Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
翌日の午後。約束の時間ぴったりに、タワマンの自室のチャイムが鳴り響いた。
ピンポーン。
俺がドアを開けると、そこにはテレビでよく見る重厚な鎧姿とは違う、ラフな私服姿の
透き通るようなプラチナブロンドの髪と、宝石のように澄んだ碧眼。シンプルなブラウスとスカートという出で立ちだが、かえって彼女の圧倒的な美貌とスタイルの良さが際立っている。
彼女は、有名ケーキ店のロゴが入った紙袋を提げて、ふわりと微笑んだ。
「やっほー、透さん! 遊びに来たよ!」
「わざわざすみません、どうぞ入ってください」
リビングに案内するなり、セイラの視線はブルーシートの上に置かれた『アイギスの盾』に釘付けになった。
「うわぁ……! これ、本当に写真で見た通り! ものすごい魔力密度……それに、呪いの気配が全くない。完璧に浄化されてる!」
セイラはケーキの箱をテーブルに置くのももどかしく、盾に駆け寄ってその表面を撫で回した。
完全に新しいおもちゃを見つけた子供の目だ。
「透さん、これ凄いよ! 魔法反射率100%なんて、神話クラスのアーティファクトじゃない! ねえ、いくら? 5億? 10億? 言い値で買うよ!」
前のめりになって詰め寄ってくるセイラ。
俺は小さく深呼吸をして、あらかじめ決めていたセリフを口にした。
「お金はいりません。この盾は、タダで譲ります」
「……え?」
セイラがきょとんとした顔で首を傾げる。
Sランク探索者ともなれば、強力な装備は金に糸目をつけないものだ。それを無償で渡すと言われれば、裏があると思うのは当然だろう。
「タダって……どういうこと? 透さん、慈善事業でも始めるの?」
「いえ。その代わり、俺の頼みを一つ聞いてほしいんです」
俺はタブレットを起動し、昨日凛から送られてきた『専属マネジメント契約書』のデータをセイラに見せた。
そして、『
「……なーるほどねぇ」
一通り話を聞き終えたセイラは、呆れたようにため息をついた。
「透さん、ほんっと馬鹿だね。危うく一生飼い殺しにされるところだったじゃない」
「ぐっ……返す言葉もありません」
「でも、その鑑定スキルで罠に気づけたのはファインプレーだね。で? 私にどうしろって?」
「俺の
俺は真剣な眼差しでセイラを見つめた。
「今後、彼女と本契約の話し合いがあります。そこに同席して、俺の専属護衛だと名乗ってほしい。Sランクの貴女が睨みを効かせてくれれば、彼女も下手な真似はできなくなります。アイギスの盾は、そのための費用です」
完璧な提案のはずだった。
凛を牽制でき、セイラは神話級の盾をタダで手に入れられる。Win-Winの取引だ。
しかし。
セイラは腕を組み、少し不機嫌そうに眉をひそめた。
「うーん……却下かな」
「えっ!?」
「アイギスの盾が手に入るのはすごく嬉しいよ。でもさ、私、お金には全然困ってないんだよね。普通に3億でも5億でも払って買うよ」
セイラは盾から視線を外し、俺を真っ直ぐに見た。
「私ね、誰かに主導権を握られるのが嫌いなの。タダでアイテムを貰って、その代わりに誰かの用心棒として縛られる……それって、なんだか透さんに利用されてるみたいで面白くない」
「そ、それは……」
「それに、その凛って女の子の問題は、透さん自身の脇の甘さが招いたことでしょ? 自分で撒いた種は自分で刈り取るのが、探索者のルールだよ」
バッサリと切り捨てられた。
俺は血の気が引くのを感じた。
唯一にして最大の交渉カード「アイギスの盾をタダで譲る」が、金に頓着しないSランクには全く通用しなかったのだ。
(終わった。これじゃあ、凛には……)
完全に手詰まりだ。
俺が絶望して黙り込んでいると、ふと、セイラが「ぷっ」と吹き出した。
「あははっ、ごめんごめん! ちょっと意地悪言いすぎたかな」
「え?」
顔を上げると、セイラが悪戯っぽく笑っていた。
「少し試しただけ。エクスカリバーの件もあるし、透さんがすごい装備を流してくれるのは分かってるから、完全に見捨てるつもりはないよ」
「な、なんですかそれ……心臓に悪い」
「でもね、条件があるの」
セイラの瞳が、鋭い光を帯びる。
「透さんの目が本物だってことは信じてる。でも、私を後ろ盾にしたいなら、その力を私の目の前で
「証明って、どうやって?」
「明日ダンジョンに行くよ。私がよく潜る深層エリアにね」
「はぁ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「し、深層って……俺はFランクだぞ!? 戦闘力皆無なんだ! そんなところに行ったら秒でモンスターの餌になる!」
「大丈夫、私が守るから。それに、アイギスの盾の試運転も兼ねてちょうどいいでしょ?」
セイラは親指を立ててウインクした。
「深層エリアにも、昔の探索者が全滅して残された装備とかが溜まってる『ゴミ捨て場』があるの。そこで、私のお眼鏡にかなうアイテムを、もう一つ見つけてみて」
「……」
「それができたら、透さんの力を完全に信用して、喜んで君の後ろ盾になってあげる。どう?」
試練、というわけか。
彼女にとって、口先だけの契約よりも、実力を見せられる方がよっぽど信用に足るのだろう。
セイラが守ってくれるとはいえ、命の危険はある。
だが、ここで引けば、俺は凛の罠に落ちるか、一生ビクビクして生きるかの二択だ。
「分かりました。お供します」
俺が覚悟を決めて頷くと、セイラは嬉しそうにパァッと表情を輝かせた。
「よし、言質とった! じゃあ早速準備して! 深層のお宝探し、ワクワクしてきたー!」
こうして俺は、日本最強の剣聖と共に、死と隣り合わせのダンジョンへと足を踏み入れることになった。