Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
アルプスの山肌に埋め込まれるようにしてそびえ立つ、エデン・グループの第一魔力吸引プラント。
その施設の手前で、俺たちはシルヴィの展開する『影の天幕』の中で再び足を止めていた。
「……ここから先は、彼らが設置した『魔力探知障壁』の稼働領域です。ご覧ください」
シルヴィが指し示した先。
一見するとただの冷たい氷壁にしか見えない空間。だが、俺が右目の『真贋鑑定』に意識を集中させると、視界が歪み、空間をびっしりと覆い尽くす、網の目のように細かく明滅する青白く危険な魔力のレーザー光線が浮かび上がった。
「この障壁は、通過する物質の質量、および微弱な魔力反応をミリ単位で常にスキャンしています。さらに、その周波数は不規則に変動しており、完璧に気配を消していても、障壁そのものに触れた瞬間に一発で感知されてしまいます。……私一人では、この流動する隙間を完璧に見極めるのは不可能でした」
「なるほどね……。普通の探知器ならハッキングでどうにかなるけど、魔力の直接的な物理障壁となると、私の手には負えないわ」
凛がタブレットを睨みながら、悔しそうに眉をひそめる。
「フッ……だからこそ、トオル、君の出番というわけだね。美しき『神の目』の輝き、私に見せておくれ」
シャルルが期待に満ちた目で俺を見つめる。
俺は深く息を吐き、右目の『真贋鑑定』を最大出力で稼働させた。
キィィィン……と頭の奥で軽い共鳴音が響き、俺の視界には、ただの青白いレーザー光線ではなく、その一本一本が明滅する「秒数のカウントダウン」と、魔力密度が一時的にゼロになる「安全な隙間」の位置が、正確な座標データとなってリアルタイムで浮かび上がった。
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【名称】エデン製高密度魔力探知障壁・外周網
【周波数】不規則変動中
【解析結果】
3秒後に、右前方2メートルの区画の魔力密度が1.2秒間だけ消失。
その直後、左斜め前方1.5メートルに、0.8秒間の安全な隙間が発生。 ====================
(……視える。完璧に動きが予測できるぞ。これなら簡単だ)
「シルヴィ、俺の指示通りに、迷わず影を動かしてくれ。……みんな、俺の体から絶対に離れるなよ」
「わ、わかった!」
「透くん、信じてるからね」
セイラが俺の左腕をぎゅっと抱きしめ、凛が右側にぴったりと密着する。
……うん、今は集中だ。
「いくぞ……3、2、1、右斜め前方に三歩! 進め!」
俺の掛け声と同時に、シルヴィが一切の躊躇なく、滑るように影を移動させた。
俺たちが足を止めた瞬間、鼻先をかすめるようにして、冷たい魔力の障壁レーザーがヒュンッと音を立てて通過していった。もしコンマ一秒でも遅れていれば、プラント全体に大音量の警報が鳴り響いていたはずだ。
「……っ!」
シルヴィの切れ長の目が、驚愕に大きく見開かれる。
「次は左だ。二秒後に安全な隙間ができる……そこをすり抜けて、一気に五歩前進……今だ、走れ!」
「はいっ!」
俺たちは、不規則にうねる魔力のレーザー迷路の中を、まるで最初からそこに道が存在していたかのように、完璧なタイミングで突破していった。
右へ三歩、左へ一歩、そして一秒の静止。
「これで最後だ。正面のハッチが解除される。……滑り込め!」
ハッ! とシルヴィが影を極限まで縮小させ、俺たちは氷壁に擬態していたプラントの地下搬入口へと、滑り込むようにして滑り込んだ。
重厚な金属ハッチが静かに閉まり、外の猛吹雪の音が完全に遮断される。
「……信じられません。あの流動する障壁を、ただの一度も接触せずに、最短ルートで突破するなんて……ソウマ様、貴方の『目』は、文字通り神の領域に達しているのかもしれませんね」
シルヴィは不織布のマスクを外し、驚きと、深い敬意の入り混じった眼差しを俺に向けて頭を下げた。
「ただ表示された情報を見てるだけさ。たいしたことじゃないよ」
俺は照れ隠しに頭を掻きながら、アガートラームの格納されている左手の指輪をそっと撫でた。
俺たちは薄暗い通路を静かに進み、ついにプラントの心臓部である『中央制御室』へと到達した。
「……あったわ。あれが、魔力を逆流させるためのバルブね」
凛が防弾ガラスの向こうを指差す。 部屋の最奥、太い青色の配管が複雑に絡み合うその中心に、頑強な真鍮製の巨大なバルブが、静かに鎮座していた。