Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
狂乱のオークションから一夜明けた翌日の朝。
俺はタワマンの最高級レザーソファに深く沈み込み、窓から差し込む朝日を浴びながら、昨夜の余韻に浸っていた。
たった数時間。世界中の富豪やギルドマスターを相手に行ったオンラインオークションの総売上は、驚愕の『五百億円』を突破していた。
剛田のパーティにいた頃、一個数百円の最下級ポーションの代金をケチられて罵倒され、雨の降る日に廃棄寸前の半額弁当すら買えずに震えていた日々。それがまるで前世の出来事のように思える。
金が全てとは言わないが、口座の残高は間違いなく心の絶対的な余裕に繋がっていた。
しかし、俺の向かいに座る
彼女は朝から淹れたての高級コーヒーには目もくれず、手元のタブレットを血走った目で睨みつけながら、ぶつぶつと呪詛のようなものを呟いていた。
「……ありえない。いくらなんでも搾取しすぎよ。こんなの泥棒じゃない……っ!」
そして、バンッ! と勢いよくガラステーブルを叩いて立ち上がった。
「どうしたんだ、急に。朝から物騒だぞ」
「税金よ、税・金! 透くん、あなた今、個人事業主のままで五百億も売り上げたのよ!? このまま何もしないで確定申告の時期を迎えたらどうなるか分かってるの!?」
「いや、そこまで詳しくないけど……結構持っていかれるのか?」
「結構どころの騒ぎじゃないわよ! 累進課税の最高税率で、所得税と住民税合わせて半分近く国に持っていかれるの! 約二百五十億円よ!? 私たちの血と汗と涙の結晶が、ダンジョンに潜りもしないお偉いさんたちの懐に自動的に吸い込まれるのよ!? そんなの絶対に、絶対に許せないわ!」
血と汗と涙の結晶が、確かに二百五十億という数字をタダで持っていかれるのは痛すぎる。俺も税金のシステムに詳しいわけではないが、顔面を蒼白にしながら肩で息をする凛を見れば、事態の深刻さは一目瞭然だった。
彼女の金への執着は、もはや一つの才能と言っていい。
「なら、どうすればいいんだ? 払わないと脱税で最悪刑務所行きだろ?」
「当然よ! だから、合法的に守るの。今日この瞬間に
凛は猛烈な勢いでタブレットを操作し、徹夜で用意していたらしい『法人設立の定款』や『各種届出書』のデータファイルを開き、俺の目の前に突きつけてきた。
「いつの間にこんな……」
「法務局への登記や税務署への申請には数週間かかるけど、とにかく今日中に手続きをスタートさせるわ。ほら、ここに電子サインして!」
グイッとタブレットを押し付けてくる凛の鼻息は荒い。
少し前の俺なら、その迫力に押されて、言われるがままにサインしていただろう。
だが、今の俺は違う。ちょうど目の前にいる奴に一度騙されかけたのだ。いやでも疑ってかかってしまう。
「ちょっと待て」
「え? 急がないと今年度の税金対策に間に合わないかもしれないのよ?」
「いくら急ぎでも、中身の確認も俺の仕事だろ。社長になるんだから」
俺は凛からタブレットを静かに受け取ると、右目に意識を集中させ、『
――ブォン。
視界が軽く歪み、電子データの書類画像の上にシステムウィンドウが展開される。
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【名称】株式会社アンティーク・アイ 設立発起人同意書・定款
【制作者】酒井 凛
【状態】正常。法的瑕疵および隠しトラップなし。
【真意】
代表取締役である相馬透の資産防衛および節税を
(※制作者の心理:『この金の卵を産むガチョウ(透)の資産を絶対に国に奪わせない。マージン2%でも、透が稼ぎ続ければ私は一生安泰。彼を最高の環境で働かせるための完璧な盾を作る』)
【危険度】ゼロ
(がめつさは透けてるけど……よし、本当にクリーンな書類だ)
鑑定結果には、書類の法的効力だけでなく、凛の心の奥底にある本音すらも赤裸々に表示されていた。
どうやら凛は、あの『違約金百億円の契約書』の一件で俺から搾取するのを完全に諦めたらしい。彼女の真意が「会社を立ち上げて自分のマージン(2%といえど五百億なら十億円だ)を絶対に守り抜く」という強欲さと、俺への妙な信頼に基づいていることが分かり、逆に安心した。
変に善人ぶられるよりも、互いの利益のために動くビジネスライクな関係の方がよっぽど信用できる。
「うん。問題ないな」
「も、もちろんよ! 今更あなたに変な罠仕掛けるわけないじゃない!」
凛が少しだけ肩をすくめて、言い訳するように抗議する。俺がスキルで書類の裏を見抜けることを知っている彼女からすれば、下手を打つ方がリスクなのだ。
俺はタブレットの署名欄にスラスラと電子サインを書き込み、凛に返した。
「手続きの手配、頼んだぞ、専務」
「任せてちょうだい、社長。……でね、会社を作るにあたって、もう一つ重大な問題があるの」
凛はホッとした表情を見せた後、部屋の片隅に鎮座している(今は俺のアイテムボックスの中だが)『
「ここ、タワマンの三十五階よ? 探索者向けの賃貸とはいえ、あんな数トンもある巨大な石柱を出し入れしてたら、文句も言われるわ。それに、これから神話級のアイテムを大量にストックするのに、賃貸マンションじゃ心許なさすぎる」
「そう、か? ……いや、そうだな」
今はアイテムボックスがあるから部屋が散らからないだけで、俺の持っている在庫は国家の軍事バランスを崩しかねないレベルの代物ばかりだ。もし俺が寝ている間に、海外のテロ組織や闇ギルドの暗殺者が窓をぶち破って入ってきたら、戦闘力皆無の俺はひとたまりもない。
セイラがいくら強くても、二四時間三六五日ずっと俺を守るわけにはいかないのだ。
「そこで、いいものみつけたの。ギルドが売却先を探している『地下防空壕跡地』があるの。昔、対ダンジョン・対モンスター用に国が本気で作った元シェルターで、核攻撃にも耐えられるし、対物理・対魔法の多重障壁も完備されてるわ」
「シェルター? そんな代物、一般人が買えるのか?」
「百億以上もする上に維持費がかかるから、ずっと買い手がつかなかった不良債権なのよ。でも、今の私たちならキャッシュで一括払いできるわ。だいぶ値下がりしてるしね。経費で落とせるし、最強のオフィス兼住居になる。今すぐギルドの不動産部門に連絡して、内見の予約を入れるわよ!」
五百億という圧倒的な資金源を得た凛の行動力は凄まじかった。
俺たちは早速、これからの活動拠点となる『地下要塞』の視察と買い付けへと向かうことになった。