Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

118 / 129
第112話 崩壊

『アダムス様!!』

 

「なんだ。プラントの準備は終わったのか?」

 

 スイス、ジュネーブにあるエデン・グループ本社ビル、最上階の会長執務室。

 アダムス・ヒューズは、血相を変えて通信ホログラムに飛び込んできた第一秘書の男を、冷ややかな一瞥とともに迎えた。

 地脈の魔力を限界まで吸い上げ、己の肉体を神へと昇華させる『神化システム』。その準備のために各地のプラントへ命令を出したばかりだった。

 だが、秘書の顔には焦燥と、それ以上の深い恐怖が浮かんでいた。

 

『ち、違います! 第一プラントだけではありません……第二、第三、第四、第五、すべてのプラントとの接続が遮断されました! なぜこのようなことをなされたのですか!?』

 

「なにを……言っている?」

 

 アダムスは端正な眉をひそめた。秘書の言葉が、にわかには理解できなかったからだ。

 

『アダムス様の最高権限IDで、すべてのプラントへ『安全弁の強制閉鎖』と『魔力逆流』の命令が同時に送信されたのです! 現在、各地から異常な高密度魔力が、この本社システムに向けて逆流してきています!』

 

「馬鹿な……。私がそんな命令を出すはずがない」

 

 アダムスはデスクを叩き、毅然と立ち上がった。

 

 だが、彼の言葉をかき消すように、凄まじい地響きがビル全体を震わせた。

 

 ズズズズズンッ……!!

 

「くっ……!?」

 

 執務室の床が大きく揺れる。

 天井のクリスタルシャンデリアが激しく音を立てて揺れ、美しいガラスの破片が床へ降り注いだ。

 それと同時に、壁一面に配置された数百のモニターが、一斉に赤い警告灯の光に染まる。

 

『警告。メインシステムに、許容量を超える外部魔力のサージを検知。安全回路をバイパスし、魔力炉心へエネルギーが直流入しています。……非常用シャットダウン、失敗。制御不能です』

 

 無機質なアラート音声が室内に鳴り響く。

 アダムスは信じられないものを見る目で、手元のコンソールを睨みつけた。

 五つのプラントから逆送されてくる魔力の質量は、本社の処理能力を遥かに超越していた。地脈から吸い上げたはずのエネルギーが、そっくりそのまま牙を剥いている。

 

「おのれ……何者がシステムを……ノアか!」

 

 アダムスはすぐに、「最高傑作」の顔を思い浮かべた。

 彼女の脳内にある旧魔力リンクを中継アンテナにしなければ、これほど完璧に彼の最高権限を偽装できるはずがない。

 

「私を裏切ったか!! 出来損ないが……!」

 

 アダムスは怒りで端正な顔を歪め、激しく拳を握りしめた。

 計画は完全に破綻した。エネルギーの逆流によって本社メインサーバーは物理的に焼き切れ、『神化システム』の魔力炉心も過負荷によって機能停止している。

 彼が築き上げてきた『楽園』が、今や一瞬にしてその機能を失おうとしていた。

 

 ジジッ……ジジジジジッ!

 

 その時、壊滅しかけた執務室のメインモニターが、激しいノイズを伴って明滅し始めた。

 

「今度は、何だ!?」

 

 アダムスが視線を向けると、画面に走る砂嵐が収まり、一つの紋章が浮かび上がった。

 

 ――片眼鏡をかけた、不気味なフクロウのロゴマーク。

 

「Master_Eye……!」

 

 アダムスがその名を憎らしげに吐き捨てた瞬間、スピーカーから、機械的に変調された低い声が響き渡った。

 

『――お話しするのは初めてですね。アダムス・ヒューズ会長……いや、もう会長と呼ぶべきではないでしょうか?』

 

 画面の向こうから聞こえる、どこかこちらを嘲笑うかのような声。

 アダムスは額の血気を感じながら、モニターに向けて鋭い視線を突き刺した。

 

「Master_Eye……! よくも私の楽園をここまでにしてくれたな。だが、これで勝ったと思うなよ。私にはまだ、私兵部隊も、お前たちの命を奪うための手札も残されている」

 

『まだそんな虚勢を張るのですか。あなたのプラントはすべて制圧され、本社システムは完全に沈黙しています。あなたの言う手札とやらを動かすためのシステムも、もう半分以上は焼き切れているはずだ。それに、その手札でセイラとノアを倒せますか?』

 

「っ……!」

 

 冷酷な事実の宣告。

 アダムスは言葉に詰まった。手元のコンソールが示す通り、本社のセキュリティーハッチすら、システムダウンによって開閉できなくなっている。

 

『私は商売人です。これ以上の無駄な時間と労力の消費は、お互いにとって非合理的だ……ですから、アダムスさん。貴方に、一度だけ、話し合いの機会を設けてあげましょう』

 

「話し合いだと? 今更何のつもりだ!?」

 

『わかりませんか? 選択肢をあげると言っているのです……我々がそのビルを完全に破壊し、貴方を泥だらけの床から力ずくで引きずり出すか。それとも、私が指定する場所へ、貴方自身の手で這いつくばって会いに来るか……二つに一つだ』

 

 画面のフクロウのマークは、静かにアダムスへと最後通牒を突きつけていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。