Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
アルプスの地下、分厚い氷河の下に隠されたエデン・グループの第一魔力吸引プラント。
中央制御室のガラス越しに見える巨大なタービンは、その駆動音を悲鳴のような高音へと変え、逆流する黄金の魔力光をスイスの本社に向けて射出し続けていた。
「逆流、完全に安定軌道に乗ったわ。これで連中のメインサーバーは、今頃パンク寸前の過負荷で火を噴いているはずよ」
コントロールパネルに滑らせていた指を止め、凛がふぅと深く息を吐き出した。額には薄っすらと汗が滲んでいるが、その表情にはかつてないほどの達成感と、彼女らしい不敵な笑みが宿っている。
だが、安堵の時間は一瞬すら与えられなかった。
――ビィィィィィィン! ビィィィィィィン!
制御室の天井に設置された赤い警告灯が、血の滴るような光を放ちながら激しく回転し始める。
鼓膜を震わせるけたたましい侵入者排除のサイレンが、冷たいコンクリートの壁に反響して響き渡った。
「まあ、黙ってるわけはないわね。……どうやら、お出ましみたいよ」
凛は素早くキーボードを叩き、監視カメラの映像をいくつかのマルチモニターに分割表示させた。
画面に映し出されたのは、通路の奥から統制された動きで迫り来る、黒いタクティカルスーツを身に纏った私兵部隊。そして、その背後から無表情のまま銃器を構えて行進する、まったく同じ顔をした少女たちの集団だった。
「お父様が造り出した人造クローン兵……ほんっと、どこまでも……」
セイラが、その碧眼に強い怒りと悲しみの光を灯し、腰の『エクスカリバー・アヴァロン』の柄にそっと手を添えた。
「フッ……実にもって無粋なオーケストラだ。だが、私の友人の美しい仕事を邪魔させるわけにはいかないからね。……シルヴィ、準備はいいかい?」
シャルルが優雅な手つきで防寒コートを脱ぎ捨て、身軽なシャツ姿になる。その全身から、黄金色のオーラが陽炎のように立ち上り始めた。
「いつでもいけます、シャルル様。侵入者の排除、および情報の防衛を実行します」
いつの間にかシャルルの影の中に溶け込んでいたシルヴィが、冷淡な声と共にその姿を現した。彼女の切れ長の瞳は、通路の暗闇を鋭く射抜いている。
「よし、みんな。ここからは総力戦だ。凛は制御室でシステムの監視と防衛を……他のみんなは、クローンの対応だ!」
俺は一歩前に出ると、左手の指輪に意識を集中させた。
こういう時のために、完璧に修復し調整を終えた古代の遺物。
「――『変身』」
《古代魔導機装・アガートラーム、展開》
シュイィィン!と清冽な青い光が全身を包み込み、漆黒と白金の流線型装甲が、寸分の狂いもなく俺の身体へと纏われていく。
バイザーの内側に各種センサーの情報がリアルタイムで投影され、俺の感覚は限界以上に研ぎ澄まされた。
「行くぞ!」
俺が叫ぶのと同時、通路の角から私兵部隊とクローン兵の集団が雪崩れ込んできた。
クローン兵たちは、人間らしい躊躇を一切見せることなく、一斉に手にした魔導アサルトライフルをこちらに向けて構える。
「標的を確認。一斉射撃を開始する」
無機質な、重なり合う少女たちの声。 直後、狭い通路を埋め尽くすほどの、青白く高密度に圧縮された魔力レーザーの雨が放たれた。
「トオル、ここは頼んだよ!」
「ああ、任せろ!」
俺は地を蹴り、アガートラームのパワーアシストによって、弾幕の真っ只中へと割って入った。 両腕を交差させ、絶対装甲の盾を構える。
ガガガガガガガガッ!!!
激しい衝突音と、火花。 一発で鋼鉄を容易く消し飛ばす威力の魔力弾が、アガートラームの装甲に触れた瞬間、青い光の粒子となって霧散していく。
衝撃波は内部の緩衝システムが完全に殺し尽くし、俺の肉体には微かな振動すら伝わってこない。
「びくともしないな……! さすがは神話級だ!」
『当然です、主様! その程度のブリキの玩具の弾幕など、ワタシたちの防壁の前には無力! さあ、今度はワタシたちからお礼をして差し上げましょう!』
「褒めたのはお前じゃないんだけど……まあいいや。頼りにしてる!」
『お任せあれ!!!!』
俺の右手に握られたカリバーンが、嬉々として漆黒と白銀のオーラを放ち始める。
「シャルルさん、今だ!」
「美しきタイミングだね! では、私の舞を披露しよう!」
俺の背後から、黄金の光を放ちながらシャルルが跳躍した。 彼は壁を踏み台にし、狭い通路の天井近くを燕のように滑らかに滑空する。
「美の烈脚《ラファール・ドゥ・ボーテ》!!」
空中で体勢を捻り、放たれたのは、嵐のような連続蹴り。
彼の鍛え抜かれた脚から放たれる黄金の斬撃波が、私兵部隊の防盾をいとも容易く紙クズのように切り裂き、クローン兵たちを後方へと吹き飛ばしていった。
「……影よ」
混乱する敵の足元から、今度はシルヴィが動いた。 倒れた私兵やクローン兵たちの影が、不自然に波打ち、鋭い黒い棘となって下から一斉に突き上げる。
ズバズバズバッ!
影の棘に貫かれたクローン兵たちは、痛みを感じないまま、ただの壊れた機械のように「システムエラー。魔力供給の遮断を確認」とシステム音を口にしながら、静かに崩れ落ちていく。
「じゃあ、残りは私任せて!!」
セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を上段に構えた。
創世級の真の力が解放された聖剣から、広間全体を白一色に染め上げるほどの、圧倒的な神聖なる光が溢れ出す。
「はぁぁぁぁッ!!」
振り下ろされた白銀の刃。
光の刃は、通路の壁や天井を傷つけることなく、残存していたクローン兵たちの魔導武器と防御障壁だけを正確に、そして分子レベルで消滅させた。
音すらない、完全なる絶対切断。
「……ふう。片付いた、かな」
セイラが剣を鞘に収め、軽く息を吐き微笑んだ。
通路には、完全に戦闘能力を奪われ、気絶した私兵と、機能停止したクローン兵の抜け殻だけが残されている。
俺たちの完璧な連携。神話級、創世級の装備を揃えた今の俺たちにとって、量産型の私兵やドールなど、もはや脅威ではなかった。
だが。
――カツ、カツ、カツ。
静まり返った通路の奥から、不自然なほど静かで、しかし、大理石の床を深く踏みしめるような重い足音が響いてきた。
「……っ!」
セイラがビクッと肩を震わせ、今引いたばかりの聖剣の柄に、再び手をかけた。
俺の右目の『真贋鑑定』が、通路の曲がり角の奥から、心臓を直接握り潰されるような、悍ましい魔力の気配を感知する。
アガートラームのバイザーに表示される警告エラーが、激しく明滅し始めた。
現れたのは、漆黒の軍服を身に纏い、血のように赤い髪を揺らす、一人の少女。
セイラと全く同じ、美しくも無機質な顔立ち。
だが、その瞳は光を吸い込むように濁った、深い赤色だった。
「……オリジナル、およびMaster_Eyeを確認。……確保を開始する」
セイラの完璧なクローン体、ノア。
彼女の出現により、空気の温度が急速に下がり、通路全体に濃密な殺気が満ちていった。