Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第29話 スタンピード

 銀座の高級焼肉店から、俺たちは転がるようにして夜の街へと飛び出した。

 すでに街はパニック状態だった。けたたましいサイレンが鳴り響き、スマホからは絶え間なく緊急避難速報のアラームが鳴り続けている。

 新宿ダンジョンから溢れ出した魔物の大群は、凄まじいスピードで周辺の区画へとその被害を拡大させていた。

 

「透くん、こっちよ! 地下鉄の非常用通路からシェルターに直行するわ!」

 

 非常時のマニュアルを頭に叩き込んでいた(りん)の誘導で、俺たちは人の波を縫うようにして走り続けた。

 遠くの夜空が、魔法の爆炎や火災によって赤黒く染まっている。そこから響いてくるのは、おぞましい魔物の咆哮と、建物の崩壊する轟音だ。

 

「はぁっ、はぁっ……っ!」

 

 戦闘力皆無のFランクである俺は、肺が破けそうなほど息を切らしながら、ようやく『株式会社アンティーク・アイ』の総本部である特A級地下シェルターへと辿り着いた。

 

 ゴウンッ……ガコンッ!!

 

 分厚い鉛と魔力吸収合金でできた巨大な隔壁が完全に閉鎖され、地下数十メートルのオフィスに静寂が戻る。

 

「……ふぅ。とりあえず、私たちは安全ね」

 

 凛がヒールを脱ぎ捨て、乱れた息を整えながらメインモニターの電源を入れた。

 ギルドの緊急回線や、上空を飛ぶ報道ヘリの映像が、巨大な画面に次々と分割表示されていく。

 

「これは……ひどいな」

 

 モニターに映し出された新宿の街は、文字通りの地獄だった。

 駅前のロータリーは完全に火の海と化し、見慣れた高層ビル群が巨獣の突進によって飴細工のようにへし折られている。

 

『こちら第一防衛線! 突破されました! ダメだ、数が多すぎるッ!』

 

『第三小隊、全滅! 相手は中層のボス級です! 通常の物理攻撃が全く通りません!』

 

『深層の魔物まで混ざってるぞ!? なんだあの巨大な蜘蛛は! Aランクパーティを寄越してくれ!』

 

 スピーカーからは、現場で戦う探索者たちの悲痛な叫びがひっきりなしに流れてくる。

 ギルドが緊急招集した防衛部隊や、高ランクの探索者たちが最前線で命懸けの防衛線を張っているが、状況は絶望的だった。

 

 それもそのはずだ。

 溢れ出してきているのは、ゴブリンやオークといった上層の雑魚だけではない。ブラッド・オーガやデス・ナイト、さらには深層にしか生息しないはずの巨大なバケモノまでが、数万という単位でひしめき合っているのだ。

 

「そうだ! セイラさんは!?」

 

 俺が画面に目を凝らすと、一つのモニターに、圧倒的な光を放つ白銀の軌跡が映し出された。

 

「いたわ! 新宿通りの中央よ!」

 

 凛が画面を拡大する。

 そこには、たった一人で数百の魔物の群れを押し留めている神宮寺(じんぐうじ)セイラの姿があった。

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

 彼女が『聖剣エクスカリバー』を一閃するたびに、絶対切断の光刃が十数体の魔物をまとめて両断する。

 魔物たちが放つ業火や毒液の魔法は、左腕に構えた『アイギスの盾』が100%の確率で反射し、敵の群れへと致命的なカウンターを叩き込んでいた。

 

「すごい……! 完全に一人で戦局を支えてるわね」

 

 凛が歓声を上げるが、俺の表情は晴れなかった。

 確かにセイラは圧倒的だ。俺が修復した神話級の武器防具を完全に使いこなし、傷一つ負っていない。チョーカーの効果により、継戦も問題なくこなせるだろう。

 だが、問題は()()()()の探索者たちだった。

 

 ガァァァァンッ!!

 

 画面の端で、Aランク探索者の大剣が、巨大な甲虫型モンスターの装甲に弾かれ、真っ二つにへし折れるのが見えた。

 

「くそっ! 俺のミスリル・ブレードが!?」

 

 武器を失った探索者が、魔物の大顎に吹き飛ばされる。

 

 彼らも決して弱くはない。だが、相手は本来なら万全の準備と戦略を練って挑むべき深層のバケモノたちだ。それを相手に乱戦を強いられれば、普通の武器など数回の打ち合いで刃こぼれし、へし折れてしまう。

 

「武器の耐久値が限界なんだ……。魔力密度の高すぎる深層モンスターの表皮を斬り続ければ、いくらいい武器でも折れてしまう」

 

 俺が呻くように言うと、画面の中のセイラが、崩れかけた防衛線のカバーに入るために大きく移動した。

 

「逃げて! ここは私がッ!」

 

 怪我をした探索者を庇いながら、セイラが剣を振るう。

 だが、彼女がカバーに入ったことで、本来彼女が抑えていた別のルートから、魔物の大群が雪崩れ込もうとしていた。

 

「ダメよ……! いくらセイラ様が最強でも、一人で全部のルートは守りきれない!」

 

 凛がギリッと唇を噛む。

 前衛の武器が次々と破壊され、魔法使いの魔力も底を尽きかけている。防衛線が完全に崩壊するのは、もはや時間の問題だった。

 この防衛線が突破されれば、魔物は住宅街へと流れ込み、東京は文字通り壊滅する。

 

「……凛」

 

 俺は立ち上がり、静かな声で凛の名を呼んだ。

 

「な、何よ。もっと遠くに逃げる? 東京を出れば少なくとも──」

 

「違う。今すぐ、アイテムボックスにしまった()()のリストを出してくれ」

 

「え? 在庫って、明日からのVIPオークションに出品する予定の神話級とか伝説級の武器のこと? リストなら、あ、あるけど……」

 

 凛は戸惑いながらも、手元のタブレットを操作してリストを表示させた。

 そこには、俺がこの数日間で修復した、世界中の国家やギルドが喉から手が出るほど欲しがる『最高峰の武器防具』がズラリと並んでいる。

 総額にして、数千億円は下らないリストだ。

 

「まだ出品してないよな? これの出品予定、一旦全部取り消しで行くぞ。今すぐ、あの戦場にいる探索者たちの座標を可能な限り割り出してくれ。ざっくりでいいから」

 

「……は!? まさか透くん、これ全部戦場に転送するつもりなの!?」

 

「ああ。よくわかったな」

 

 凛がタブレットを取り落としそうになり、目を丸くして俺を見た。

 

「と、透くん、本気で言ってるの!? これ、全部売れば数千億よ!? それに、あんな戦場で使わせたら、仮に無事でも所有権がうやむやになって、回収なんて不可能に近いわよ!?」

 

「そりゃ金は惜しいけど……今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。一人でも多くの命を守るために出来ることをやりたい。一応、回収する算段が全くないわけじゃないしな」

 

 俺は左手にはめた『亜空間の指輪(アイテムボックス)』を撫でた。

 この指輪のシステムには、俺が数日前に一日がかりで洗浄した巨大な石碑――『万物転送の神碑(ヘルメス・リンク)』が同期されている。

 

 それを使って俺の手持ちの武器を戦場に送り、状況をひっくり返す。それが俺にできる最大限だ。

 

「それに、俺はMaster_Eye《マスター・アイ》だぞ。俺の直した武器がなくて、探索者たちが困ってるんだ。……一応商人の端くれとして、この()()()()()に応えないわけにはいかないだろ? 」

 

 俺が少しだけ口角を上げて笑うと。

 凛は数秒だけ呆然とした後、フッと、彼女らしくない呆れたような、けれどどこか誇らしげな笑みを浮かべた。

 

「はぁ……バカ社長。利益度外視の慈善事業なんて、専務としては大反対だけど」

 

 彼女は落ちかけたタブレットを拾い上げ、凄まじいタイピング速度でキーボードを叩き始めた。

 

「防衛線にいる高ランク探索者のスマホのGPS情報を、ギルドのネットワークから強制取得。転送先の座標リストを作成するわ。……五分、いえ三分ちょうだい」

 

「わかった。頼む」

 

 俺は段ボール箱の中から、黒く輝く水晶玉――『無名者の幻晶(ファントム・クリスタル)』を取り出した。

 神仏でさえ逆探知不可能な、絶対の匿名性を誇る通信ジャック・アーティファクト。

 

「仕事の時間だ。……東京を救うぞ、凛」

 

「ええ。ド派手にやるわよ、E()y()e()()!」

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