Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第19話 アイテムボックス

 翌日の午後。

 タワマンの自室でネットオークションの海を巡回していた俺のスマホが、ピロン♪と小気味良い音を立てた。

 D・チャットの通知だ。

 

『透さんありがとう!! 箱開けた瞬間、すっごい綺麗な魔力で感動しちゃった! 今ちょうど遠征から帰ってきたとこだから、早速つけるね!!(´▽`)』

 

 画面いっぱいに表示される、セイラさんからのスタンプ連打。

 VIP専用ドローン配送で送った『星霊のチョーカー』が無事に届いたらしい。

 日本最強の探索者が、普通の年相応の女の子のようにはしゃいでいるのが文面から伝わってくる。

 

「喜んでもらえてよかった」

 

 俺は少しだけ頬を緩ませ、スタンプを一つ返した。

 彼女には、今回の契約騒動も含めて本当に助けられた。これくらいのお礼は当然だし、あの激務の疲れが少しでも癒えればいいと思う。

 

 ピンポーン。

 

 と、今度はタワマンのコンシェルジュからインターホンが鳴った。宅配便が届いたようだ。

 

「来た来た!」

 

 俺は急いで玄関へ向かい、受け取った段ボール箱をリビングで開封した。

 中から出てきたのは、百均の新聞紙に雑に包まれた『真っ黒な塊』。

 ソフトボールほどの大きさで、手に持つとズシリと重い。表面はカチカチに固まっており、どう見てもただの汚い石だ。剛田たちが「重いだけのゴミ」と判断して売り飛ばしたのも頷ける。

 

「さて、鑑定様の言う通りにやりますか」

 

 俺はキッチンへ移動し、ボウルにぬるま湯を張った。

 そこに、ドラッグストアで買ってきたお馴染みの掃除グッズ――『重曹』と『クエン酸』をドバドバと投入する。

 

 シュワァァァァァッ!!

 

 激しい炭酸ガスの泡が立ち上る。

 その発泡する液体の中に、真っ黒な塊を放り込んだ。

 すると、強固にこびりついていた『魔力ヘドロ』が、シュワシュワという音と共に溶け出し、水がドス黒く濁っていく。

 

「おお、溶けてる溶けてる。サンポール、キッチンハイターに続いて、またしても家庭の味方シリーズが大活躍だな」

 

 数分後。

 ヘドロが完全に溶け落ちたボウルの底で、キラリと眩い光が反射した。

 俺はゴム手袋をして、それを掬い上げる。

 

「……すげぇ」

 

 現れたのは、プラチナのような輝きを放つ、繊細な意匠が施された美しい指輪だった。

 中央には、底知れない深淵を感じさせる漆黒の宝石が埋め込まれている。

 

《修復完了:亜空間の指輪(アイテムボックス)が覚醒しました》

 

 システム音が脳内に響き、指輪が俺の魔力に呼応するように淡く明滅する。

 試しに指にはめ、目の前にあった空の段ボール箱に向けて「収納」と念じてみた。

 

 シュンッ!

 

 一瞬で段ボール箱が空間に吸い込まれ、跡形もなく消え去った。

 頭の中に、収納されたアイテムのリストがARのように浮かび上がる。取り出したいと念じれば、いつでも瞬時に手元へ呼び出せるらしい。

 しかも、中に入れたものは時間が停止するため、熱々のピザを入れれば一年後でも熱々のままだ。

 

「これ……商人としても探索者としても、反則級の装備だぞ」

 

 これからネットでジャンク品を大量に買い込んでも、部屋が散らかる心配はない。

 まさに、俺の錬金術ライフを加速させる最強のパーツだ。

 

「ありがとう、剛田。お前のおかげで、俺のビジネスはさらに一歩進化したよ」

 

 俺は左手の指輪を眺めながら、思わずニヤリと笑った。

 

 ◇

 

 ――同じ頃。

 ダンジョン近くの、床がベタベタの安い大衆中華料理屋にて。

 

「っしゃあ! マジで振り込まれてるぜ、田代! あのゴミに、1万払いやがった! 誰だか知らねえが、馬鹿だぜ!!」

 

 剛田は、スマホの画面を見せびらかしながら下品に笑っていた。

 彼の目の前には、一番安いモヤシラーメンと、半チャーハンが置かれている。

 

「そうっすね剛田さん! あんなのギルドの買取窓口で『ただの泥の塊です、買取不可』って突っ返されたゴミっすよ!」

 

「あぁ! どこのどいつか知らねえが、物好きもいたもんだ! 手数料引いても9千円ちょいの儲けだぜ!」

 

 田代も手を叩いて喜んでいる。

 彼らは前回の探索で武器を壊し、所持金が文字通り数百円しかなかった。

 この1万円の売上がなければ、今日の晩飯すら食えなかったのだ。

 

「これで今日のメシ代と、明日のポーション代くらいにはなるな。おいオヤジ! 餃子一皿追加だ!」

 

「へいよー!」

 

 剛田は上機嫌でビールをあおりながら、高らかに宣言する。

 

「やっぱ俺たちは運がいい! 凛のやつが消えても、相馬みたいな足手まといがいなりゃ、こうやって金は手に入るんだよ!」

 

「その通りっすね! あんな石っころに1万も払うマヌケに乾杯っす!」

 

「がはははっ! 違いねえ!」

 

 彼らは、安い餃子を頬張りながら勝利の美酒に酔いしれていた。

 自分たちがたった今、20億円はくだらないレアアイテムを、ちょっとした贅沢をするための端金で手放したことなど、露ほども知らない。

 

 もしその事実を知った時、彼らはいま口にしている餃子すら喉を通らなくなるだろう。

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