Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「提案……って、何かしら? ノア」
凛が、壁に寄りかかりながらも鋭い視線をノアに向ける。
「改めてまとめると、お父様は、残る四つのプラントの出力を最大にして、ジュネーブ本社の魔力炉心へ直接魔力を送るつもり。それが完了すれば、お父様の『神化』は止められなくなる」
「やっぱり、時間との勝負になるね……。でも、残りのプラントは欧州各地に点在してるんだよ? 私でも移動するだけでも数日はかかるよ」
セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を鞘に収め、焦りをにじませて言う。
「うん。普通に移動していては、間に合わない……だから、ここ、第一プラントの中枢システムを使う」
ノアは、俺たちの顔を一人ずつ見つめながら、淡々と、しかし一歩も引かない決意を込めて語り続けた。
「第一プラントは、エデンの魔力吸引ネットワークの『主結節点』の一つ。ここから逆接続のシグナルを送り、地脈の通信回路を通じて、残り四つのプラントの安全弁を強制的に閉鎖、魔力を逆流させる」
「それって、ハッキングで残りのプラントも一括停止できるってこと?」
凛が驚いたように身を乗り出す。だが、ノアは静かに首を横に振り、頭部の角を指した。
「システムを通しただけの正規アクセスでは、本社側のメインフレームに一瞬で検知され、遮断される……だから、私の脳内にある、旧魔力リンクのポートを『直接』中継アンテナにする」
「ノア……それ、どういうこと?」
セイラが怪訝そうに眉をひそめる。
「私はクローンとして、常にお父様の精神波、そしてエデンの魔力ネットワークと微弱に同調するように造られた。角を介して、私の脳の魔力回路を第一プラントのメインフレームに接続すれば、探知されることなく、四つのプラントに『お父様自身の命令』として偽装した逆流シグナルを同時に送り込める……かも」
「……待て。その『かも』っていうのは、どういうことだ?」
俺は一歩前に進み出ると、ノアの小さな肩を掴んで、その茜色の瞳を覗き込んだ。
ノアは一瞬だけ驚いたように瞬きをしたが、すぐに視線を伏せた。
「……単純に難しいだけ。大した話じゃない」
「嘘言うな。お前、何か隠しているだろ」
「……」
ノアは小さく唇を噛み、黙り込んでしまった。
やはり、何か重大なリスクを隠している。
俺は掴んでいた手の力を少しだけ緩め、右目に意識を集中させた。
俺の固有スキル『真贋鑑定』が、ノアの脳内に描かれているその「計画」の真実を暴くために熱を帯びる。
――ブォン。
視界が軽く歪み、ノアの頭部から伸びる魔力回路のシミュレーション図の上に、冷酷なシステムウィンドウが展開された。
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【対象】ノアの脳内魔力リンク接続計画
【詳細】
四つのプラントから押し寄せる同期シグナルの負荷が、直接ノアの脳内魔力回路(角の基部)を通過するため、脳に非常に強い負荷がかかる。
高確率で精神崩壊、あるいは永続的な脳死状態に至る恐れあり。
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「……精神崩壊、脳死の恐れあり、か」
俺が鑑定結果をそのまま口にすると、制御室の空気が一瞬にして凍りついた。
「ダメ! 絶対にダメだよ、ノア!」
セイラがノアの小さな身体を強引に抱き寄せ、その顔を覗き込んだ。その碧眼には、今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいる。
「やっと、お父様から自由になれたんだよ!? やっと私の妹になれたのに……なんでそんな死んじゃうかもしれないことするの!?」
「大丈夫だよ、お姉さま。死ぬつもりはないから……きっと、私なら耐えられる」
ノアは痛々しいほどに力なく微笑み、セイラの涙をその小さな指先でそっと拭おうとした。
だが、その指先はわずかに震えている。彼女自身、自分がやろうとしていることの恐ろしさを、誰よりも理解しているはずだった。
「耐えられるわけがないだろ」
俺は二人の間に割って入るようにして、ノアの前に膝をついた。
「脳の魔力回路が焼き切れるなんて、そんなリスクを冒していい理由にはならない。ノア、お前はもう兵器でも人形でもないんだ。自分の命をそんな風に雑に扱うな」
「でも、お兄様……これくらいしか、お父様の計画は止める手段がない……出来ることをやらないと、私は……」
ノアの消え入りそうな声が、冷たい制御室に寂しく響く。「役に立たねば存在価値がない」という呪縛が、まだ彼女の心を縛っているのだろうか。
俺はふっと息を吐き、ノアの頭にそっと手を置いた。
「作戦を考えてくれただけで十分だよ。ありがとな」
俺はそう言って優しく微笑み、左手の『アイテムボックス』から、ひび割れて静かに眠っている『神魔剣カリバーン』を取り出した。
「代わりに、こいつを使う。……こいつは魔力を完全に使い果たして休眠中だ。ノア、お前が接続する際、負荷となる余剰魔力をすべてこのカリバーンに吸わせるんだ」
「剣に、吸わせる……?」
ノアが不思議そうに茜色の瞳を瞬かせる。
「カリバーンは魔力を吸収、放出する性質を持っている。正式な所有者じゃないノアが持てば、過剰な魔力を勝手に吸って、余った分は勝手に発散してくれるはずだ」
さらに、休眠中のカリバーンに魔力を充填させることもできる。魔力を失った相棒を復活させ、ノアの安全も確保する。まさに一石二鳥の手段だった。
俺はひび割れた黒と銀の刀身を、そっとノアの小さな手に握らせた。
「というわけで、ノア。これを持ってリンクに臨んでくれ。こいつを臨時の避雷針にする。これならお前の脳が焼き切れる心配もないし、ついでにコイツも復活だ」
ノアは両手でカリバーンの柄を握りしめた。
力を失い、冷たくなっていた黒と銀の刀身。だが、彼女が触れた瞬間、カリバーンはまるでおねだりをするかのように、微かに「チリッ……」と低い共鳴音を立てて震えた。
その、刀身から伝わる微かな温もりに、彼女の表情から徐々に強張りが消えていく。
「……うん。お兄様がそう言ってくれるなら、私、やってみる」