Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第32話 回収

「ふぅ……終わったか」

 

 地下オフィスで、俺は深く安堵の息を吐き、ソファに背中を預けた。

 水晶玉『無名者の幻晶(ファントム・クリスタル)』への魔力供給と、連続する事態への緊張感で、俺の体力と精神力も限界に近い。

 

「お疲れ様、透くん。本当に信じられない光景だったわ。……で、あの大量の武器、どうやって回収するの? さっき言ってたけど、考えあるんでしょ?」

 

 凛が、モニターに映る「大喜びで伝説の剣を撫で回している剣士」を指差しながら、真面目なトーンで聞いてきた。

 

「回収? いや、万物転送の神碑(ヘルメス・リンク)は送るだけの一方通行だから、こっちから引き戻す機能なんてないぞ」

 

「……は?」

 

 凛の動きが、ピエロのオモチャのようにピタリと止まった。

 そして、数秒の沈黙の後、地下空間が震えるほどの悲鳴を上げた。

 

「はああああああっ!? じゃああの数千億の在庫、マジのマジでただのばら撒きだったの!? あんたバカじゃないの!?  大混乱に乗じて持ち逃げされ放題じゃないのよ!! ああもうっ! いったいいくらの損失に──」

 

「落ち着け。直接回収できないだけで、考えがないとは言ってない」

 

「へ?」

 

 俺はギャーギャーと騒ぎ立てる凛を片手で制し、最後の力を振り絞って再び水晶玉に魔力を通した。

 新宿の街の巨大ビジョンと、探索者たちのスマホに、再び『Master_Eye』のフクロウのロゴが浮かび上がる。

 また彼女の力を借りることになってしまうが……まぁ、また今度お返しをしよう。

 彼女の力を目の当たりにした今なら、逃げようとする者は現れないはずだ。

 

 

『――お疲れさまでした皆さん、大変見事な戦いぶりでした。あなた方の勇気と力に、最大の賛辞を送りましょう』

 

 俺の通信ジャックによる声が響くと、戦場の歓声がピタリと止み、三百人の探索者たちが一斉にビジョンを見上げた。

 

『お約束通り、わが社の在庫の提供は状況の打開に役立ったようで何よりです。……さて。脅威は去ったわけですが、あなた方が手にしているのは、あくまで私からの()()()()()()()です』

 

「えっ……? あ、Eye様、これ貰えるわけじゃ……」

 

「待って! 一生の相棒にするって今決めたばっか――」

 

 戦場にいた探索者たちが、慌てて手元の武器を抱え込むようにした。

 当然だ。あんな規格外のチート武器、一度使ってしまえば手放したくなくなるに決まっている。

 

『激しい戦闘で中古品になってしまいましたが、それは自体は構いません。速やかに現場にいる私の専属顧客……神宮寺セイラ様へと返却していただきたいのです』

 

 俺はモニター越しに、未練たらたらの探索者たちを見下ろしながら、あえて少しだけトーンを落として続けた。

 

『もちろん、この混乱に乗じて持ち逃げする者がいれば、それは仕方のない損失として諦めましょう。所詮は中古品ですから、元の額での売買はできませんから。……しかし──』

 

 ビジョンの映像が切り替わり、報道ヘリのカメラが捉えた『一人の少女』が大写しになる。

 

『覚えていますでしょうか? あの日の報道を。私の所有物を不当に奪い、私の信用を反故にするということは……現場にいる()()()()()()()ということになります。あなた方の賢明な判断を期待します』

 

 俺の意図を汲み取ってくれたのだろう。

 画面の中で、アビス・ヒドラの返り血一つすら浴びていないセイラが、夜風にプラチナブロンドの髪を揺らしながら、カメラに向かってニコッと満面の笑みを向けた。

 そして、まだ強烈な魔力の残滓を放つ『聖剣エクスカリバー』を、肩の上でポンポンと軽く叩いてみせたのだ。

 

「ヒッ……!」

 

「ば、馬鹿野郎! 並べ! 早く返却の列を作れぇっ!」

 

「セイラ様に斬られる!! Eye様、すぐお返ししますからっ!」

 

 たった数秒前まで「持ち逃げワンチャン」と考えていた探索者たちが、蜘蛛の子を散らすような勢いでセイラの前に整列し、最敬礼で武器を返却し始めた。

 Sランク探索者を敵に回せば、ギルドはおろか日本中どこにも居場所はなくなる。それを彼らが一番よく分かっていた。

 

 

「……なるほど」

 

 モニターを見ていた凛が、呆れたような、それでいて感心したような息を吐いた。

 

「最強のSランクを、借金取りに使ったわけね。あの強さを見た後なら確かに、誰も持ち逃げなんてできないわ」

 

「まあな。これでも、どさくさに紛れて一本や二本持ち逃げされたら、それは割り切るさ。頑張って戦ってくれたのも事実だし」

 

 実際に武器を手に取って場を収めたのは戦場の探索者たちだ。そこに関しては報われるべきだとは思う。

 

「……それに、一度あの圧倒的な()を味わった連中だ。次のオークションじゃ、借金してでも絶対に落札しようと必死になるかもしれないぞ?」

 

「……あははっ! 違いないわ! 試供品《フリートライアル》でプロモーションをやってのけたのね! 偶々でしょうけど!」

 

 凛が腹を抱えて笑い出す。

 俺もつられて笑いながら、疲れ切った体を休めるために、そっと目を閉じた。

 

 こうして、東京を滅亡の危機に陥れた新宿ダンジョンの大規模スタンピードは、幕を下ろしたのだった。

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