Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
先日の大騒動から一夜、テレビをつければ、どのチャンネルも同じ映像を流していた。
日本最強のSランク探索者、神宮寺セイラが、ガスマスクを被った不審な男(俺だ)の肩を抱き寄せ、マスコミを威圧するシーン。
『――不当な利益を搾取しようとする者。それは、私を敵に回すのと同じことだと思ってください』
「……はぁ」
俺は、タワマンのふかふかなソファに深く沈み込み、重いため息を吐いた。
セイラさんは最高の形で約束を守ってくれた。
彼女のあの宣言のおかげで、俺や『Master_Eye』の周辺を嗅ぎ回るような真似をする馬鹿は、ほぼいなくなったはずだ。
だが、俺の心は晴れなかった。
スマホの画面には、匿名掲示板の書き込みが滝のように流れている。
『Eye様すげえ!』『セイラ様のお気に入りとか最強かよ』ともてはやされる一方で、俺の心臓をチクチクと刺すような書き込みもあった。
『でもEye様、なんで自分で顔出さないの?』
『戦闘力皆無の職人だからだろ。Sランクのヒモみたいだなw』
『セイラ様に守ってもらわないと何もできないのか』
「言いがかり、と言いたいところだが……図星すぎる。まったくもって言い返せねえ」
俺は両手で顔を覆った。
そうだ。16億円という大金を手にして、俺は完全に浮かれていた。
高いブランド服を着てダンジョンに行き、タグを切り忘れて正体がバレる。
凛の口車に乗せられ、あわや奴隷契約を結ばされそうになる。
迂闊だ、あまりにも迂闊すぎる。
何とかなってきたとは思いつつも、それは単に運が良かっただけ。
今後の危機はセイラに泣きつく以外の手段はほとんどない。
「……はぁ」
……これじゃあ、剛田のパーティで『荷物持ち』としてコキ使われていた頃と、本質的には何も変わっていない。
金とコネという最強の武器を持っていながら、俺自身が弱すぎるんだ。
「変わらなきゃダメだ」
俺は顔を上げ、テーブルの上に置かれた小さな袋を見つめた。
深層で見つけた危険物『服従の種』。
条件を満たせば、絶対的な主従関係を結べるチートアイテム。
最悪、これを使えば凛を完全にコントロールできる。
「いや……ダメだ」
俺は首を横に振った。これを発見したときは軽くハイになっていたが、よく考えたら使用は考えたほうがいいかもしれない。
俺の武器はこれじゃない。俺の武器は『真贋鑑定《しんがんかんてい》』であり、そこから生み出される圧倒的な『価値』のはずだ。
何よりリスクがでかすぎる。今の状況で凛に感づかれずに、すべての条件を踏ませられられる自信はない。スキルを失うというリスクがある以上、使うとしても凛の警戒が緩んだ時期にすべきだろう。
今のところは最後の手段として精神安定用に──
ピロン♪
その時、スマホが鳴った。
D・チャットの通知。相手は――
『透くん! ニュース見たよ! セイラ様を後ろ盾にするなんて流石だね! 一言相談してくれたらよかったのに!』
『でも、私たちのビジネスは予定通り進めようね? 明日、例のラウンジで本契約のサイン、待ってるから♡』
……あきれた。まだ猫被るのか。
俺が契約書の裏を看破していることを知らないとはいえ、あの報道を見てもなお、俺から搾取する気満々らしい。
セイラが『不当な利益を搾取する者』と警告したにも関わらず、自分は上手く法的な抜け穴を使って逃げ切れるとでも思っているのだろう。
俺はキーボードを叩き、短く返信した。
『ああ。明日、一人で行く』
セイラは多忙な身だ。交渉の席にまで同行させるわけにはいかない。
何より、やつとの直接対決だけは一人でやらなきゃいけない気がする。
メッセージの既読は一瞬でついた。
向こうは「しめしめ、セイラは来ないのか。まだ騙せる」とでも思っていることだろう。
俺は立ち上がり、鏡を見た。
大丈夫、冷静だ。
明日の契約。
俺は彼女の土俵で、彼女の武器(契約)を正面から叩き折る。
決意を固めて俺は床に就いた。