Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
いつものタワマン、三十五階の最上階。防音ガラスの向こうには東京の煌びやかな夜景が広がっているが、今の俺の部屋の中は、それ以上に熱く、そして異常な熱気に包まれていた。
「……現在価格、八十五億円! アラブの石油王がまた入札してきたわ! ちょっと、息をするように十億単位で上乗せしてくるんだけど、この人たち金銭感覚どうなってんの!?」
部屋の隅に設置された巨大なL字デスク。そこに並べられた六台のマルチモニターの前で、優秀な奴隷……もといビジネスパートナーである
普段は完璧にセットされている彼女の髪は振り乱され、タイトスーツの襟元も少しはだけている。それほどまでに、今夜のオークションは狂狂騒状態だった。
「次はアメリカの大手探索者ギルドのマスターね! 九十億で高値更新! ああっ、ヨーロッパの貴族連中も黙ってないわ、共同出資で九十五億の札を上げてきた!」
今日は、凛が企画し、世界中の超富裕層とトップ探索者だけを招待して行われている『Master_Eye限定・VIPオンラインオークション』の開催日だ。
出品しているのは、俺がこの数日間でネットのフリマから二束三文で買い集め、自宅の風呂場やキッチンで洗い上げた、神話級および伝説級のアイテム約二十点である。
「凄いんだな、凛。マジでバンバン値上がってくじゃないか」
俺はふかふかのソファに寝転がりながら、ちょっと高めの酒を飲みながら感心してつぶやいた。
オークションの画面には、出品物ごとに豪華な3Dモデルの映像と、凛が徹夜で書き上げた(多少誇張混じりの)ポエムのような商品説明が掲載されている。それだけでなく、彼女はリアルタイムで多言語のチャットを駆使し、バイヤーたちのプライドを巧みにくすぐって競り合いを激化させていた。
「当然よ! 稼げば稼いだだけ私の取り分もデカくなるんだもの! 『前回、日本の剣聖に遅れを取った皆様、今回こそが真の力を見せつける時です』って煽ったら、面白いように釣れる釣れる……ああっ、来たわ! 【大賢者の杖】が百二十億円で落札よ!!」
パーンッ! と画面上でバーチャルな紙吹雪が舞う。
「よし! これで本日の総売上、軽く五百億円は突破したわよ!! 手数料引いても、私たちの手元に残るのは……うふふ、あははははっ!!」
モニターの光に照らされた凛の顔は、完全に欲望に憑りつかれた悪女のそれだった。だが、彼女がこれだけ狂喜乱舞してくれるおかげで、俺の銀行口座の桁は、もはやバグったゲームのように増え続けている。
五百億。
剛田のパーティで、一個数百円のポーション代をケチられて罵倒されていた日々が、まるで遠い前世の記憶のように感じられる。
まあ一緒になって罵倒していた女がその金を稼いでいるというのも変な話だが。
「……これだけ金があると、逆に金銭感覚が麻痺してくるな」
俺はソファから身を起こし、暇つぶしに手元のスマホを開いた。
そして、先日作成しておいた仕入れ用のアカウントで『D・マーケット』の一般向けフリマページにアクセスする。
これだけ大金持ちになり、VIP相手の商売を確立しても、俺の根っこにある「安く仕入れて高く売る」という錬金術師的な性分は変わらない。
だが、検索条件を『価格の高い順』に並び替え、誰も見向きもしないような高額のボッタクリ商品を冷やかして回るのが、最近の俺のちょっとした息抜きだった。
「さて、今日の売れ残り品はどんなラインナップかな……ん?」
ふと、検索結果の一番上に表示されている、何日も前からずっと売れ残っている出品物に目が止まった。
『出品名:謎の巨大石柱(デカくて邪魔です。引取限定。送料購入者負担)』
『開始価格:100,000,000円』
「一億の石柱……?」
写真は、どこかの薄暗く埃っぽい倉庫で撮られたものだった。高さは三メートルほど、幅は一メートル四方はあるだろうか。全体が分厚い苔と謎の黒いヘドロに覆われた、ただの巨大な四角い石の塊だ。
詳細文を読んでみると、どうやら過去に中層の隠し部屋で発見されたものらしいが、「ただの石柱」と判定された代物だという。
過去の価格交渉の履歴を見たところ、持ち帰るだけで莫大な運搬費がかかったため、出品者は赤字を取り戻そうと一億円という強気な価格を設定しているらしい。
コメント欄は当然ながら大荒れだ。
『こんなの1億で買う馬鹿いねーよww』
『ただの庭石じゃねーか。ぼったくり乙』
『重すぎて運ぶだけで数百万飛ぶぞ。粗大ゴミの処分費払え』
『そもそも引取限定の時点で売る気ないだろ』
「まあ、普通の感覚ならそう思うよな。潔くただの石って言ってるんだから」
俺はただの好奇心から、スマホの画面越しに右目に意識を集中させ、『
ただのゴミなら、笑ってスルーすればいい。
――ブォン。
視界が軽く歪み、石柱の画像の上にシステムウィンドウが重なるように展開される。
そこに表示された文字列を見た瞬間、俺は心臓が口から飛び出しそうになった。
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【名称】
【ランク】神話級
【状態】重度の苔汚染、魔力回路の完全休眠
【真価】登録したアイテムを、任意の対象者または指定座標へ
亜空間の指輪《アイテムボックス》との同期により、インベントリ内のアイテムを、任意の座標および特定個人へ個別転送することが可能。
【修復条件】高圧洗浄機と高濃度のアルカリ性洗剤による表面浄化、および大量の魔力注入。
【推定市場価格】28億円
「……っ!! げっほ、ごほっ!?」
俺は飲んでいた酒を気管に詰まらせ、激しくむせた。
「ちょっと透くん。どうしたのよ、汚いじゃない」
「ごほっ……凛、これ、これ見ろ」
俺はむせながらスマホの画面を凛に向けた。
「はぁ? 一億の石柱? 何これ、典型的なボッタクリのゴミじゃない。こんなの誰も買わな――」
「違う! 俺の目には視えてるんだ。こいつの正体は『
「……は?」
凛のタイピングの手がピタリと止まった。
彼女はゆっくりと首を回し、俺の顔とスマホの画面を交互に見比べる。
「アイテムを……瞬間転送? 地球上のどこへでも?」
「ああ、鑑定結果には『絶対兵站システム』って書いてある。おそらく、俺の持ってるアイテムボックスと組み合わせれば、この部屋にいながらにして、さっき落札してくれた海外のVIPたちの手元へ、一瞬で商品を届けることができるはずだ」
「なっ……!?」
凛はガタッ! と椅子を蹴立てて立ち上がった。
彼女はビジネスに関しては天才だ。それが意味する圧倒的なメリットを、瞬時に理解したのだ。
「面倒事、全部すっ飛ばして即時納品……? それって……!」
「ああ、馬鹿にならない海外輸送の費用が浮くし面倒な手続きもすっ飛ばせる。買うぞ!」
俺は震える指で、『即決落札:100,000,000円』のボタンを力強くタップした。
画面が切り替わり、『落札が完了しました』の文字が表示される。
オークションの売上五百億円という大金を手にした夜。俺たちはそれ以上の価値を持つ『究極のゴミ』を手に入れ、タワマンの最上階で狂ったようにハイタッチを交わしたのだった。