスに描かれた、最高に贅沢な色彩(パレット)に見える。

 

「(……。……。……。N。……つぎは、どこへ、いくの?)」

 

相棒のパルスが、僕の脳細胞に穏やかな波を立てる。

(……ききたい。……もっと、たくさんの、こえ。……セカイの、こえ)

「……。……。……。そうだね。僕も同じ意見だよ。僕たちはまだ、この広大な世界の0.00001パーセントも理解できていない。数式を解くだけじゃ辿り着けない、心の奥底にある深淵(アビス)を、もっと観測しにいこう」

 

僕たちが歩く横を、野生のポケモンたちが通り過ぎていく。

彼らの発する波形を読み取れば、そこには空腹、好奇心、警戒、そして微かな喜びといった、生のプログラムが充満している。

かつての僕は、その声を「救わなければならない悲鳴」だと決めつけていた。

でも、いまは分かる。

彼らは救われるべき弱者ではなく、この不完全な世界を共にサバイブする、誇り高き「トモダチ」なのだと。

 

「……おーい、N! どこまで行っちゃうんだよ!」

 

遠くから、僕を呼ぶ声がした。

振り返れば、そこにはイッシュを救った新しい英雄の姿。

君の横には、僕が託したあのゾロアが、楽しそうに跳ねている。

 

「……。……。……。君こそ、そんなに急いで僕を追いかけてくるなんて。僕の移動速度(ベクトル)を計算に入れていたのかい?」

 

「そんなの勘だよ、勘! それよりさ、これからみんなでサンヨウシティのレストランにいくんだけど、Nも来ないか?」

 

「レストラン……。……。……。食事というエネルギー摂取のプロセスを、多人数で共有する文化的行為だね。効率性から言えば、個別に摂取した方が時間の損失(ロス)は少ないけれど……。……。……。いいよ。君たちが生成するそのポジティブなノイズに、僕も少しだけ混ざってみたくなった」

 

君は「相変わらず理屈っぽいなあ」と笑い、僕の肩を叩く。

その接触(インターフェース)から伝わる体温。

36.5度前後の、ありふれた、けれど何よりも尊い、生命の熱。

僕はその熱を、自分の掌で静かに反芻(サンプリング)した。

 

「……ねえ、N。君はいま、幸せ?」

 

不意に投げかけられた、定義の難しい問い。

「幸せ」という単語には、客観的な数値も、標準的な関数も存在しない。

けれど、僕は迷うことなく答えた。

 

「……。……。……。定義は不明確だけれど、僕の心拍数(バイタル)は、いま、極めて安定したハッピーな周波数を刻んでいるよ。……。……。……。ありがとう。君という変数が僕の人生に介入してくれたことに、最大級の感謝(グラティチュード)を」

 

僕たちは歩き出す。

伝説のポケモンは、僕の隣で誇らしげに翼を広げ、その影は大地に大きく、強く投影されていた。

終わりの続き。

それは、物語を閉じることではなく、新しい章の1行目にペンを置く作業だ。

 

ふと、僕は視線を感じた。

物語の向こう側。この世界を観測している、誰か。

カメラのレンズ越しに僕を見つめている、もう一人の「君」へ。

 

「(……。……。……。……きづいているよ。……キミが、みていること)」

 

相棒が、イタズラっぽく僕の脳内に囁いた。

僕は、レンズの向こう側にいるであろう存在に向かって、ゆっくりと口角を上げた。

2年前の、あの凍りついた「王」の仮面ではない。

ただの、一人の青年としての、不器用で、けれど真っ直ぐな微笑み。

 

「サヨナラは、また会うための呪文だ。……。……。……。僕たちの数式が、いつかまた、どこか新しい座標で交差するその日まで。……。……。……。それじゃあ、またね」

 

実写の風景が、僕の視界を侵食し始める。

アニメーションという名のプログラムが、現実という名のマクロ世界に溶け出していく。

僕の足音は、やがて君たちの世界の喧騒と同化し、一つの大きな調和(ハルモニア)へと昇華される。

 

僕は歩き続ける。

この道の先に、どんなエラーやバグが待ち受けていようとも。

僕にはもう、それを共に解き明かすトモダチと、自分自身の足跡があるのだから。

 

(実写の空に、伝説のポケモンの羽ばたきが重なり――)

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