Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
アルプスの第一プラントにおけるノアとカリバーンの決死の接続、そして残る四つのプラントの制圧。
スイスのエデン本社へと仕掛けた魔力の大逆流システムを無事に完遂し、俺たちは激戦の余韻と疲労を色濃く残したまま、フランスギルドの本部へと帰還していた。
現在は、ギルドの一室でアンティーク調の長テーブルを囲み、アダムスを罠にはめるための作戦会議の最中だ。
「――正気なの、透くん」
静寂を破ったのは、凛の冷ややかな、しかし明らかな懸念を含んだ声だった。彼女は手元のタブレットから顔を上げ、俺を真っ直ぐに見据える。
「アダムスとの交渉の席に、一人で立つなんて。いくら本社のシステムを潰したとはいえ、相手はエデンの元凶よ? 強くなって忘れてるのかもしれないけど、素の肉体的な強さは一般人と変わらないのよ」
「そうだよ、透! 私たちがついていかないなんて、危なすぎるよ!」
セイラも、隣から俺の衣服の袖をぎゅっと掴み、必死な顔で引き止める。 長時間の緊張から解放されたばかりの彼女の瞳には、俺を失うことへの強い不安が滲んでいた。
「みんなの言う通りだね、トオル。美しき勇気は称賛するが、無防備に敵の懐へ飛び込むのは、芸術的な戦略とは言えない。私たちが背後に控えているだけで、相手への抑止力になるはずだ」
シャルルが紅茶のカップを置き、静かに首を横に振る。その隣では、シルヴィも無言で頷いていた。 全員の反対。当然の反応だった。
だが、俺は彼らの視線を真っ向から受け止め、ゆっくりと、しかし確かな声で理由を説明し始めた。
「みんなが心配してくれるのは分かってる。でも、だからこそ一人で行くんだ」
「どういうこと?」
凛が不満げに眉をひそめる。
「アダムスはプライドの塊だろ? そんな奴相手に、雁首揃えて、追い詰めたら何するか分からない。そもそも、目的はこいつでアダムスに首輪をはめることだしな。そのためには、俺一人のがいいんだ」
俺はそこまで言葉を区切り、テーブルの上に置いた小さな黒い種――『服従の種』を指先でトントンと叩いた。
「だからって……」
セイラが息を呑む。俺の説明を聞き、凛がさらに厳しい表情で指摘を重ねてきた。
「条件どうこうよりも、一番の問題はスキルが消えるリスクよ。一度でも意図を見破られたら、アンタは自分の『真贋鑑定』を永久に喪失するのよ?」
「そうだな。失えば、俺はただの無能に戻る……だけど上手くいけば全部丸く収まるだろ?」
「……はぁー、まあいいわ。好きにしなさい」
凛は深くため息をつき、呆れたように両手を広げた。
「最初から止めても聞かない男だと思ってたけど、今回のは最大の大博打ね。でも……アンタがこれまで一度だってその博打を外したことがないのも、悔しいけど事実だわ。アンティーク・アイの専務として、社長の決定には従うわよ」
「ありがとう、凛。理解が早くて助かる」
「勘違いしないで。もし失敗してアンタが無能に戻ったら、私が社長の座を乗っ取って、アンタを最低賃金の雑用係にしてこき使うだけだから……失敗してくるのを待ってるわ」
ふっといつもの強気な笑みを取り戻した凛。彼女なりの、最大限の信頼の示し方なのだろう。
「透……本当に、本当に行くんだね?」
セイラがなおも心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ。アダムスはプライドの塊だ。セイラ、お前がそこにいれば、あいつは警戒して力を誇示しようとする。だけど、戦闘力のない俺が一人でポツンと待っていれば、あいつは俺を『力のない、交渉しにきただけの小悪党』だと見下して、確実に油断する。その油断こそが、この種を成功させるための最大の鍵なんだ」
服従の種の発動条件は三つ。 握手、名前を呼ばせること、そして頷かせること。
これらを「一切の不審を抱かれずに完遂する」には、相手が俺を完全に格下と見なし、舐めきっている状態がベストなのだ。
Master_Eyeという存在に警戒しきっているアダムスにとって、ギャップは大きいほどいい。
「分かった。そこまで言うなら、私は止めない。でも、透。もし何かあったら、私は教会の壁ごとアダムスをぶった斬るから」
「ああ。万が一の時は頼む」
セイラの確固たる決意を受け止め、俺は小さく笑った。
「美しいね。皆がトオルを信じ、それぞれが自らの役目を果たそうとしている。……よし、交渉の舞台は私が用意しよう。パリ郊外にある、古い廃教会だ。静かで、誰にも邪魔されない、実に格式高い場所だよ」
シャルルが拍手をしながら立ち上がり、優雅に身振りを交えて提案してくれた。
「ありがとうございます、シャルルさん……凛、アダムスへの座標と時間の送信、頼めるか」
「ええ、もうフォーマットはセットしてあるわ。時間は明日の午後二時……逃げ出すなら、今のうちよ? 社長」
「まさか。俺たちの平穏な生活のためだ、きっちり首輪をはめてやるさ」
俺はテーブルの上の黒い種をそっと拾い上げ、ポケットへと仕舞い込んだ。 明日、すべてが決まる。
俺は静かに目を閉じ、明日のシミュレーションを頭の中で何度も繰り返した。