Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第20話 異変

 亜空間の指輪(アイテムボックス)を手に入れてから数日。

 俺のタワマンでの引きこもり生活は、極めて快適かつ効率的なものへと進化していた。

 

 自室に引きこもり、ノートPCの画面に『真贋鑑定(しんがんかんてい)』を発動させたまま、全国の探索者が出品するジャンク品を片っ端から買い漁る。

 予算は、口座に眠る約16億円。

 だが、出品されているのは「謎の石」「折れた剣」「呪いの防具」といった、相場が数百円から数千円のゴミばかりだ。買っても買っても、一向に資金が減らない。

 

 届いた段ボールの山は、アイテムボックスに放り込んで部屋をスッキリさせ、キッチンと風呂場を往復しながら修復作業に没頭した。

 

『汚い木の枝(300円)』として売り出されている物の正体が魔法威力を倍増させる【大賢者の杖】だったり、掘り出し物が非常に多いので、やりがいがある。

 

「……ふぅ。とりあえず、こんなもんか」

 

 一通りの作業を終え、俺はふかふかのソファに深々と腰掛け、スマホを取り出した。

 連絡先アプリ『D・チャット』を開き、自宅待機を命じていた酒井 凛(さかい りん)にメッセージを送る。

 

『仕事だ。今からウチに来れるか?』

 

 数分後。

 

『了解しました。すぐに向かいます』

 

 おお、既読と返信の早さは流石だな。

 

 ◇

 

 ピンポーン。

 

 メッセージを送信してから約30分後、玄関のチャイムが鳴った。

 モニターを確認すると、そこにはパリッとしたタイトスーツを着こなした酒井 凛(さかい りん)が、ガチガチに緊張した面持ちで立っていた。

 

「入れよ、鍵は開いてる」

 

「し、失礼いたします……!」

 

「気持ち悪いから普通にしてていいぞ」

 

「そ、そう?」

 

 ガチャリと扉を開け、凛がリビングへと入ってくる。

 以前のような、俺を見下すような態度は微塵もない。

 

「それで? 海外のバイヤーのリストアップは進んでるか?」

 

「え、ええ。もちろん。アラブの王族から、欧州の大手ギルドマスターまで、Master_Eyeの新作なら言い値で買うっていう太客を数十人ほどピックアップしておいたわ。あと販路を広げるために低価格商品の展開ルートもね」

 

「仕事早いな。さすがだ」

 

「と、当然! 私を誰だと思ってるの。マージン2%でも、絶対に100億稼いでみせるんだから……!」

 

 凛は謎のガッツポーズをしている。

 根が強欲なだけに、稼ぐことに対する意欲だけは信用に値する。

 

「で、でも……肝心の売る商品がないじゃない。いつになったらダンジョンに仕入れに……」

 

「ああ、仕入れならもう終わってるぞ」

 

「え?」

 

 俺はソファから立ち上がり、何もないリビングの床に向かって、左手の指輪をかざした。

 

()()

 

 ――ジャラララララララッ!!

 

 亜空間のゲートが開き、この数日で俺がネットで買い漁り、修復を終えたアイテムたちが、滝のように床へと降り注いだ。

 

 炎を纏う双剣、ミスリル製の重鎧、透明化の魔力が付与された外套、そして先ほど風呂で修復した大賢者の杖。

 どれもこれも、AランクからSランク級の代物ばかり。総数にしておよそ二十点。

 リビングの照明を反射して、宝の山が眩い光を放つ。

 

「…………は?」

 

 凛が、持っていたタブレットを床に落としそうになった。

 口をパクパクと金魚のように開閉させ、信じられないものを見る目で俺と宝の山を交互に見る。

 

「ど、どこから出したの!? ていうか、このアイテムの山……全部、国宝レベルの魔力波形が出てるんだけど!?」

 

「ネットで安く仕入れて、さっき風呂場で洗った」

 

「風呂場!? ネット!? 意味が分からないわよ! これ全部売ったら、軽く100億円は超えるわよ!?」

 

 凛は震える手で『大賢者の杖』に触れ、ひぃっ、と短い悲鳴を上げて後ずさった。

 彼女の脳内で、俺の異常性がさらに一段階跳ね上がったのだろう。

 

「と、透くん……あなた、本当に何者なの?」

 

「ただのFランクの鑑定士だよ、お前もよく知ってるだろ。だから、こういうのを高く安全に売るために、お前を雇ったんだ」

 

「…………」

 

 凛はその場にペタンと座り込み、深く、深くため息を吐いた。

 

「……私、本気で馬鹿だったわ。これなら搾取するより普通に擦り寄ったほうがよかったじゃない」

 

 彼女は完全に何かを諦めた(あるいは悟った)ような顔で立ち上がると、落ちていたタブレットを拾い上げた。

 その瞳にギラギラとした欲望の光が宿る。

 

「分かったわ。これ全部、私が責任を持って『世界一高い値段』で売り捌いてみせる。アラブの石油王でも、アメリカの軍事企業でも、片っ端からオークションで競り合わせるわよ!」

 

「頼もしいな。任せたぞ」

 

 凛が猛烈な勢いでタブレットを操作し、アイテムの撮影とナンバリングを始めようとした時、ふと彼女の手が止まった。

 

「……あ、そういえば。透くん、一つ気になる情報があるの」

 

「ん? なんだ?」

 

「ギルドの裏掲示板の噂なんだけどね。最近、新宿ダンジョンの中層の様子がおかしいらしいのよ」

 

 凛は少しだけ真面目な顔になって、俺を見た。

 

「深層にいるはずの強力なモンスターが、なぜか中層や上層に逃げてきてるみたい。そのせいで、中層の難易度が跳ね上がってて、ギルドが特別報酬を出して討伐依頼をかけてるの。その分、この武器たちの需要は大きくなるから、私たちには悪い話じゃないけどね」

 

「深層の魔物が上層に? ……なんか、嫌な予感がするな」

 

 俺が眉をひそめると、凛はやれやれと肩をすくめた。

 

「でね、ここからが笑い話なんだけど。……その特別報酬に目が眩んで、自分の実力も分かってない馬鹿なパーティが、中層のボス討伐クエストを受注しちゃったみたいなの」

 

「馬鹿なパーティ?」

 

「ええ。リーダーが大剣使いの、ボロボロの装備しかない貧乏パーティ。……誰だか分かるでしょ?」

 

 俺は息を呑んだ。

 剛田たちだ。あいつら、俺が1万円で亜空間の指輪(アイテムボックス)を購入したことで少しだけ息を吹き返し、あろうことか分不相応な中層クエストに手を出したってとこだろうか。

 

「あいつら、死ぬ気か?」

 

「自業自得よ。私がいなくなって、よっぽど資金繰りに焦ってたんでしょ。……助ける気なんてないわよね?」

 

 凛が試すように俺を見つめてくる。

 俺は少しだけ沈黙し、そして、首を横に振った。

 

「自分で撒いた種は自分で刈り取るのが、探索者のルールだろ」

 

 剛田たちに恨みこそあれど、自ら死地に赴く彼らを、わざわざ危険を冒してまで助けに行く義理はない。

 

「そうね。せいぜい、ダンジョンの肥やしになることを祈りましょ」

 

 凛は冷たく笑うと、再びアイテムの撮影作業に戻った。

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