Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第97話 逆流

 氷河の地下に造られたエデン・グループの『第一魔力吸引プラント』。

 その心臓部たる中央制御室は、思っていたよりもずっと静かで、そして不気味な場所だった。

 磨き上げられた金属とガラスで構成された室内は、かすかな電子音と、壁の向こうから響いてくる巨大なタービンの超低音駆動音だけが支配している。

 コントロールパネルには、数え切れないほどのランプが明滅し、青い魔力のラインが複雑な幾何学模様を描きながら、床下から天井へと伸びる極太のパイプラインに収束していた。

 

「……信じられないわね。これだけの施設を、国どころかEUに無断でアルプスの地下に作り上げるなんて。エデン・グループの資金力、改めて恐ろしいわ」

 

 凛が呆れたように呟く。

 

「ええ。ですが、その傲慢な富の城も、ここでおしまいです。……ソウマ様、制御システムのアクセス権の奪取を開始します。合図をお願いします」

 

 藍色の髪を揺らし、シルヴィが冷淡な声で言った。

 彼女の影魔法はすでに解除されているが、周囲の警戒を怠らず、その手にはいつでも黒いダガーを投げられるよう構えられている。

 

「ああ、頼む」

 

 俺は右目に意識を集中させ、『真贋鑑定』を発動した。 

 途端に、無機質だった制御室の景色が、無数の情報タグと光の流れへと切り替わる。

 

====================

【名称】アルプス第一魔力吸引プラント・中央制御システム

【状態】正常稼働中

【魔力経路】地底のダンジョンから吸引された高密度魔力が、床下の配管から中央タービンを経由し、天井の極太パイプラインを通じてスイスのエデン本社へ常時送電中。

【構造の真実】

 中央タービンの背後に位置する「セーフティバルブ」を物理的に全閉にし、制御システムの魔力回路を逆接続させることで、すべての魔力が逆流する。

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 防弾ガラスの向こう、ごうごうと回転する巨大なタービンと、そこから伸びる極太の青い配管。その裏側に隠された、システム本来の『魔力回路』が、一本の細い光の糸となって俺の視界に浮かび上がっていく。

 

 魔力をスイス側に逆流させ、高負荷のエネルギーを本社システムのメインフレームに直撃させることで、一時的にすべての機能を麻痺させることができる。

 

「凛、シルヴィ。制御システムを乗っ取るのは、手前のアクセスポートからだ。そこに凛のPCを繋いでくれ。……ただ、ハッキングを開始した瞬間に、本社のメインシステムにエラー信号が飛ぶ。向こうが気づいて強制シャットダウンや、最悪の場合は自爆プログラムを起動させるまで、猶予は三分ってところだな」

 

「三分? 十分すぎるわ。この私を誰だと思ってるのよ」

 

 凛が不敵な笑みを浮かべ、俺が指差したポートに手際よくケーブルを差し込んだ。

 彼女の細い指先が、キーボードの上でまるでピアノを奏でるように滑らかに、そして恐るべき速度で踊り始める。

 

「トオル、本当に大爆発は起こらないんだね? 何度も言うようだが、美しきアルプスの景観を私の代で損なうような真似は――」

 

「大丈夫ですって、シャルルさん。爆発はさせません。その代わり、少しばかり『派手な嫌がらせ』を仕掛けるだけです」

 

 スパイスワインのボトルを片手に、今更ながら心配そうに眉をひそめるシャルルに、俺はヘルメットの奥から苦笑して答えた。

 

「セイラ、出番だ。あの防弾ガラスの向こう、一番太い青い配管の根元にある、あの真鍮製のバルブが見えるか?」

 

「うん! あの一番大きくて、丸いやつだよね?」

 

 セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』の柄から手を離し、小首を傾げる。

「そうだ。あれが、過負荷の時に魔力を逃がすためのセーフティバルブだ。

 

「……今から俺が指示する位置まで、力ずくで回して完全に固定してほしい。かなりの魔力圧がかかっているから、普通の人間じゃ一ミリも動かないはずだ」

 

「わかった! 任せて!」

 

 セイラは笑顔で頷くと、防弾ガラスの引き戸を開け、タービンが唸りを上げる巨大な機械室へと軽やかに飛び込んでいった。

 

『主様! ワタシも! ワタシもあのバルブとやらを、一刀両断にして差し上げましょうか!? あの成金趣味の聖剣ばかりを頼られては、ワタシの刃が――』

 

「斬ったらだめだ。大人しく浮いてろ」

 

『そんな……主様の無慈悲な拒絶。ですがそれもまた……ハァ……』

 

 俺の背後でジタバタと悶えるカリバーンを適当にあしらいつつ、俺は機械室のセイラに指示を送る。

 

「セイラ、そのままバルブを右に三回転だ! そこが全閉の位置だ!」

 

「いくよーっ、せーのっ!」

 

 セイラが細い両腕を巨大なバルブにかけ、ぐっと力を込めた。

 次の瞬間、ギギギギギ……と、高圧の魔力水が流れる凄まじい抵抗を無視して、頑強な真鍮のバルブが、まるで粘土細工をこねるかのように容易く回転し始めた。

 Sランク探索者の中でも突出した彼女の膂力の前には、機械の抵抗など無に等しい。

 

「よし、全閉完了! びくとも動かないように、私がぐっと固定したよ!」

 

「さすがだな。凛、こっちはいつでもいけるぞ!」

 

「こっちも、メインフレームの最終防壁を突破したわ! 魔力回路のショートプログラム、いつでも起動できる!」

 

 凛がモニターから顔を上げ、勝利を確信した笑みを浮かべた。

 

「よし……やれ、凛!」

 

「アンティーク・アイの力、思い知りなさい!」

 

 凛が力強く、エンターキーを弾いた。

 

 ――ズズズズズンッ……!!

 

 その瞬間、プラント全体を揺るがすような、地の底からの重低音が響き渡った。

 防弾ガラスの向こう。

 激しく回転していた巨大なタービンの動きが、一瞬だけピタリと静止する。

 そして──

 

 キィィィィィィンッ!!!!

 

 配管を流れていた青い魔力の光が、一瞬にして赤熱した黄金色へと変色し、これまでとは逆の方向――スイスのエデン本社へと繋がる極太のパイプラインに向けて、凄まじい勢いで逆流し始めた。

 逃げ場を失った高密度の魔力が、一本の配管へと強制的に押し込まれ、ものすごい速度でスイスの本陣へと向かって射出されていく。

 

「逆流、完全稼働! プラントが吸い上げたすべての魔力が、連中に帰っていくはずよ! ……あちらのメインサーバー、今頃大火事になってるでしょうね」

 

「ああ。俺にもよく視えてるよ」

 

 エラー警告の赤ランプが激しく点滅する制御室の中で、凛は、最高のドヤ顔を俺たちに向けて見せたのだった。

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