Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
地下数十メートルに位置する広大な新オフィス兼我が家。
空調の低い駆動音だけが響く静かな空間で、俺はアイテムボックスから取り出したこまごまとした私物の荷解きをしていた。
「ねえ、透くん。前から提案しようと思ってたんだけど」
巨大なマルチモニターの前でキーボードを叩いていた
「『Master_Eye』の公式プロモーション用アカウント、そろそろ作らない?」
「公式アカウント? SNSとか動画配信サイトのか?」
「そうよ。セイラ様が会見で大々的に名前を出してくれたおかげで、Eye様の知名度は今や世界トップクラス。でも、そのせいで『私がEye様の弟子です』とか『Eye様公認のアイテムです』なんて騙る詐欺師や偽アカウントが大量発生してるの」
凛はタブレットをスワイプし、胡散臭い出品ページやSNSの投稿をいくつも表示させた。
「もちろん見つけ次第、片っ端からギルドや運営に通報して潰してるけど、キリがないわ。それに、今後の海外展開や大型オークションの告知を考えたら、私たち自身で情報をコントロールする『公式の絶対的な発信源』が必要なのよ」
凛の言うことは、ビジネスの観点からすれば百理ある。
本物が公式に情報を発信すれば、偽物は一瞬で駆逐できるし、ブランド力はさらに跳ね上がるだろう。
「……気持ちは分かるが、却下だ」
「どうして!? 音声変調ソフトも使うし、海外のサーバーをいくつも経由させて、IPアドレスだって徹底的に偽装するわ。絶対に足はつかせないから!」
「それでもダメだ。ネットの特定班を舐めすぎだぞ」
俺は段ボールから古い荷物を取り出しながら、首を横に振った。
「声の周波数の僅かな癖、マイクが拾った微かな環境音、通信の僅かなラグ……そういう些細な情報から、あいつらは発信源を丸裸にする。万が一にも居場所がバレたら、この地下要塞にだってミサイルが撃ち込まれる可能性もゼロじゃないだろ? てか、お前に一回特定されたし、怖いぞ俺は」
「うっ……それは、そうだけど……」
命あっての物種だ。
俺は戦闘力皆無のFランク。安全第一、石橋は叩いて渡るどころか、叩き壊して別の安全な道を探すくらいでちょうどいい。
「はぁ……社長がそこまで言うなら、今は諦めるわ」
凛が不満げに頬を膨らませ、再びモニターへと向き直った時だった。
「……ん?」
荷解きをしていた俺の手が、ある物の上でピタリと止まった。
使い古された革袋。その中から出てきたのは、ソフトボール大の『曇った水晶玉』だった。
それは俺が冒険者になったばかりの頃、上層のゴミ捨て場で拾ったものだ。ギルドの鑑定機でも「ただの石英の塊」としか判定されず、当然売れもしなかった。
だが、手持ち無沙汰な時や、剛田たちに理不尽に怒鳴られて心が荒んだ時、俺はなんとなくこの水晶玉を柔らかい布で無心に磨き続けるのを日課にしていた。そうしていると、不思議と心が落ち着いたのだ。
今日も何気なく、その曇った水晶玉の表面を布でキュッキュッと磨く。
ピキッ。
「お?」
突然、水晶玉の表面に入っていた微細なひび割れが光を放ったかと思うと、ボロボロと薄皮が剥がれ落ちるように表面の曇りが崩れ去った。
中から現れたのは、吸い込まれるような深い漆黒と、星屑のような銀色の煌めきを内包した、完璧な球体。
何事かと驚き、俺は慌てて右目の『
――ブォン。
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【名称】
【ランク】神話級
【状態】完全覚醒
【真価】情報隠蔽および通信ジャック。
世界中のあらゆる通信網・放送電波・ネットワークに強制介入し、暗号化された映像や音声を配信することが可能。発信元の座標や識別情報は概念レベルで隠蔽されるため、神仏であっても逆探知は
【備考】長年にわたる持ち主の丁寧な手入れと、地下空間の濃密な魔力環境によって、ただの石英からアーティファクトへと奇跡的に自己進化した。
「……マジかよ」
俺は呆然と呟いた。
ただの気休めで磨いていたガラクタが、俺のスキルの熟練度上昇と環境の変化によって、神話級のアーティファクトへと進化してしまったのだ。
しかも、その能力は今の俺たちが喉から手が出るほど欲しかったもの。なんとなく愛着があるし、すごくうれしい気分だ。
「凛」
「何よ、今忙しいの。偽アカウントの通報で手が離せ――」
「モニターの空いてる画面、ちょっと見とけ」
俺は水晶玉――『
ターゲットは、凛の目の前にあるマルチモニターの一つ。
ジジッ……ザザザッ!
突然、凛の操作していたモニターの一つがノイズに覆われ、真っ暗になった。
そして、画面の中央に、俺が即興でイメージした『Master_Eye』のロゴ――片眼鏡をかけたミステリアスなフクロウのマーク――が浮かび上がった。
『あー、マイクテスト、マイクテスト。本日は晴天なり』
モニターのスピーカーから、機械的に変調された俺の声が響き渡る。
「ひゃあっ!? な、何!? ハッキング!?」
凛が椅子から飛びのき、パニックになってケーブルを引き抜こうとする。
俺はクスクスと笑いながら、水晶玉への魔力供給を絶った。
モニターの映像はスッと元に戻る。
「……え? 透くん、今の……」
「これのおかげだよ。
俺は漆黒の水晶玉を凛に向けて放り投げた。
慌ててキャッチした凛は、その真価を理解した瞬間、全身をブルブルと震わせた。
「ぎゃ、逆探知不可能!? 概念レベルでの隠蔽!? 嘘でしょ……これ、世界の軍事機関やハッカー集団が数千億積んでも喉から手が出るほど欲しがる悪魔のアイテムじゃない!!」
「だろ? これなら、特定班だろうが国家権力だろうが、絶対に俺たちの居場所を割り出すことはできない」
俺がニヤリと笑うと、凛もまた、悪女のように口角を吊り上げた。
「……最高よ、透くん。これがあれば、Master_Eyeの絶対的な神格化が完了するわ」
凛は愛おしそうに水晶玉を頬ずりし、すぐにキーボードへと向かい直った。
通信手段と、絶対の匿名性。
これで、俺たちのビジネスは完全に死角をなくしたと言っていい。
「ふふっ……ふふふふっ! なんだかテンション上がってきたわ! 法人設立、新居の完成、そして最強の通信環境の獲得!」
凛がくるりと椅子を回し、弾むような声で提案してきた。
「ねえ透くん! 今夜、ぱーっとお祝いの食事会でもしましょうよ! もちろん、セイラ様もご招待して!」
「お、いいな。ずっと缶コーヒーと出前ばかりだったし。……でも、なんでお前がセイラさんを誘いたがるんだ? この間はビビってたじゃないか」
俺が素朴な疑問を口にすると、凛はチッチッ、と人差し指を振ってドヤ顔を見せた。
「社長、分かってないわね。ビジネスにおいて、日本のトップであるSランク探索者との強固なパイプはプライスレスよ! ここで美味しいご飯をご馳走して思いっきり媚びを売って……じゃなかった、親睦を深めておけば、今後の私たちの事業展開において最強の盾になってくれるじゃない! 守ってもらうんだし、仲良くしておかないと!」
「なるほど、腹黒い本音がダダ漏れだぞ」
「人聞きが悪いわね、『戦略的な関係構築』と言いなさい。まあ、セイラ様が来てくれるかは分からないけど……任せて! 私が最高のレストランの個室をセッティングしておくから!」
どこまでもブレないその強欲さとたくましさに呆れつつも、凛のあざといウインクに、俺も思わず笑みをこぼした。