Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「……這いつくばって、会いに来い、だと?」
アダムス・ヒューズの喉から、低く、地を這うような咆哮が漏れた。
デスクを掴む彼の指先は白く強張り、あまりの怒りに小刻みに震えている。
世界を裏から支配するエデン・グループの頂点たる自分が、どこの馬の骨とも知れぬ若造に、これほど無惨に選択肢を突きつけられている。その事実そのものが、彼の脳髄を狂わせるほどの屈辱だった。
『ええ。プライドの高いあなたに、無様な逃亡劇は似合わないでしょう? 私たちは逃げも隠れもしません。……すべてをこの手で終わらせるために、相応しい舞台を用意して待っています』
変調された機械音声は、どこまでも平坦で、慈悲がなかった。
アダムスは、割れたガラスの破片が散らばる床を見つめ、激しく乱れる呼吸を必死に整えようとした。
(私に、這いつくばって会いに来いと言うのか……。この、ただの羽虫が……!)
拒絶することは簡単だった。
このままビルに籠もり、生き残った僅かな私兵部隊と自動防衛システムをかき集めて、徹底抗戦を叫ぶこともできる。
だが、彼のプライドが、それを許さなかった。
『警告。本社のメイン隔壁はすべて機能停止。非常用予備電力の維持限界まで、残り3時間です。……この状態での外部からの物理的・魔力的打撃に対する抗堪性は、ほぼゼロと推測されます』
無機質なAIのシステム音声が、アダムスの退路を無情にも塞いでいく。
セイラが全力で剣を振るえば、この満身創痍のビルなど、ものの数秒で瓦礫の山へと変貌するだろう。
防衛することも、逃げることも叶わない。
残された道は、ただ一つだった。
「……フン。私がその場から引きずり出されるのを、震えて待つような男に見えるか」
アダムスは、歪んだ顔の中に強引な笑みを張り付け、モニターに向けて冷たい視線を投げ返した。
「私をここまで追い詰めたその神話級の技術、そして裏切り者の出来損ないども……それらを私のこの手で完全に処理するために、直々に出向いてやると言っているのだ」
『そうですか。最期までエデンの支配者らしい選択ですね。結構です』
モニターのフクロウのマークが、静かに明滅する。
『座標と時間は、その端末に直接送信します。……これ以上の悪あがきは、お互いにとって無駄でしかありません。大人しく、一人で来てください』
「……フン、言われるまでもない」
アダムスが吐き捨てるのと同時に、ホログラムモニターは激しいノイズとともに完全にブラックアウトし、部屋に再び赤い非常灯の静寂が戻った。
アダムスはゆっくりとデスクから手を離し、自らの衣服の乱れを静かに整えた。
四肢を失った鮫島の無惨な結末。
そして、己の喉元に突きつけられた、Master_Eyeという存在の底知れぬ影。
(すべてを失ったわけではない。私自身が、最後に『神化』を果たせば、奴の技術も、セイラの肉体も、すべては再び私のものとなる……)
アダムスは暗闇の中で、歪んだ欲望の笑みを浮かべた。
彼が自らの足で、地獄の罠へと一歩を踏み出そうとしていることなど、その傲慢な頭脳は、まだ微塵も理解していなかった。