Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第1章
第1話 聖剣を拾う


「悪いけど相馬 透(そうま とおる)。今日でお前、クビな」

 

 ダンジョンからの帰り道。

 薄暗いギルドの酒場で、俺はパーティリーダーの剛田 浩司(ごうだ こうじ)からそう告げられた。

 

「……え?」

 

「だから、クビ。パーティ追放ってやつ」

 

 リーダーの戦士、剛田はジョッキに残ったビールを一気に飲み干し、汚いものでも見るような目で俺を見た。

 

「理由、聞いてもいいか?」

 

「あ? そんなの決まってんだろ。お前が()()からだよ」

 

 テーブルをドン、と叩く音が響く。

 周囲の探索者たちが、ニヤニヤしながらこちらの様子を窺っているのが分かった。

 

「俺たち『ブレイブ・ソード』は、来月にはBランクへの昇格試験を受ける。火力も上がってるし、連携も完璧だ。だが……お前だけが邪魔なんだよ」

 

「俺は……荷物持ちとしても、マッピング係としても働いてるつもりだぞ」

 

「もうビギナーじゃねえんだ。荷物持ちなら、もっと腕っぷしのいい奴を雇う。マッピングなら最新のドローンでいい。お前の取り柄ってなんだ?」

 

 剛田は俺の胸元に指を突きつける。

 

「お前のスキル、『鑑定』だっけ? あれ、マジで使えねぇよな」

 

 俺は唇を噛みしめる。

 何も言い返せない。それが事実だからだ。

 

 俺の固有スキル――真贋鑑定(しんがんかんてい)

 名前だけは立派だが、その効果は悲惨なものだ。

 

 対象を見ると、ただ【アイテム名】が表示されるだけ。

 それだけだ。

 

 レア度も分からなければ、詳細な効果も分からない。

 しかも、ダンジョン産のアイテムなんて、ギルドに持ち帰れば専用の鑑定機ですぐに判別できる。

 わざわざ探索中に、MPを消費してまで俺が鑑定する必要なんてどこにもないのだ。

 

「分かったか? 分かったらさっさと荷物をまとめて出て行け。手切れ金はねぇぞ」

 

 剛田はそう吐き捨てると、他のメンバーと共に席を立った。

 ヒーラーの酒井 凛(さかい りん)が、去り際にクスクスと笑いながら俺に囁く。

 

「透くん、今までお疲れ様。あ、透くんが管理してたポーション代、給料から引いとくね? 割れてたやつあったしー」

 

「……っ」

 

 あいつらが無理な戦闘をして、俺に鞄ごと敵へ突っ込ませたから割れたんじゃないか。

 そう叫びたかったが、声にならなかった。

 

 彼らが去った後のテーブルには、割り勘にされた伝票だけが残されていた。

 

 ◇

 

 ギルドを出ると、外は冷たい雨が降っていた。

 

 俺の装備は、革の鎧がボロボロに擦り切れている。

 武器は、護身用のダガーナイフ一本。それも刃こぼれが酷い。

 

 スマホを取り出し、銀行口座の残高を確認する。

 

【残高:1,280円】

 

「……笑えないな」

 

 家賃を払えない。しばらくすればアパートも追い出されるだろう。

 コンビニで廃棄間近の弁当を買う余裕すらない。

 

 パーティという後ろ盾を失えば俺はFランク探索者。

 特別な才能も、強力なコネもない。

 あるのは役立たずの『鑑定』スキルだけ。

 

 そんな惨めな俺とは裏腹に、街頭ビジョンには、華やかなニュースが流れている。

 

『速報です! Sランク探索者、神宮寺(じんぐうじ)セイラ氏が、深層攻略から帰還しました!』

 

 画面に映し出されたのは、日本最強と謳われる『剣聖』神宮寺セイラだ。

 プラチナブロンドの髪をなびかせ、凛とした表情でインタビューに答えている。

 俺と同い年とは思えないほどのオーラだ。

 

『しかしセイラさん、今回の遠征では愛用の魔剣が破損したとのことですが……』

 

『ええ。深層の魔物は流石の硬度でした。今の私の剣技に耐えられる武器が、市場には存在しないのが悩みですね』

 

 アナウンサーの問いに、彼女は溜息交じりに答えている。

 

「……住む世界が違うな」

 

 Sランク探索者は、武器一つに数億円をかけるという。

 対して俺は、明日のパン代にも困っている。

 

 ふと、視線を感じて顔を上げる。

 雨に濡れた路地裏。

 そこは、ダンジョンから排出された「廃棄物」が一時的に集められるゴミ集積所だった。

 

 探索者たちがダンジョン内で拾ったものの、値がつかなかったガラクタ。

 壊れた装備、効果の切れた魔道具、ただの石ころ。

 それらが無造作に積み上げられている。

 

「……ここなら、何か売れそうな金属片くらい落ちてるか?」

 

 プライドなんてとうに捨てた。

 俺は泥だらけになりながら、ゴミ山へと足を踏み入れた。

 

 錆びた鉄くず。割れた盾。腐った木の棒。

 視界に入るもの全てに、自動的に鑑定スキルが発動する。

 

【鉄くず】

【ひび割れた盾】

【ただの棒】

 

「はは……ゴミばっかりだ。俺と一緒だな」

 

 自嘲気味に笑った、その時だった。

 

 ズキリ。

 

 右目に、走ったことのない激痛が走った。

 今まで感じたことのない、熱い何かが脳内を駆け巡る。

 

「ぐ、あ……ッ!?」

 

 俺はゴミ山の中でうずくまった。

 視界が真っ赤に染まる。

 世界が歪み、数字と文字が滝のように流れていく。

 

《熟練度が一定値に達しました》

《ユニークスキル『真贋鑑定』が覚醒しました》

《隠しパラメータ『修復』『価格査定』が解放されます》

 

 無機質なシステム音が脳内に響く。

 痛みが引くと同時に、俺は恐る恐る目を開けた。

 

 ゴミ山の頂上。

 雨に打たれ、赤茶色に錆びついた一本の剣が突き刺さっていた。

 どこにでもある、ただのボロ切れのような剣。

 

 だが、今の俺の目には、それが()()に輝いて見えたのだ。

 

「……なんだ、これ?」

 

 震える手で、その剣に触れる。

 すると、今まで【錆びた剣】としか表示されなかったウィンドウが、ノイズ混じりに書き換わった。

 

====================

【名称】聖剣エクスカリバー(封印状態)

【ランク】国宝級(SSR)

【状態】重度の錆、呪いによる封印

【真価】全ての防御を無効化する絶対切断能力。所持者の魔力を増幅させる。

 

【修復可否】可能(※市販の錆落としと、所有者の魔力注入で封印解除)

 

【推定市場価格】測定不能(※15億円以上確実)

 

「…………は?」

 

 俺は泥水の中に尻餅をついた。

 雨音がかき消されるほど、心臓が早鐘を打っている。

 

 国宝級?

 15億円?

 市販の錆落としで直る?

 

 俺の手の中にある、この鉄クズが?

 

「ま、まさかな……」

 

 けれど、スキルの表示は消えない。

 俺は震える手で、その重たい剣を引き抜いた。

 ずしりとした重みが、これが現実だと告げている。

 

 もしこれが本物なら。

 もしこれを、俺だけが知る価値のまま、売ることができたなら。

 

 俺の脳裏に、俺を嘲笑った元パーティの顔が交互に浮かんだ。

 

「……やってやる」

 

 俺はボロボロのコートの下に聖剣を隠すと、雨の中を走り出した。

 向かう先はボロアパート。

 そして、俺の唯一の武器となる戦場――

 

 探索者専用ネットオークション『D・マーケット』だ。

 

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