Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

129 / 129
最終話 エピローグ

 あれから、数年の月日が流れた。

 

 かつて新宿の地下数十メートルにひっそりと造られたアンティーク・アイのシェルターは、今や世界最大の魔導技術開発センター、そして『株式会社アンティーク・アイ』の総本部ビルとして、地上へ向けて壮大にそびえ立っていた。

 

 エデン・グループを完全に吸収したことで、俺たちの会社は世界中のダンジョンインフラと、魔導具の流通を完全に掌握していた。

 会社の総資産はもはや一国の国家予算すら遥かに凌駕し、世界一の富豪となった俺の口座残高は、数え切れないほどのゼロが並ぶ、バグったゲームの数字のようになっていた。

 

 だが、俺たちの生活自体は、驚くほどに、あの日と何も変わっていなかった。

 

「――ねえ、透くん。本当に今日も、この書類全部に目を通さなきゃダメか、なんて顔しないでちょうだい」

 

 総本部ビルの最上階、東京を一望できる広大なプライベートルーム。

 ふかふかのソファに沈み込んでいた俺に対し、デスクの向こうから凛が鋭い視線を投げかけてきた。

 仕立ての良い高級なオフィススーツを着こなし、今や世界を裏から操る「鉄の女」として恐れられている彼女だが、その左腕には、あの日俺が渡した『聖女の反逆盾《イージス・リフレクト》』が、今も大切に嵌められている。

 

「いや、ちょっと目を休めてただけだよ……」

 

「言い訳は却下よ。アンタがサボったら、世界中の魔導具の流通が一時的にストップしちゃうの。ほら、エデンから回収されたジャンク品の査定リスト、早く目を通して」

 

「はぁ……社長って、意外と重労働だな」

 

 俺が苦笑しながらコーヒーを啜っていると、部屋の扉が静かに開き、上品な制服に身を包んだ少女が歩み寄ってきた。

 

「お兄様、お疲れさま。……お茶、淹れたよ」

 

 少しだけ背が伸び、見違えるほど綺麗な少女に成長したノアが、俺の隣にそっとカップを置いてくれた。

 茜色の瞳は穏やかな光を湛え、額の小さな角は、今や彼女の愛らしいチャームポイントとして定着している。彼女は現在、アンティーク・アイの特別技術スタッフとして、俺の修復したアイテムの検証や、後衛の補給支援を一手に引き受ける頼もしい家族になっていた。

 

「ありがとう、ノア。助かるよ」

 

「うん、お兄様。お姉さまも、もうすぐ戻ってくるって」

 

 ノアが穏やかに微笑んだ、まさにその時だった。

 バァンッ! とプライベートルームの重厚な扉が、勢いよく開け放たれた。

 

「ただいまーっ、透! ノア、凛! 今日の遠征も大成功だよ!」

 

 風を巻き起こすようにして入ってきたのは、プラチナブロンドの長い髪をハーフアップにまとめたセイラだった。

 数年の歳月を経て、彼女の美しさはさらに洗練され、今や世界最強の探索者にして人類の至宝である『剣聖』として、その名を轟かせている。

 だが、腰に帯びた『聖剣エクスカリバー・アヴァロン』の神々しいオーラとは裏腹に、彼女は天真爛漫なままだ。

 

「おかえり、セイラ。早かったな」

 

「うん! 深層に新しいボスが出たらしいから、運動代わりにちょっと叩いてきただけ。ほら、これお土産!」

 

 セイラはそう言うと、背負っていたバッグから、泥と結晶にまみれた『奇妙な形状の金属塊』を、大理石のローテーブルの上にドスンと置いた。

 

「ちょっとセイラ! テーブルの上に、そんな泥だらけのゴミを置かないでよ! 高いんだから!」

 

「えー、いいじゃん! これ、深層のボスの部屋の奥に落ちてたんだよ? すっごく気になるオーラが出てたから、透に見てもらおうと思って!」

 

 セイラはむっと頬を膨らませ、俺の隣に座り込んで、テーブルの上のお茶菓子を早速つまみ食いし始めた。

 

「まあまあ。せっかくセイラが拾ってきたんだ、見てみるよ」

 

 俺はコーヒーカップを置き、右目に意識を集中させて『真贋鑑定』を発動した。

 

 ――ブォン。

 

 視界が軽く歪み、泥だらけの金属塊の上にシステムウィンドウが展開される。

 

 

 ====================

【名称】天帝の神冠(クラウン・オブ・オーディン)

【状態】重度の泥汚染、魔力休眠

【真価】着用者の魔力限界を永続的に上昇させ、精神干渉魔法を完全に無効化する。

【修復方法】超音波洗浄と、中性洗剤による表面洗浄。

【推定市場価格】130億円以上

 ====================

 

「……アタリだな。それ、100億はくだらないぞ」

 

「100億……!」

 

 俺の口から告げられた査定額に、凛の瞳が一瞬にして眩い円マークへと切り替わった。

 先ほどまでの「テーブルが汚れる」という怒りはどこへやら、彼女は手元の端末を猛烈な勢いでスワイプし、すでに買い手のリストアップを開始している。

 

「セイラ、よくやったわ! アンタこそ我が社のエースよ!」

 

「えへへ、でしょ!」

 

 セイラは誇らしげに胸を張り、お茶菓子を美味しそうに咀嚼した。

 

「よし、じゃあ軽く治しちゃうか。ノア、いつもの超音波洗浄機と洗剤を用意してくれ」

 

「うん、お兄様。すぐ持ってくるね」

 

 ノアが嬉しそうにパタパタとキッチンへ向かおうとした、その時だった。

 

『――ちょっとお待ちください、主様ァッ!!!』

 

 テーブルの上に置かれていたカリバーンが、突然カタカタと激しく震え出し、フワリと俺のすぐ隣に飛んできた。黒と銀の刀身を小刻みに揺らしながら、脳内に直接、必死な抗議の声を届けてくる。

 

『また新しい神器に浮気するのですか!?  酷いです! そんなものに構う暇があるのなら、ワタシを手入れしてください!』

 

「その王冠を洗った後に、お前を最高級のオイルで磨いてやるから。ほら、静かにしてろ」

 

 俺は、浮遊しているカリバーンの柄の部分を、優しくポンポンと撫でてやった。

 

『……ああっ、主様の優しきぬくもりが、ワタシの魂の髄まで……至福、至福でございますッ……!』

 

 カリバーンは一瞬にして刀身を(魔力の光で)ほんのり桜色に染めてモジモジと震えながら、嬉しそうに俺の背後に寄り添うようにして浮かんでいた。

 凛は完全に呆れ顔になり、セイラとノアは楽しそうにクスクスと笑い声を上げている。

 

 窓の外に目を向ける。  

 広大なプライベートルームのガラス越しに広がる、東京の煌びやかな夜景。その中心にそびえ立つ、巨大なダンジョンのゲート。

 

 かつてFランク探索者としてパーティを追放され、残高1,280円だったあの冷たい雨の日。

 ゴミ捨て場で錆びた剣を拾わなければ、俺は今頃どうなっていただろうか。

 

 手の届かないほどの大富豪になっても、俺のやることは変わらない。  

 汚れたガラクタを拾い、市販の洗剤で磨き上げ、本来の価値を取り戻してやる。それだけだ。

 

 大事なのはいつだって、丁寧なお手入れ。

 

 そして何より――。

 

(俺が手に入れた、世界一の『お宝』は……)

 

 俺は、賑やかにじゃれ合うセイラとノア、嬉しそうに端末を叩く凛、そして俺の背後にすり寄るカリバーンの姿を見つめた。

 

(……こいつらと出会えたことだな)

 

「社長、のんびりしてないで、さっさとその100億円、洗ってらっしゃい!」

 

「お兄様、お洗濯、わたしもお手伝いする」

 

「私も! あ、洗った後は焼き肉ね!」

 

「はいはい。それじゃ、サクッと洗ってくるとするか」

 

 俺は笑いながら、中性洗剤のボトルを手に取り、作業台へと向かった。

 俺たちの眩い日常は、これからもずっと、温かい笑い声とともに続いていくことだろう。

 

                完

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

底辺Vtuber昔やり込んだロボゲーの続編でバズり散らかす(作者:オタリオン)(オリジナルSF/冒険・バトル)

底辺Vtuberの根黒万太郎。▼十年前にやり込んでいたロボゲーの続編やったら動きが変態過ぎて大バズり!▼闘争を求めてやって来る強き変態たちに万太郎は更なるバズりを求める。▼果たして、万太郎は底辺を卒業しトップVtuberとなれるのか?▼(☆):他者視点有りのマークです。▼※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。


総合評価:1455/評価:7.56/連載:84話/更新日時:2026年08月29日(土) 18:54 小説情報

ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~(作者:蝉時雨)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 世界にダンジョンという、いくつもの『扉』が出現してから、早五十年。▼ ▼ 人類はこの未知の脅威に対し、慎重に対処をしようとしていた。しかし、その『扉』から現れた異形のモノたちが蹂躙をはじめる。▼ 現代の兵器は異形には届かず、為す術なしかに思われた。▼ だが、人類は諦めなかった。▼ 自ら『扉』に乗り込み、戦果を持ち帰るものが現れ始める。『扉』の先で得た素材で…


総合評価:1363/評価:6.95/連載:35話/更新日時:2026年08月30日(日) 00:00 小説情報

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:3008/評価:7.94/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない(作者:月森朔)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ダンジョンが現れてから30年。▼俺は、黒歴史の自作小説キャラになれるという奇妙な能力を手に入れた。▼変身した姿は、▼紅い髪をなびかせるレベル500の魔女▼食いしん坊の女子高生ヒーラー▼希代の美少女魔道具師▼・・・▼かつて妄想で描いたキャラたちが、▼美貌も能力もそのままに、俺のアバターとして実体化する。▼そして能力は進化し、分身も加わり、アバターが連携を始める…


総合評価:1628/評価:8.11/連載:86話/更新日時:2026年08月25日(火) 21:18 小説情報

転生者共の学園生活(作者:矢守龍)(原作:ブルーアーカイブ)

ある日、俺は転生してしまった………ブルーアーカイブの世界で頑張って生きていこう考えていたが………▼だが、自分一人だけじゃなくて他に一人、二人、三人………いやおおくね!?▼転生者共が自分たちで学園を立ち上げてこのブルアカ世界を生きてくしかねえ!!!▼


総合評価:992/評価:7.15/連載:33話/更新日時:2026年08月31日(月) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>