Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
都内某所。ギルド本部ビルの一室にある不動産管理部門。
応接室のソファに座る俺たちを前に、恰幅の良い中年のギルド幹部が、明らかに値踏みするような、疑り深い視線を向けていた。
「……あの、大変申し上げにくいのですが。当ギルドが管理する『特A級地下シェルター』は、売却希望価格が百億円を下りません。相馬様は、失礼ながらFランクの探索者とお見受けしますが……冷やかしであれば、お帰りいただきたいのですが」
幹部の態度は、慇懃無礼そのものだった。
無理もない。俺は相変わらず冴えないパーカー姿だし、隣にいる凛も元々はCランクパーティのしがない渉外担当だ。そんな若造二人が「五十億の物件を買いに来た」と言えば、正気を疑われるのが普通だ。
だが、凛は余裕の笑みを崩さず、鞄から一枚の書類を取り出してテーブルの上に滑らせた。
「ローン審査なんて面倒なことはお願いしませんわぁ。キャッシュで、今日中に引き渡しをお願いしたいの。即金なら、少しは色をつけてもらえるかしら?」
「はっ、即金? 馬鹿馬鹿しい、そんな大金が……私たちも暇じゃないんだ」
鼻で笑いながら書類――銀行が発行した『残高証明書』――を手に取った幹部の手が、ピタリと止まった。
彼の目が、信じられないものを見るように見開かれ、書類と俺たちの顔を何度も往復する。
「ご、ご、五百……おくっ!?」
幹部の額から滝のような冷や汗が噴き出した。
五百億円。それは、中堅のギルドが束になっても敵わない、国家クラスの個人資産だ。
「し、失礼いたしましたッ!! ただちに、ただちに契約の準備を進めさせていただきます! 値引きのなどに関しましても、ギルド長に掛け合いまして最大限の誠意を……ッ!」
幹部は椅子から転げ落ちんばかりの勢いで立ち上がり、腰を九十度に曲げて部屋を飛び出していった。
圧倒的な資本の暴力。社会的な地位が、一枚の紙切れによって完全に逆転した瞬間だった。
ついつい口角が上がりそうになるのを押さえながら、ギルドの案内を待つのだった。
◇
「ひろっ……! なんだここ、サッカースタジアムくらいあるぞ!?」
その日の夕方。
俺たちは手続きを終え、購入したばかりの地下数十メートルにある新オフィス――元シェルターの内部へと足を踏み入れていた。
分厚い鉛と魔力吸収合金でコーティングされた隔壁の奥に広がっていたのは、無機質だがとてつもなく広大な空間だった。
天井は高く、自家発電機や巨大な空調システム、果ては地下水脈を利用した浄水施設まで完備されている。まさに映画に出てくる秘密基地そのものだ。
「ここなら、巨大なアーティファクトを何百個並べても床が抜ける心配はないわね。それに、ギルド直轄の警備システムをそのまま引き継いだから、ハッキングや物理的な侵入も絶対に不可能よ。私が交渉したの、感謝してよね」
凛が満足そうにヒールの音を響かせながらフロアを見渡す。
「さて、それじゃあ引っ越しといくか」
俺は広大なフロアの中央に立ち、左手にはめた『
「――展開」
シュンッ! という空気を切り裂くような鋭い音と共に、亜空間のゲートが開く。
タワマンから丸ごと収納してきた高級ソファ、大型モニター、大量の未修復ジャンク品、生活用品一式、そして何より巨大な『
「……相変わらず、非常識な絵面ね。業者が泣いて抗議してくるわよ」
一瞬にして、無機質だったコンクリートの空間が、俺たちの快適な新しい『拠点』へと生まれ変わった。
これだけ広い空間なら、誰に気兼ねすることもなく高圧洗浄機を振り回せるし、サンポールの刺激臭を気にすることもない。
「ふぅ……これでようやく一安心ね。株式会社アンティーク・アイ、新オフィスの堂々完成よ。あ、前のタワマンの方はもう私から不動産屋に連絡して、即日解約の手続きを済ませておいたから」
「お、仕事が早いな。違約金とかかからなかったか?」
「もちろん経費で落とすからノーダメージよ。別に未練はないんでしょ?」
凛は新調した高級オフィスチェアに深く腰を下ろし、ホッと息をついた。
俺たち二人は、ひとまず近所のコンビニで買ってきた缶コーヒーを掲げ、ささやかな乾杯をした。
「それにしても、トントン拍子に進みすぎてる気がするな。怖いぐらいだ」
俺が少しだけ気を緩めながら、壁際に設置したばかりのモニターの電源を入れると、ニュースチャンネルの映像が映し出された。
『――続いてのニュースです。現在、新宿ダンジョンにおいて、不可解な現象が報告されています』
キャスターの神妙な声と、画面に映し出された物々しいダンジョンゲートの映像に、俺と凛の視線が自然とモニターへと吸い寄せられる。
『本来、地下五十階以降の
「深層の魔物が、上に上がってきてる……?」
俺は眉をひそめた。
以前、凛から聞いた「中層の様子がおかしい」という噂が、いよいよ本格的な全国ニュースとして取り上げられ始めたのだ。
画面の端には、怪我をしてストレッチャーで運ばれる探索者たちの姿が映っている。
「嫌な予感がするわね」
凛が缶コーヒーを握りしめながら、ポツリと漏らした。
俺も全く同じ気持ちだった。ダンジョンの生態系が崩れるということは、何かしらの致命的な
それは──
嫌な予感が頭の片隅をちらつく。
「まさかな……」
気のせいだろうと、軽く首を振ってつぶやく。
しかし、嫌な予感は、もやもやと頭の奥にこびりついて残っていた。