Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第101話 成長

 魔物の大群が築き上げた分厚い肉の壁によって、背後のシャルルやシルヴィ、そして魔力を使い果たして倒れた凛の気配が完全に遮断された。

 中央制御室の一角。今やそこは、俺とセイラ、そして赤い髪の死神――ノアだけが取り残された、閉ざされた決闘場と化していた。

 

「……オリジナル、およびMaster_Eyeの確保タスク、第二段階へ移行」

 

 ノアの抑揚のない、平坦な声。  彼女が静かに右足を踏み出した瞬間、俺の視界が一瞬だけブレた。

 

「透、右から来るよっ!」

 

「応ッ!」

 

 アガートラームのバイザー内。警告表示が赤く激しく点滅すると同時に、俺の身体はパワーアシストによって勝手に右へと跳躍していた。

 直後、俺が先ほどまで立っていた床が、ノアの放った赤黒い衝撃波によって爆発的に粉砕され、大理石の破片が猛烈な勢いで吹き飛んでいく。

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

 空中で体勢を整えたセイラが、黄金に輝く『エクスカリバー・アヴァロン』を鋭く振り下ろした。

 創世級の真の力が解放された絶対切断の刃が、光の帯となってノアを切り裂こうと迫る。

 

 ガガシィィィンッ!!!

 

 ノアは回避することなく、自らの両腕を交差させ、赤黒い魔力障壁を無理やり展開してその斬撃を受け止めた。 光と闇、聖と魔。

 相反する二つの規格外の魔力が激突し、周囲の鉄骨や精密機器が火花を散らしながら次々と破裂していく。

 

「カリバーン、いくぞ! セイラの隙を埋める!」

 

『ハッ! 仰せのままに、主様! 我が光と闇の双刃、今こそ主様の敵を切り刻むために振るいましょう!』

 

 俺はアガートラームの機動アシストを最大に出力し、ノアの死角である左後方へと回り込んだ。 手に握ったカリバーンを、ノアの無防備な脇腹めがけて全力で振り抜く。

 

 キィィィン……!

 

 漆黒の魔剣と白銀の聖剣。二つの性質を併せ持つカリバーンの刃が、ノアの展開していた魔力障壁の端に食い込んだ。

 漆黒の刃がノアの魔力を強制的に削り取り、白銀の刃が放つ浄化の光が、彼女の防御を内側から焼き切っていく。

 

「……背後からの魔力干渉を検知。障壁の周波数を変更」

 

 ノアは顔色一つ変えず、瞬時に右脚を翻し、俺の胴体めがけて凶悪な回し蹴りを放ってきた。 アガートラームの自動防御が作動し、左腕の装甲でその蹴りを受け止める。

 

 ガァァァァンッ!!!

 

 凄まじい衝撃。アガートラームの緩衝システムがなければ、腕の骨ごと肉体を消し飛ばされていただろう。

 俺は後方へと数メートル吹き飛ばされながらも、大理石の床を滑るようにして着地した。

 

(……おかしい)

 

 アガートラームの装甲の中で、俺は自身の掌を見つめ、奇妙な違和感を覚えていた。

 

 本来なら、創世級に迫るノアの神速の攻防など、目で追うことすら不可能なはずだった。いくらアガートラームの自動アシストがあるとはいえ、身体が勝手に対応するだけでは、あの一瞬の隙を突いてカリバーンをねじ込むような『能動的な連撃』など、絶対にできるはずがない。

 

(なぜ、俺の『意識』が、ノアの動きに追いついているんだ……?)

 

 ただアシストに流されているのではない。

 ノアがどこに動き、次にどう仕掛けてくるのか。その『未来の軌跡』が、まるで俺自身の感覚のように、頭の中に鮮明に描かれていた。

 

『フフッ、主様。お気づきですか?』

 

 手の中で、カリバーンが嬉しそうにブォンと脈打った。

 

『ワタシは主様に磨かれ、主様の魔力を喰らい、日々進化し続ける魔剣。……主様のその素晴らしい「神の目」と、ワタシの意志は、今や完全に一つに調和しているのですよ!』

 

「カリバーン……つまりどういうことだ?」

 

『意思があるということは、経験を積んで強くなるということ! 主様がワタシを信じて魔力を注いでくださる限り、ワタシの刃はどこまでも鋭く、主様の五感を拡張して差し上げましょう!』

 

 そうか。こいつも俺と一緒に戦うことで、強くなっているのか。

 Fランクの鑑定士でしかない俺の目を、カリバーンがその意志の力で底上げし、アガートラームのシステムとリンクして、俺をこの『超一流の戦場』に立たせてくれている。

 

「よし……! それなら、お前の力を信じるぞ、カリバーン!」

 

『ハッ! 光栄の至りでございます、主様!』

 

 掛け声とともに、俺とカリバーンのシンクロ率が跳ね上がる。

 視界が更にに冴え渡り、ノアの動く『風の流れ』、魔力の『脈動』が、手に取るように分かるようになった。

 

「セイラ、次、左から回り込む! 合わせてくれ!」

 

「うん、わかった!」

 

 俺が地を蹴り、ノアの放った赤黒い魔力弾の嵐を、アガートラームの跳躍とカリバーンの障壁で滑らかに受け流しながら、彼女の側面に肉薄する。

 ノアが俺を迎撃しようと腕を動かした、その瞬間。

 

「そこだっ!!」

 

 セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を、光速の踏み込みと共に振り下ろした。  創世級へと至った聖剣の、真の力。

 あらゆる概念と防御を無効化する白銀の光柱が、ノアの頭上から無慈悲に降り注ぐ。

 

「……防御障壁、出力最大。……相殺不可能。回避を――」

 

 ノアの無機質な声が焦りを帯びる。

 彼女は後方への跳躍による回避を試みたが、その退路には、すでに俺が先回りして放ったカリバーンの漆黒の魔力が、冷酷にそびえ立っていた。

 

「逃がすかよ!」

 

「――っ!?」

 

 退路を断たれたノアの小さな身体に、セイラの黄金の光柱が真正面から直撃した。

 

 ズドォォォォォォォンッ!!!

 

 地下空間全体が激しく震動し、眩い光がすべてを白く染め上げる。 光の嵐が過ぎ去った後。

 ノアは両腕の軍服の袖をズタズタに引き裂かれ、全身から血を流して膝をついていた。彼女の放っていた圧倒的なオーラが、明らかに弱まっている。

 勝負あり、だ。

 

「油断しないで、透。まだ終わってない」

 

 セイラの硬い声が、白煙の向こうから響いた。彼女の碧眼は、黄金の光を絶え間なく放ちながら、膝をつく赤髪の少女を凝視し続けている。

 

「……オリジナル、およびMaster_Eyeの戦闘データ。予想との乖離率、40%。……このままの出力では、任務達成は不可能」

 

 ノアの口から、血が混じった、けれど冷徹なシステム音声のような声が漏れる。

 彼女はゆっくりと、まるで錆びついた人形のように頭を持ち上げた。その瞳は血のように赤く、額の角が不気味に、激しく明滅している。

 

 ズズズズズンッ……!!

 

 大気そのものが悲鳴を上げるような、悍ましい魔力の波動が広間を包み込んだ。

 同時に、肉の壁の向こう――シャルルやシルヴィが戦っていたはずの通路の奥から、無数の少女たちの「声」が、重なり合って響いてきた。

 

「……お父様のために。……新世界のために」

 

 人造クローン兵たちが、糸の切れた人形のように一斉にその場に倒れ込み、その肉体が赤黒い霧となって崩壊し始める。

 彼女らが有していたすべての生命力、魔力、そして細胞内の魔物因子。

 それらが、うねる巨大な赤い奔流となって、防爆壁の隙間をすり抜け、この広間へと一気に流れ込んでいく。

 

「透、構えて!」

 

 セイラが息を呑む。

 数万、数十万という戦闘ユニットから搾り取られた、過密なまでの魔力の河。

 そのすべてが、広間の中央に佇むノアの『角』へと、渦を巻きながら収束していく。

 

『主様! 危険です! あ奴、己の同胞を、スペアのバッテリーのごとく食い潰して力を得ています! なんという非道……なんという浅ましき行い!』

 

 カリバーンが嫌悪を露わにして吠える。

 

「私は……負けられない」

 

 赤い魔力の霧を全身に浴びながら、ノアの傷が急速に塞がっていく。

 引き裂かれた軍服の袖の奥から、血管が黒く、太く浮き上がり、彼女の小さな身体そのものが、魔力の膨圧によって限界を超えてミシミシと軋み始めた。

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