Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
数日後。
俺たちの拠点である地下要塞のメインラウンジは、これまでにないほど華やかで、そして美味そうな香りに包まれていた。
大理石のローテーブルの上に並べられているのは、銀座の老舗店から出前で取り寄せた、金箔が散りばめられた特上の寿司桶。大トロ、ウニ、イクラ、アワビといった高級ネタが、宝石のように眩い光を放っている。
「それにしても、琴音さんの回復力には本当に驚かされましたよ」
俺は、お茶を啜りながら、隣の席に座る女性――神宮寺 琴音さんをまじまじと見つめた。
彼女は、呪いが解けてからのわずか数日のうちに、驚異的な速度で回復を遂げていた。
つい最近まで、ほぼ寝たきりだったとは思えないほど普通に動けるようになっており、今日の祝宴でも、車椅子や杖を一切使うことなく自分の足で歩き、俺たちと同じ特上寿司を何事もなかったかのように普通に食べている。
ギルドの医療スタッフたちも「あり得ない超回復だ」と頭を抱えていたらしい。
「本当にね。さすが世界最強の『剣聖』を産んだお母さんだけあって、底知れない超人的なバイタリティを持っていらっしゃるわ。医学の常識が形無しね」
凛が呆れたように、けれど嬉しそうにため息をついて呟く。
当の琴音さんは、お茶目にクスリと微笑みながら大トロに舌鼓を打っていた。
「ふふ、これでも昔は一線で戦う探索者だったのよ? セイラにだって負けないんだから」
「お母さん、お肉もまだあるよ! いっぱい食べてね!」
セイラが嬉しそうに、琴音さんの皿にローストビーフを山盛りに取り分ける。 その隣では、ノアが小さな手で箸をぎこちなく使いながら、大トロをそっと口に運んでいた。
パクッ。
「……っ!?」
ノアの茜色の瞳が、驚愕に大きく見開かれた。
「お、おいしい……!」
「あはは! でしょ、ノア! 大トロは最高なんだから! ほら、こっちのウニも美味しいよ、あーん!」
「あ、あーん……んん、すっごく、濃厚……! お姉さま、すごい!」
セイラにウニを食べさせてもらい、ノアは本当に幸せそうに頬を緩ませていた。 血の繋がりを超えて寄り添う二人の娘を、琴音さんは優しく、愛おしそうに見つめている。
「――さあさあ! 場もあったまってきたところで、このワインも開けちゃいましょう!」
凛が、勝ち誇ったような極上の笑みを浮かべながら、一本の古びたワインボトルをテーブルの中央にドンと置いた。
ラベルは色褪せているが、そこから漂う底知れない気品は隠しきれていない。
「お前、それ……冗談じゃなかったのか」
「ええ、大マジよ。アダムスのプライベートセラーから、私がドサクサに紛れて回収してきた、1945年ものの超ヴィンテージワインよ。市場に出たら数千万円は下らないお宝なんだから!」
「まあ、お父様へのこれまでの慰謝料の一部だと思えば、むしろ安すぎるくらいだよね!」
「ええ、本当に。あの人が大切に隠し持っていたものを、こうして皆で美味しくいただく……ふふ、あの人はすごく嫌がりそう」
「さっすが、ノリがいいですね!」
琴音さんの賛同に、凛は大喜びでコルクを抜いた。
ポンッ、と小気味良い音が響き、芳醇で甘美なぶどうの香りがラウンジ全体に広がっていく。
凛が大人たちのグラス(ノアはオレンジジュースだ)に手際よく注いでいく。
「それじゃあ……俺たちの完全勝利と、琴音さんの完全復活。そして、新しく家族になったノアを歓迎して――乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
カチャリ、とグラスが触れ合う心地よい音が響き渡った。
「ところで、凛。あいつ……アダムスは、今どうしてるんだ? お前に管理を任せきりだったけど……」
俺がふと気になって尋ねると、凛はワイングラスを傾けながら、心底楽しそうに口角を吊り上げた。
「あいつは今、スイスの本社ビルで、フリルのついた可愛いピンクのエプロンを着せられて、ハタキを持って倉庫の床を掃き掃除してるわよ」
「……ピンクのエプロン?」
「ええ。私が命令しておいたから。本人はプライドがズタズタになりながら、涙を流して『誠心誠意、お掃除させていただきます……ううっ』って、健気にモップをかけてるわ」
「お前、本当に鬼だな……」
「失礼ね、社長。これでも、世界一の企業の元会長が直々に掃除してくれてるんだから、最高のプロモーションよ。関連会社の人間も『あのアダムスが、ピンクのエプロンで掃除している……アンティーク・アイには絶対に逆らえない』って、震え上がってるわ」
凛のえげつない手腕に、俺はただただ敬服するしかなかった。
「お父様、ピンクのエプロン似合いそうだね! 今度、写真送ってもらおっと!」
「……わたしも、少し見てみたい、かも」
セイラとノアの無邪気な追撃に、俺は心の中でアダムスに向けてそっと合掌した。
『――ちょっと、主様ァッ!!!』
その時。 テーブルの上に無造作に置かれていた、カリバーンが、激しくカタカタと震え出した。
次の瞬間、フワリと俺のすぐ隣に、飛んできた。
「な、何だ、カリバーン。いきなり……」
『何だ、ではありません! 主様! 忘れてはいませんか!? この戦いが終わったら、ワタシを最高級の研磨オイルで、朝までピカピカに磨き上げるという、あの聖なる誓いをッ!!』
カリバーンは俺の袖を掴み、 涙目で激しく抗議の声を上げた。
『主様は、ノアという新しい小娘に目を奪われ、ワタシの存在を完全に放置されている! ワタシの刀身は今、寂しさで錆びつきそうなのでございますッ!!』
「放置してないって。これからやろうと思ってたんだよ」
『本当ですか!? 本当に、ワタシだけを、朝まで念入りに……慈しんでくださるのですね!?』
「だから変な言い方をするな。……まあ、頭くらい撫でてやってもいいが」
『お、お頭を……!? 不本意ですが……主様がそこまで仰るなら、そっと触れてくださっても、よろしいでしょう!1』
俺が彼女の頭にあたるであろう部分をポンポンと優しく撫でてやると、カリバーンは一瞬にして「ひゃあッ!?」と奇声を上げて身悶えした。
『あ、頭を撫でられるなど……ああっ、主様の優しきぬくもりが、ワタシの魂の髄まで……至福、至福でございますッ!!』
食事は食べられないものの、俺とのスキンシップだけで完全に満足したらしい。
カリバーンは頬を林檎のように真っ赤に染めてモジモジしながら、嬉しそうに俺の背後に寄り添うようにして浮かんでいた。
凛は呆れ顔になり、セイラとノアは楽しそうにキャッキャと笑い声を上げている。
「楽しいわね、本当に。命は惜しくなかったつもりだったけれど……私、生きていて良かったわ」
琴音さんが、穏やかに微笑みながらグラスを掲げた。
かつては絶望の底にいた彼女。だが、今、こうして大切な仲間たちに囲まれて、未来を語り合っている。
「ええ。でも、これからもっと、楽しくなりますよ」
俺が胸を張って答えると、琴音さんは優しく微笑み、深く頷いてくれた。
美味しい寿司、極上のワイン。 そして、何よりも温かい、本物の家族と仲間たちの笑顔。 地下要塞に響く笑い声は、夜が更けるまで、いつまでも絶えることなく響き渡っていた。
俺たちの日常は、この最高の幸せとともに、これからも続いていくのだ。