Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第30話 介入

「――全座標、抽出完了ッ! 現在、ギルドの防衛線に参加して生存しているBランク以上の探索者、計三百十二名の現在位置をリスト化。転送システムに同期したわ!」

 

 巨大なマルチモニターの前で、凄まじいタイピングを終えた凛《りん》が叫ぶ。

 予定の三分すら切り、エンターキーをターンッ! と弾くその顔には、一滴の汗が伝っていた。極度の緊張とプレッシャーの中での、完璧な仕事ぶりだった。

 

「上出来だ。お前を味方にして正解だったよ」

 

「ふん、当たり前でしょ。終わったら特別ボーナス弾んでもらうからね!」

 

 凛の軽口に短く応じ、俺は右目の『真贋鑑定(しんがんかんてい)』をフル稼働させた。

 手に持った漆黒の水晶玉――『無名者の幻晶(ファントム・クリスタル)』に、自身のありったけの魔力を流し込む。

 

 ドクンッ、と。

 水晶玉が本物の心臓のように脈打ち、星屑のような銀色の光が地下要塞の広大な空間に溢れ出す。

 概念レベルでの情報隠蔽と、全世界の通信網への強制介入。偶然の産物とはいえ、神話級アーティファクトの異常な力が、新宿を中心としたあらゆるネットワークに牙を剥いた。

 

 ◇

 

 同じ頃。新宿駅前、第一防衛線。

 アスファルトが溶け、周囲のビルが崩落して火の海と化した戦場で、探索者たちは完全なる絶望の淵に立たされていた。

 

「クソッ! ポーションはまだか!? 盾役の魔力がもう限界だ!」

 

「ダメです、後衛のMPも完全に底を突きました! これ以上は……ッ!」

 

 最前線で巨大なタワーシールドを構えていたAランク探索者の男は、口から血を吐きながら膝をついた。

 彼の目の前には、筋骨隆々の四つの目を持つバケモノ――深層クラスの『キング・オーガ』が、巨大な黒鋼の棍棒を振り上げている。

 

 これまで何百という魔物の攻撃を耐え抜いてきた彼の大盾は、すでに亀裂が走り、限界を越えていた。

 回復魔法は飛んでこない。逃げる体力も残っていない。

 後ろには、逃げ遅れた一般市民が詰め込まれた地下シェルターがある。ここで自分が倒れれば、全てが終わる。

 

「……ここまで、か。すまん、お前ら」

 

 男が死を覚悟し、ギュッと目を閉じた、その時だった。

 

 ジジッ……ザザザザザッ!!

 

 戦場にいる全探索者のスマートフォンから。

 上空を旋回しながら生中継を続ける報道ヘリのスピーカーから。

 そして、新宿の夜空を照らす全ての巨大屋外ビジョンから。

 一斉に、耳をつんざくようなけたたましいノイズが鳴り響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

「通信が……ギルドの防衛用無線が乗っ取られてる!?」

 

 ビジョンに映し出されていたアナウンサーの悲痛な顔がプツリと切れ、真っ黒な背景へと切り替わる。

 そしてその中央に、一つのロゴマークが静かに浮かび上がった。

 

 ――片眼鏡をかけた、ミステリアスなフクロウの紋章。

 

 それは、ここ数日で日本中の探索者が目にし、世界中のメディアがこぞって騒ぎ立てた、正体不明の職人のシンボルだった。

 

『――聞こえていますか、日本の探索者の皆さん。私はMaster_Eyeと申します』

 

 ノイズ混じりの、機械的に変調された低い声が、新宿の街全体に木霊する。

 その声には、不思議と戦場の喧騒を黙らせるような、奇妙な威圧感が宿っていた。迫り来る魔物たちすらも、その異様な気配に警戒して動きを止めたほどだ。

 

「なんだこのマーク!? いきなり、何が起こっている!?」

 

「なんでこんな時に通信ジャックなんか……!」

 

 混乱し、呆然とビジョンを見上げる探索者たちを尻目に、スピーカーからの声は淡々と続く。

 

『貴方たちはよく戦っている。まずは敬意を表しましょう。しかし、手持ちの武器だけで深層クラスの魔物の大群を相手にするのは、少々分が悪いようです』

 

 その言葉は、合成音声特有の冷たさではなく、確かな矜持のような熱を帯びて戦場に響き渡った。

 

『私は商売人の端くれです。ゆえに、潜在的な顧客である探索者たちが困窮しているこの状況を、ただ黙って見過ごすわけにはいかない』

 

 絶望のどん底にいた探索者たちは、その言葉の意味を理解できず息を呑む。

 だが、正体不明の『神の目』は、世界をひっくり返すトリガーとなる言葉を紡いだ。

 

『これより、防衛に参加している全探索者に対し、私の()()()()()()を提供します。存分に使い潰してください。それでは――全座標へ転送!!』

 

 シュァァァァァァァァンッ!!!

 

 その直後。

 絶望の闇に包まれていた新宿の戦場に、文字通りの『光の雨』が降り注いだ。

 

 最前線で砕けかけの大盾を握りしめ、死を覚悟していたAランク探索者の目の前。

 空間がプラチナ色の粒子と共に歪んだかと思うと、そこに一面の城壁を思わせる、荘厳な白銀の大盾がズンッと音を立ててアスファルトに突き刺さった。

 

「な、なんだこれは……ッ!?」

 

 彼が無意識にその大盾の裏のグリップを握った瞬間、脳内に直接システムの声が響き渡る。

 

「この盾、まさか伝説級か……!?」

 

 驚愕する彼に向かって、キング・オーガの黒鋼の棍棒が容赦なく振り下ろされた。

 だが。

 

 ガキィィィィンッ!!!

 

「……え?」

 

 さっきまで防ぐだけで骨が軋んでいた暴力的な一撃が、微動だにせず、いともたやすく弾き返されたのだ。それどころか、グリップから流れ込んでくる無尽蔵の魔力が、彼の疲労しきった肉体を一瞬で全快させていく。

 

「ははっ……なんだこれ。相手の攻撃が、まるで子供のオモチャみたいに軽いぞ!」

 

 奇跡は彼だけではない。

 魔力が尽きかけて絶望していた後衛の魔法使いの足元には、燃え盛る炎を纏った宝杖が。

 剣が折れて立ち尽くしていた剣士の手元には、紫電を纏うミスリルの魔剣が。

 傷つき倒れていたヒーラーの目の前には、世界樹の葉を濃縮した最上級のエリクサーが。

 

 防衛線に参加している三百十二名の探索者たちの足元に、一人残らず、彼らの適性や職業に完璧に合わせた神話級・伝説級のアイテムが光と共に転送されたのだ。

 

「す、すげえ……! なんだこの杖! 握っただけで魔力が無限に溢れてくるぞ!」

 

「この剣、ただの鉄の重さじゃねえ! 魔力が勝手に刃を形作ってやがる!」

 

「Eye様だ……! 神の目が、俺たちに最強の武器をくれたんだ!!」

 

 総額にして約数千億円。

 世界中の探索者が欲しがってやまない最高峰の武器防具の数々が、惜しげもなく戦場にばら撒かれた。

 たった数秒前まで死に怯え、絶望に沈んでいた探索者たちの目に、圧倒的な力という名の希望の光が宿る。

 

 新宿通りの中央。

 魔物の死骸の山の上で孤軍奮闘していたセイラも、街頭ビジョンに映るフクロウのマークを見上げ、クスリと笑った。

 

「やるじゃん、透さん。最高にカッコいいじゃない。……さあて、ここからは私の役目だね。こういうこと、あんまり得意じゃないんだけど……」

 

 そして、彼女は一息吸い込んで『聖剣エクスカリバー』を天高く掲げた。

 圧倒的な魔力が白銀の光柱となって、暗雲立ち込める夜空を真っ直ぐに貫く。

 それが、最強の剣聖による反撃の合図だった。

 

「――さあ。反撃の時間だよ、探索者のみんな! Master_Eyeがくれたこの武器の真価、存分に見せつけてやろうッ!!」

 

「「「ウオォォォォォォォォォォォッ!!!!」」」

 

 セイラの力強い鼓舞に呼応するように、新宿の街に探索者たちの怒号にも似た歓声が轟く。

 

「いくぞォォッ!」

 

 最前線にいた盾役が、大盾を構えて逆に突進する。先ほどまで手も足も出なかったキング・オーガを、盾の圧力だけで吹き飛ばした。

 直後、魔力無限の杖を手にした魔法使いたちが一斉に極大魔法を放ち、空を覆うほどの巨大な炎の嵐が、魔物の大群を丸ごと消し炭に変える。

 紫電の魔剣を手にした剣士が駆け抜け、深層の硬い甲殻を持つ魔物たちを豆腐のように切り刻んでいく。

 

 さっきまでの防戦一方が嘘のような、圧倒的な蹂躙劇。

 たった一人の職人が提供した支援によって、崩壊寸前だった防衛線は、完全に魔物の群れを押し返し始めていた。

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