Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
「ふふっ。実はもう決めてるんだー。ね、ノア」
「うん……お父様が一番嫌がること」
ノアの茜色の瞳が、どこか楽しげにアダムスを見つめる。
大理石の床に額を擦り付けたまま、自らの意志で動くことすら許されないアダムスは、その視線にぞくりと背筋を凍らせたようだった。彼の喉から、再び低く不快な唸り声が漏れる。
「お父様の『エデングループ』……全部もらっちゃいます!」
セイラは腰に手を当て、堂々と宣言した。
「なっ!? 私の楽園を……ッ!」
アダムスは必死に顔を上げようとするが、俺が「動くな」と命じているため、その顔は床に張り付いたままだ。言葉だけが、怒りで激しく震えている。
「そうだよ。それがお父様にとって一番嫌なことでしょ? 自分が作った最高のお城を、奪われるんだから。……あ、でも、お父様の事は見捨てないであげる。一応、家族だから」
セイラはクスクスと笑い、平伏する父親の前にしゃがみこんだ。
「お父様には、心から反省するまで、アンティーク・アイの『雑用係』をやってもらうの。面倒なのは全部お父様の仕事! どう? 透の会社も大きくなるし、一石二鳥じゃない?」
「……素晴らしい提案ね、セイラ」
部屋の隅で事の成り行きを見つめていた凛が、目を円マークにして歩み寄ってきた。
「世界一のコングロマリットが、実質的にアンティーク・アイの完全子会社になるわけね。アダムス、アンタのその資産と人脈、これからはすべて透くんのために、タダ働きで搾り取らせてもらうわよ。私ですらマージン2%は貰ってるのに、アンタは一生ゼロ%。哀れなことね」
「が……お、のれ……。この、強欲な寄生虫どもが……っ!」
アダムスの喉から、血を吐くような悔しげな呻きが漏れる。
だが、彼の意志とは裏腹に、『服従の種』がもたらす絶対命令が彼の肉体を支配した。
「あんただけには言われたくないわよ。ほら、透くん、ちゃちゃっと命令しちゃって」
「ああ……アダムス、今すぐお前のエデングループにおけるすべての権限、所有株式、そして個人資産を、アンティーク・アイに無償譲渡する手続きを開始しろ」
俺が告げると、アダムスは、懐から特製の署名端末を取り出した。
「……畏まりました。ただちに、全経営権の譲渡手続きを……並びに、全世界への公表を……実行いたします……」
涙を流し、プライドを粉々に砕かれながら、アダムスは自らの手で「楽園の終焉」の署名を完了させた。
「――確認したわ、社長」
凛が手元のタブレットを高速でスワイプしながら、興奮を隠しきれない様子で声を上ずらせる。
「エデングループの親会社、および主要関連会社の株式、合わせて八十五%以上の議決権が、たった今『株式会社アンティーク・アイ』へと完全に移転されたわ。個人資産の口座情報も、すべてこちらの管理下に統合完了……おめでとう、透くん。アンタ、今この瞬間に世界一の富豪になったわよ」
「あまり実感が湧かないけどな……」
俺は苦笑し、大理石の床に力なく両手をついているアダムスを見下ろした。
世界経済を裏から操っていた絶対の支配者。その彼が、今はただの抜け殻のようになっていた。
「さて、アダムス。改めて、お前のこれからの仕事についてだ」
俺が静かに告げると、アダムスは床に額を擦り付けたまま、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけてきた。その喉が、悔しさでヒューヒューと小さく鳴っている。
「命令だ。お前はこれから、アンティーク・アイの『雑用係』として働け。 面倒な仕事は、すべてお前がやるんだ。もちろん、お前が犯した罪を心から反省するまで、給料は一切支払わない」
「が……ぁ……っ、この、私、に……! この……ッ!」
「不満か? だが、お前の身体は拒否できないはずだ……ほら、返事は?」
アダムスは、自らの舌を噛み切らんばかりに奥歯をギリギリと噛み締めた。
だが、アダムスは俺の命令に逆らうことはできない。
「……畏まりました。これより……アンティーク・アイの雑用係として……誠心誠意、働かせていただきます……」
涙を流し、額を床に擦り付けながら、アダムスは屈辱の言葉を口にさせられていた。
これまでの人生で挫折などしたことのなかった男が、これからは俺たちの下で、こき使われるというのだから惨めなものだ。
「よし。じゃあ、さっそくお前の『元会長』としての仕事だ。……先ほどの買収と経営権の移行、そして自身の辞任のニュースを、エデンの公式通信網を使って、お前自身の言葉で全世界に配信しろ」
「ぐっ……了解、いたしました……」
アダムスは、自らの端末を操作し、本社システムの非常用オーバーライドを実行した。
数分後。
フランス、イギリス、アメリカ、そして日本。
世界中の主要ニュースメディア、およびエデン傘下のすべての魔導インフラのモニターが一斉に切り替わり、アダムスの緊急会見が同時生放送で配信され始めた。
『――全世界の皆様、並びに関連企業の皆様。私、アダムス・ヒューズは、本日を以てエデン・グループの全経営権を、日本の「株式会社アンティーク・アイ」へ無償譲渡することに合意いたしました。今後は、代表のMaster_Eye氏の素晴らしい経営方針の下、私自身も一歩引いた立場で、彼らのビジネスを全力でサポートしてまいります』
画面に映るアダムスは、驚くほど穏やかに、そして優雅な笑みすら浮かべて語っていた。
だが、そのサファイアブルーの瞳の奥には、すべてを奪われた深い絶望の光が、静かに、けれど痛烈に宿っていた。
世界中が、その前代未聞のニュースに、一瞬で大パニックに陥った。
「……信じられないわね」
数時間後。
凛が、信じられないものを見る目でタブレットを叩きながら、俺を振り返った。
「エデンの全経営権が移行するっていうのに……関連企業や、これまでエデンと提携していた各国ギルドのCEOたちから、『アダムスの独裁政権が終るなら大歓迎だ』って、続々と支持のメッセージが届いてるわ」
「え? そうなの?」
「ええ。人望なかったみたいね、こいつ……手続き上の反発は、ほぼ皆無で済みそうよ」
あまりのトントン拍子の進捗に、俺は少しだけ拍子抜けしてしまった。
まあ、アダムスが嫌われていたのは納得ではあるが……
「ふふん、当然だよ! あんな嫌な奴、誰も味方してくれないもんね!」
「うん……お姉さまの、言う通り」
セイラが嬉しそうに胸を張り、ノアもその隣でパタパタと手を叩いて喜んでいた。