Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
翌日の午前十時。
俺はタワマンの地下にある、大型車専用の搬入口へと降りていた。
「オーライ、オーライ! ストーップ!」
誘導員の掛け声とともに、ダンジョンギルドが手配した巨大な十二トントラックが停車する。
荷台のウイングが開くと、そこには分厚い緩衝材とワイヤーで厳重に固定された、高さ三メートルほどの巨大な石柱が横たわっていた。
出品者である中堅ギルドの男たちが、汗だくになりながらフォークリフトを準備している。
「いやぁ、まさか本当にこれを即決で買ってくれる人がいるとは思いませんでしたよ! でもお客さん、これ重量がえぐいんですけど、どうやって部屋まで運びます? 搬物用エレベーターでも重量オーバーですよ?」
ギルドの男が、困惑したように頭を掻きながら尋ねてきた。
「ああ、運搬の心配は無用です。ここで受け取りますから」
「え? ここでって……こんな重いもの、人力じゃ無理っすよ?」
「いいから、受け取り確認のサイン、ここでいいですか? それじゃあ、ご苦労様でした」
ギルドの男たちが去ったのを見届け、だれの視線もないことを確かめる。アイテムボックスはある意味で俺の事業の中核だ。おいそれと他人に見られるわけにはいかない。
俺は石柱に近づき、そっと手を触れた。
そして、左手にはめた『
「――
シュンッ!!
という空気を切るような鋭い音と共に、五トンの巨石が瞬く間に空間の歪みへと吸い込まれ、跡形もなく消え去った。
容量無限・重量無視の神話級アイテムボックス。これさえあれば、引っ越し業者も重機も不要だ。
やはり便利なものだと、俺は清々しい気分でエレベーターに乗り込み、三十五階の自室へと戻った。
◇
リビングに戻ると、すでに修復のための準備は万端に整っていた。
床には壁まで覆うように何重にもブルーシートが敷き詰められ、排水用の簡易ポンプがベランダへと繋がれている。
「よし、出すぞ」
部屋の中央に、先ほどの巨大石柱を静かにドスンと取り出す。
近くで見ると、やはりその汚れは凄まじい。何千年、何万年とダンジョンの奥深くに放置されていたのだろう。分厚い緑色の苔の下には、魔力が腐敗して固まったドス黒いヘドロが層を成している。
「これだけの図体だ、いつもの激安洗剤じゃラチが明かないな」
俺はゴーグルと防水エプロン、長靴をフル装備し、ベランダの水道から引っ張ってきた『業務用・超高圧洗浄機』のノズルを構えた。
さらに、タンクの中には特殊配合した高濃度のアルカリ性洗剤と、重曹、クエン酸を絶妙な比率でブレンドした俺特製の洗浄液がたっぷりと入っている。
「いくぞ!」
トリガーを引く。
ブギュゥゥゥゥゥンッ!!
凄まじい水圧が暴れ狂い、石柱の表面に激突する。
水と洗剤の力、そして俺がノズル越しに注ぎ込む微量な魔力が混ざり合い、強固なヘドロの層を容赦なく削り飛ばしていく。
黒ずんだヘドロと緑の苔が、ドロドロの滝となって流れ落ちていく。
その下から、少しずつ、少しずつ本来の姿が露わになっていく。透き通るような白亜の大理石。そして、その表面にびっしりと刻まれた、幾何学的な黄金の魔力回路。
作業を開始してから二時間。
俺は肩で息をしながら、ようやく高圧洗浄機のスイッチを切った。
「……すげえ」
ブルーシートの中央にそびえ立っていたのは、ただの石柱などではなかった。
それは、神殿の奥深くに祀られているような、神々しい光を放つ神々しい柱だった。
表面に刻まれた黄金のラインが、まるで呼吸をするように淡く脈打っている。部屋の空気が、その石碑から放たれる清浄な魔力によって満たされていくのが分かった。
《修復完了:『
《周囲の魔力ソースを検索中……『
《同期完了。インベントリ内のアイテムを、任意の座標および特定個人へ個別転送することが可能になりました》
脳内に響くシステム音。
次の瞬間、巨大な石碑がフワリと宙に浮き上がったかと思うと、光の粒子となって分解され、俺の左手の指輪の中へと自動的に吸い込まれていった。
どうやら、実物を部屋にドカンと置いておかなくても、アイテムボックスのシステムの一部として組み込まれ、リンクしたらしい。
「よし、早速テストだ」
俺はアイテムボックスの中から、実験用に入れておいた『ただのリンゴ』を選択した。
視界の端に、AR(拡張現実)のような半透明の転送メニューが浮かび上がる。そこから転送先を『座標指定:リビングのガラステーブルの上』に設定し、実行を念じる。
――シュンッ!
音もなく。光すらない。
本当に一瞬の出来事だった。
俺の目の前、何もないガラステーブルの上に、真っ赤なリンゴが忽然と出現したのだ。
「完璧だ。完璧すぎる」
俺は震える手でリンゴを手に取った。転送による劣化や損傷は一切ない。
これなら、遠く離れた海外のVIPのもとへ、一秒で商品を届けることができる。
だが、俺の頭に浮かんだのはそれだけではない。
「これなら、ダンジョンにいる探索者に、武器やポーションを、直接
転売ビジネスだけではなく、前線で戦う探索者に後方から無限に補給を行い続ける支援システム。
そんなものをうまい具合に構築できれば、ゆくゆくはダンジョン探索の運営に携われるかもしれない。
改めて夢が広がるのを実感する。
「とりあえず、今のうちに在庫の武器と、さっきネットで買い足した高級ポーションを全部これに登録しとくか」
俺は指輪の中に保管している、神話級や伝説級の武器防具、回復アイテムの数々を、いつでも『神碑』で転送できるようにシステムへと紐づけていった。
俺はこれからの事を妄想しながら一人で転送のテストを繰り返してニヤニヤと笑っていた。