Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
魔物の大群が築き上げた分厚い肉の壁によって、背後のシャルルやシルヴィ、そして魔力を使い果たして倒れた凛の気配が完全に遮断された。
中央制御室の一角。今やそこは、俺とセイラ、そして赤い髪の死神――ノアだけが取り残された、閉ざされた決闘場と化していた。
「……オリジナル、およびMaster_Eyeの確保タスク、第二段階へ移行」
ノアの抑揚のない、平坦な声。 彼女が静かに右足を踏み出した瞬間、俺の視界が一瞬だけブレた。
「透、右から来るよっ!」
「応ッ!」
アガートラームのバイザー内。警告表示が赤く激しく点滅すると同時に、俺の身体はパワーアシストによって勝手に右へと跳躍していた。
直後、俺が先ほどまで立っていた床が、ノアの放った赤黒い衝撃波によって爆発的に粉砕され、大理石の破片が猛烈な勢いで吹き飛んでいく。
「はぁぁぁぁッ!!」
空中で体勢を整えたセイラが、黄金に輝く『エクスカリバー・アヴァロン』を鋭く振り下ろした。
創世級の真の力が解放された絶対切断の刃が、光の帯となってノアを切り裂こうと迫る。
ガガシィィィンッ!!!
ノアは回避することなく、自らの両腕を交差させ、赤黒い魔力障壁を無理やり展開してその斬撃を受け止めた。 光と闇、聖と魔。
相反する二つの規格外の魔力が激突し、周囲の鉄骨や精密機器が火花を散らしながら次々と破裂していく。
「カリバーン、いくぞ! セイラの隙を埋める!」
『ハッ! 仰せのままに、主様! 我が光と闇の双刃、今こそ主様の敵を切り刻むために振るいましょう!』
俺はアガートラームの機動アシストを最大に出力し、ノアの死角である左後方へと回り込んだ。 手に握ったカリバーンを、ノアの無防備な脇腹めがけて全力で振り抜く。
キィィィン……!
漆黒の魔剣と白銀の聖剣。二つの性質を併せ持つカリバーンの刃が、ノアの展開していた魔力障壁の端に食い込んだ。
漆黒の刃がノアの魔力を強制的に削り取り、白銀の刃が放つ浄化の光が、彼女の防御を内側から焼き切っていく。
「……背後からの魔力干渉を検知。障壁の周波数を変更」
ノアは顔色一つ変えず、瞬時に右脚を翻し、俺の胴体めがけて凶悪な回し蹴りを放ってきた。 アガートラームの自動防御が作動し、左腕の装甲でその蹴りを受け止める。
ガァァァァンッ!!!
凄まじい衝撃。アガートラームの緩衝システムがなければ、腕の骨ごと肉体を消し飛ばされていただろう。
俺は後方へと数メートル吹き飛ばされながらも、大理石の床を滑るようにして着地した。
(……おかしい)
アガートラームの装甲の中で、俺は自身の掌を見つめ、奇妙な違和感を覚えていた。
本来なら、創世級に迫るノアの神速の攻防など、目で追うことすら不可能なはずだった。いくらアガートラームの自動アシストがあるとはいえ、身体が勝手に対応するだけでは、あの一瞬の隙を突いてカリバーンをねじ込むような『能動的な連撃』など、絶対にできるはずがない。
(なぜ、俺の『意識』が、ノアの動きに追いついているんだ……?)
ただアシストに流されているのではない。
ノアがどこに動き、次にどう仕掛けてくるのか。その『未来の軌跡』が、まるで俺自身の感覚のように、頭の中に鮮明に描かれていた。
『フフッ、主様。お気づきですか?』
手の中で、カリバーンが嬉しそうにブォンと脈打った。
『ワタシは主様に磨かれ、主様の魔力を喰らい、日々進化し続ける魔剣。……主様のその素晴らしい「神の目」と、ワタシの意志は、今や完全に一つに調和しているのですよ!』
「カリバーン……つまりどういうことだ?」
『意思があるということは、経験を積んで強くなるということ! 主様がワタシを信じて魔力を注いでくださる限り、ワタシの刃はどこまでも鋭く、主様の五感を拡張して差し上げましょう!』
そうか。こいつも俺と一緒に戦うことで、強くなっているのか。
Fランクの鑑定士でしかない俺の目を、カリバーンがその意志の力で底上げし、アガートラームのシステムとリンクして、俺をこの『超一流の戦場』に立たせてくれている。
「よし……! それなら、お前の力を信じるぞ、カリバーン!」
『ハッ! 光栄の至りでございます、主様!』
掛け声とともに、俺とカリバーンのシンクロ率が跳ね上がる。
視界が更にに冴え渡り、ノアの動く『風の流れ』、魔力の『脈動』が、手に取るように分かるようになった。
「セイラ、次、左から回り込む! 合わせてくれ!」
「うん、わかった!」
俺が地を蹴り、ノアの放った赤黒い魔力弾の嵐を、アガートラームの跳躍とカリバーンの障壁で滑らかに受け流しながら、彼女の側面に肉薄する。
ノアが俺を迎撃しようと腕を動かした、その瞬間。
「そこだっ!!」
セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を、光速の踏み込みと共に振り下ろした。 創世級へと至った聖剣の、真の力。
あらゆる概念と防御を無効化する白銀の光柱が、ノアの頭上から無慈悲に降り注ぐ。
「……防御障壁、出力最大。……相殺不可能。回避を――」
ノアの無機質な声が焦りを帯びる。
彼女は後方への跳躍による回避を試みたが、その退路には、すでに俺が先回りして放ったカリバーンの漆黒の魔力が、冷酷にそびえ立っていた。
「逃がすかよ!」
「――っ!?」
退路を断たれたノアの小さな身体に、セイラの黄金の光柱が真正面から直撃した。
ズドォォォォォォォンッ!!!
地下空間全体が激しく震動し、眩い光がすべてを白く染め上げる。 光の嵐が過ぎ去った後。
ノアは両腕の軍服の袖をズタズタに引き裂かれ、全身から血を流して膝をついていた。彼女の放っていた圧倒的なオーラが、明らかに弱まっている。
勝負あり、だ。
「油断しないで、透。まだ終わってない」
セイラの硬い声が、白煙の向こうから響いた。彼女の碧眼は、黄金の光を絶え間なく放ちながら、膝をつく赤髪の少女を凝視し続けている。
「……オリジナル、およびMaster_Eyeの戦闘データ。予想との乖離率、40%。……このままの出力では、任務達成は不可能」
ノアの口から、血が混じった、けれど冷徹なシステム音声のような声が漏れる。
彼女はゆっくりと、まるで錆びついた人形のように頭を持ち上げた。その瞳は血のように赤く、額の角が不気味に、激しく明滅している。
ズズズズズンッ……!!
大気そのものが悲鳴を上げるような、悍ましい魔力の波動が広間を包み込んだ。
同時に、肉の壁の向こう――シャルルやシルヴィが戦っていたはずの通路の奥から、無数の少女たちの「声」が、重なり合って響いてきた。
「……お父様のために。……新世界のために」
人造クローン兵たちが、糸の切れた人形のように一斉にその場に倒れ込み、その肉体が赤黒い霧となって崩壊し始める。
彼女らが有していたすべての生命力、魔力、そして細胞内の魔物因子。
それらが、うねる巨大な赤い奔流となって、防爆壁の隙間をすり抜け、この広間へと一気に流れ込んでいく。
「透、構えて!」
セイラが息を呑む。
数万、数十万という戦闘ユニットから搾り取られた、過密なまでの魔力の河。
そのすべてが、広間の中央に佇むノアの『角』へと、渦を巻きながら収束していく。
『主様! 危険です! あ奴、己の同胞を、スペアのバッテリーのごとく食い潰して力を得ています! なんという非道……なんという浅ましき行い!』
カリバーンが嫌悪を露わにして吠える。
「私は……負けられない」
赤い魔力の霧を全身に浴びながら、ノアの傷が急速に塞がっていく。
引き裂かれた軍服の袖の奥から、血管が黒く、太く浮き上がり、彼女の小さな身体そのものが、魔力の膨圧によって限界を超えてミシミシと軋み始めた。