Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
転送陣の光が収まって目に入ってきたのは、俺たちが欧州に旅立った場所。 日本のダンジョンギルド本部、地下最深部の転送室だった。
「おかえりさん。生きて帰ってくりゃあ上出来だと思ってたんだが、随分と派手なことやらかしたみてえじゃねえか」
目の前に立っていたのは、腕を組んで葉巻の煙を燻らせているギルドマスター、
彼は鋭い眼光をこちらに向けながら、楽しそうに笑った。
「ただいま戻りました、東郷さん。……どうにか、約束は果たせましたよ」
俺はヘルメットや変装用のメガネを外し、深く息を吐きながら答えた。
隣ではセイラが待ちきれないといった様子で、東郷さんのデスクに向けて身を乗り出しようとしている。一刻も早く、琴音さんの状況を確認したいのだろう。
「約束を果たすどころの騒ぎじゃねえぞ。まさかあのエデングループを完全にアンティーク・アイの傘下に収めちまうとはなぁ」
東郷さんは葉巻の灰を灰皿に落とし、心底愉快そうに笑みを浮かべた。
「あはは……まあ、運が良かっただけですよ」
『フンッ、運などではありません! 我が主様の圧倒的な「磨き(お掃除)」の技術の前に、あの頑固な前会長も平伏せざるを得なかったのです!
東郷とやら、もっと主様の偉大さを称賛するが良いです!』
背後からひょっこりと現れたカリバーンが、東郷さんを見下ろすように高い位置に移動し、俺を讃える。
「面倒になるから、静かに──」
「そんなことより、仁さん! お母さんは!? お母さんの呪いはどうなったの!?」
馬鹿話を遮って、セイラが我慢の限界といった様子で声を荒げて身を乗り出す。
「カハハ、そう焦るなセイラ……結論から言えば、完璧だ」
東郷さんは優しい笑みを浮かべ、デスクの引き出しから資料を取り出した。
「三日前の午後、琴音の体内に巣食っていたあの呪術の反応が、前触れもなく消失した。医療スタッフの連中も奇跡だって大騒ぎさ。今はまだ長年の寝たきりによる筋力低下はあるにはある、が……流石に親子だな。もう、自分の力で起き上がってるよ」
「っ……お母さん……!?」
セイラは両手で口元を覆い、ボロボロと大粒の涙を零した。 長年、彼女の心を縛り、絶望のどん底へと突き落とし続けていた『呪縛』。それが、本当に消え去ったのだ。
「手配はすべて済んでいる……おい、Master_Eye。車を出してやるから、すぐに連れて行ってやれ。琴音も、ずっとセイラの帰りを待っていたからな」
「ええ、ありがとうございます。すぐに行きます」
俺は東郷さんから特別入館証を受け取り、泣きじゃくるセイラの肩を優しく支えて立ち上がらせた。
◇
ギルド本部を後にし、俺たちは要塞に置いてあった愛車に乗り込んで、郊外の特別療養施設へと向かっていた。
運転席には俺、助手席には興奮と緊張でそわそわと落ち着かないセイラ。
そして後部座席には、凛と――自らの小さな両手でズボンの裾をぎゅっと握りしめたまま、一言も発さずに俯いているノアが座っていた。
バックミラー越しに見るノアの表情は、ひどく暗く、そして強張っている。
「ノア、どうしたんだ? 車酔いか?」
俺が静かに声をかけると、ノアはビクッと肩を震わせ、ゆっくりと茜色の瞳を俺に向けた。
「……お兄様」
その声は、消え入りそうなほどに細く、震えていた。
「わたし……本当に、琴音さんに、会いに行ってもいいの?」
「え? 何言ってるんだよ。当然だろ?」
「でも……わたしは、お姉さまの偽物で……琴音さんを、苦しめるために生まれた兵器。そんなわたしが、目の前に現れたら……また具合が悪くなっちゃうかも……」
ノアは自らの小さな指先を見つめ、ぽつり、ぽつりと、不安を吐き出した。 アダムスの手から離れたとはいえ、琴音さんの呪いに関して負い目を感じているらしい。
「そんなこと、絶対にない!」
助手席のセイラが、勢いよく後ろを振り返り、シートの隙間からノアの両手をぎゅっと強く握りしめた。
「お母さんはね、とっても優しくて、あったかい人なの……ノアは私の妹なんだから、絶対に喜んでくれる!」
「お姉さま……」
「そうよ、ノア。アンタは自分の命をかけて、琴音さんの呪いを解くのに貢献をしたんだから。堂々としてなさい」
「凛の言う通りだ」
俺もバックミラー越しに、ノアへ向けて笑いかけた。
「そんなこと気にしてたら、凛なんて元詐欺師だからな。昔は昔、今は今だ」
「ちょっと、誰が元詐欺師よ! あれは合法かつお互いのための、極めて有意義なビジネス交渉だったわよ!」
凛がシートから身を乗り出して、真っ赤な顔で激しく抗議の声を上げる。
「そうだったか? 俺の利益の七割を抜く予定だった契約書のデータは、まだ俺の手元にあるんだがな」
「う、うるさいわね! あれはもう時効だし、今の私は世界一優秀でしょ! ノア、今の話は忘れてちょうだい!」
凛がふんっとそっぽを向くと、張り詰めていたノアの表情が和らぎ、小さく「クスッ」と零れるような笑い声が車内に響いた。
いつもの、俺たちの賑やかな日常の空気が、彼女の心を優しく解きほぐしたようだった。
「……うん。わたし、大丈夫。お姉さまと、お兄さまと一緒に行く」
ノアはセイラの手をぎゅっと握り返し、茜色の瞳に確かな信頼の光を宿した。
「そうこなくっちゃ! お母さんに会ったら、いっぱいお話ししようね!」
「そうね、まずは無事に帰ってきたことを報告しなきゃね」
車は夕暮れのハイウェイを滑るように走り抜け、やがて木々に囲まれた静かな特別療養施設へと滑り込んでいった。
駐車場に車を停め、俺はエンジンを切った。
「よし、着いたぞ。……琴音さんのところへ行こう」
「うん!」
俺たちは深く息を吐き、静かに車のドアを開けた。