Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
築45年、木造アパート『ひまわり荘』。
ここが俺の城だ。
六畳一間、風呂なし、トイレ共同。
壁は薄く、隣の住人がテレビで何を見ているかまで分かる。
家賃は月2万5千円と激安だが、今の俺の全財産では、来月分の家賃も払えない。
「……はぁ、はぁ」
俺は雨に濡れたコートを脱ぎ捨てると、震える手で『それ』を畳の上に置いた。
ゴミ山から拾ってきた、赤茶色の鉄の塊。
見た目はどう見ても、ただの不燃ゴミだ。
「よし! もう一回、確認だ」
俺は唾を飲み込み、右目に意識を集中させる。
先ほどの激痛はない。代わりに、スマートフォンのAR画面を見るような感覚で、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
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【名称】聖剣エクスカリバー(封印状態)
【ランク】国宝級(SSR)
【状態】重度の錆、呪いによる封印
【真価】全ての防御を無効化する絶対切断能力。
【推定市場価格】測定不能(※15億円以上確実)
「色々見えるな……やっぱり、夢じゃない」
15億円。
その数字を見るだけで、脳汁が出そうだ。
もしこれが本当なら、このボロアパートごと買い取ってもお釣りが来る。いや、一生遊んで暮らせる。
だが、問題は【状態】だ。
このままでは、ただの汚い鉄くずとして二束三文で買い叩かれるのがオチだろう。
いや、最悪の場合「詐欺だ」と言われてアカウントをBANされるかもしれない。
「どうすればいいんだ?」
俺が焦りを感じた瞬間、ウィンドウの端に新たなタブが点滅しているのに気づいた。
『修復ガイドを表示しますか?』
『YES / NO』
「え、ガイド? まあ、あったほうがいいか」
迷わず『YES』を念じる。
すると、聖剣の上に矢印とマーカーが表示された。
まるでゲームのチュートリアルだ。
《手順1:表面の物理的な汚れを落としてください》
《推奨アイテム:中性洗剤、金たわし、または『サンポール』的な何か》
「マジかよ!」
国宝級の聖剣に、サンポール? バチ当たりじゃあ……
いや、スキルがそう言うなら従うしかない。てか、他にすがるものがない。
俺は財布の中身を確認し、近所のドラッグストアへ走った。
購入したのは以下の三点。
・強力サビ落としクリーナー(398円)
・金たわし(100円)
・ゴム手袋(150円)
合計648円。
俺の残りの全財産の半分が消えた。これで失敗したら、明日から本気で雑草を食う生活だ。
◇
アパートに戻り、俺はゴム手袋を装着した。
聖剣を流し台に斜めに立てかける。
狭すぎて全体が入らないのが悲しいな……それはともかく!
「まじで頼むぞ、俺の全部賭けるからな!」
クリーナーの液体を、錆びついた刀身にぶっかける。
ジュワジュワ……と、不気味な泡が立つ。
金たわしを握りしめ、俺は一心不乱にこすり始めた。
ギギギ、ガリガリ。
安普請のアパートに、不快な金属音が響く。
隣の部屋から「うるせえ!」と壁ドンされたが、今は構っていられない。
「落ちろ……落ちろぉッ!」
十分ほど格闘しただろうか。
表面の赤錆がヘドロのように流れ落ちていく。
そして――
ピカーッ!
嘘みたいな輝きが、狭い台所を照らした。
「うおっ、まぶし!?」
錆の下から現れたのは、鏡のように磨き上げられた白銀の刃。
刀身には繊細なルーン文字が刻まれ、柄の部分には青い宝石が埋め込まれている。
さっきまでのゴミが嘘のようだ。
これなら、素人が見ても「タダモノじゃない」と分かる。
《手順1:完了》
《手順2:所有者の魔力を注入し、封印(呪い)を中和してください》
ウィンドウが次の指示を出す。
俺はゴクリと喉を鳴らし、柄を握った。
魔力の注入。
探索者なら誰でもできる基本技術だ。
俺の魔力量なんてFランク相応の微々たるものだが……。
「……はっ!」
気合を入れて、魔力を流し込む。
すると、刀身のルーン文字が青白く発光し始めた。
ブォン……。
低い駆動音と共に、剣が脈動する。
《封印解除率:15%》
《外装の復元完了。機能の一部が使用可能です》
「す、すげぇ……」
俺は呆然と呟いた。
握っているだけで分かる。力が湧いてくる感覚。
これがあれば、俺でもSランクモンスターを倒せるんじゃないか?
一瞬、そんな誘惑が頭をよぎった。
「いや、ダメだ。調子に乗んな」
俺は首を振る。
俺は戦士じゃない。ただの鑑定士だ。すごい武器があっても、それをうまく扱える技術なんてない。強くなったわけじゃないんだ。
それに、こんな目立つ武器を持ってダンジョンに入ったら、他の探索者に何を言われるか分からない。
最悪、奪われて終わりだ。
俺に必要なのは「力」じゃない。
今のどん底の生活から抜け出すための「金」だ。
「売るぞ。絶対に売ってやる。何が何でも売ってやる!」
俺は覚悟を決めた。
スマホを取り出し、探索者専用アプリ『D・マーケット』を起動する。
ここはダンジョン関連アイテムなら何でも売買できる、国内最大手のオークションサイトだ。
アカウント名は……本名はマズいな。
少し考えて、『Master_Eye(マスター・アイ)』と入力した。
中二病っぽいが、ハッタリは効くはずだ。
次に写真撮影。
聖剣を畳の上に置き、スマホのカメラを向ける。
生活感丸出しの背景だが、撮影ブースなんて洒落たものはない。
パシャリ。
プレビュー画面には、ボロい畳の上で神々しく輝く聖剣が映っている。
シュールすぎる。合成写真と疑われるレベルだ。
そして、最も重要な出品情報の入力。
【商品名】
【真作】聖剣エクスカリバー(リペア済み・封印解除率15%)
【商品説明】
ダンジョンの深層エリア(廃棄場)で発見しました。
当方のスキルにて鑑定・修復済みです。
切れ味は抜群。ドラゴンの鱗も紙のように切れます(たぶん)。
ノークレーム・ノーリターンでお願いします。
【開始価格】
ここで俺の指が止まった。
相場は15億円。
だが、いきなり「10億円スタート」なんて設定しても、実績ゼロの新規アカウントなんて誰も信用しないだろう。
注目を集める必要がある。
誰でも気軽に参加できて、かつ「なんだこれは?」と思わせる価格。
「買いたたかれるリスクはあるけど……これしかないな」
俺は震える指で、数字を入力した。
【開始価格:1円】
イチかバチかの賭けだ。
もし100円とかで落札されたら、俺は泣いてホームレスルートだ。
でも、この剣の価値が分かる奴が一人でもいれば……。
「頼む……!」
祈るような気持ちで、出品するボタンを押した。
『出品が完了しました』
画面が切り替わる。
新着アイテムの一覧に、俺の聖剣が表示された。
現在価格:1円
入札件数:0
残り時間:24時間
静かだ。
スマホは鳴らない。
外の雨音だけが聞こえる。
「……ま、最初はこんなもんだよな」
俺は強がって呟き、布団に潜り込んだ。
心臓がうるさくて、眠れそうになかった。