Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~   作:えだのあ

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第33話 逆恨み

Side:剛田 浩司(ごうだ こうじ)

 

「……俺は悪くねえ。俺のせいじゃねえよ……ッ」

 

 薄暗い四畳半のボロアパート。

 俺は、ガタガタと震えながら、壁の隅で頭を抱えていた。

 部屋の床には、俺が壁に叩きつけて粉砕した『赤黒い結晶』の残骸が散らばっている。今はもうあの不気味な光は失われ、ただの灰色の石屑に成り果てていた。

 

 つけっぱなしのテレビからは、昨夜の新宿スタンピードが完全鎮圧されたという特番が、耳障りなほど繰り返し流されている。

 

『――壊滅の危機に瀕していた東京を救ったのは、彗星の如く現れた正体不明の職人、Master_Eye氏の提供した武器でした! ネット上では彼を神と崇める声が殺到しており……』

 

「うるせえっ!! どいつもこいつもマスターアイ、マスターアイって……ッ!」

 

 俺は空になったロング缶をテレビに向かって投げつけた。

 画面の中では、あの忌々しいフクロウのロゴマークと、歓喜に沸く探索者たちの姿が映し出されている。

 

 なんで俺がこんな惨めな思いをしているのに、どこの馬の骨とも分からない奴が英雄扱いされてるんだ。

 だいたい、今回の騒動だって俺のせいじゃない。あの石を「価値がない」と突っ返したギルドのヤブ鑑定士が悪いんだ。あいつがちゃんと億単位の値段をつけて買い取っていれば、俺はあんな石を壁に投げつけたりしなかった。

 そう、俺は被害者だ。ギルドの無能な体制と、運の悪さが重なっただけの不運な被害者なんだ。

 

 ピンポーン。

 

「……ッ!」

 

 突然、玄関のチャイムが鳴り響き、俺の心臓は跳ね上がった。

 

『剛田浩司さん、いらっしゃいますか。ダンジョンギルド調査部です』

 

 ドアの向こうから、低く硬い声が響く。

 ギルドの調査部だと!?

 

『……応答がありませんね。剛田さん、中にいるのは分かっています。昨夜のスタンピード発生と同時刻、このアパートのあなたの部屋から、中層の「封印の要石」と完全に一致する特殊な魔力波形が検知されました。魔物たちは要石の魔力に引き寄せられた可能性があります』

 

 俺は呼吸を止め、両手で自分の口を塞いだ。

 全身から嫌な汗が滝のように噴き出す。

 

『そこで、昨夜のスタンピード発生に関して、お話をお聞かせ願いたいので開けていただけませんか? ……開けないのであれば、警察に連絡し、強制捜査の令状を取って踏み込みますよ』

 

 バレてる。完全に足がついてやがる。

 捕まれば終わりだ。探索者免許の剥奪どころか、一生ブタ箱行き、最悪の場合は死刑もあり得る。

 

(逃げなきゃ……逃げるしかねえ!)

 

 俺は音を立てないように這いずりながら、床に落ちていたスマホを手に取った。

 誰か助けてくれる奴はいないか。弁護士? いや、金がない。逃亡資金だけでもどうにかできないか。

 

 パニックに陥った頭でスマホを震える指で操作していると、ふと、探索者専用のフリマアプリ『D・マーケット』の画面が誤タップで開いた。

 

 表示されたのは、俺のアカウントの『出品・取引履歴』のページ。

 一番上に残っているのは、数日前に俺が「ただのクソ重い黒い石」として出品し、一万円で即決されたアイテムの取引完了通知だった。

 

「……ん?」

 

 逃げる算段をしなければならないというのに、俺の目は、その取引画面に表示された()()()()()()に釘付けになった。

 

 ====================

【出品名】真っ黒な石?(重いです)ノークレームで

【落札価格】10,000円

【購入者】Master_Eye

 

「……は?」

 

 マスター……アイ?

 俺は自分の目を疑い、何度も画面を擦った。

 購入者のアイコンは、テレビで嫌というほど見せられた、あの片眼鏡のフクロウのマーク。

 間違いない。あの日は大した確認もせず、適当に取引を済ませて舞い上がっていたが、俺の出したゴミみたいな石を一万円で買った物好きの正体は、あの英雄気取りのMaster_Eyeだったのだ。

 

 その瞬間。

 俺の脳内で、バラバラだったパズルが、一つの答えに向かってピタリとハマっていく音がした。

 

(待てよ……? あいつは昨日の夜、戦場に何百個もの巨大な武器を一瞬で『転送』してきやがった。そんなチートみたいなこと、普通の魔法じゃ絶対に不可能だ)

 

 あいつがそんな規格外の力を行使できたのは、もしかして。

 

(俺が売った、あの『黒い石』の力なんじゃないのか……!?)

 

 そうだ、絶対にそうだ!

 あの石はただのゴミじゃなかったんだ。あれはきっと、空間を操るとんでもない神話級のアーティファクトだったに違いない。

 俺は一万円という端金で、数千億……いや、兆単位の価値があるかもしれない宝を騙し取られたのだ!

 

「あの野郎ォォ……ッ! 俺を騙しやがったな!!」

 

 ギリッ! と奥歯が砕けそうなほど噛み締める。

 怒りで視界が真っ赤に染まった。

 

 Master_Eyeの野郎は、俺のアーティファクトを使って武器をばら撒き、スタンピードを解決して「東京の救世主」として持て囃されている。

 だが、その力の源は元々()()()()()だったんだ。

 俺があの石をダンジョンで見つけ、あいつに売ってやったからこそ、東京は救われた。

 つまり――。

 

「マスターアイが挙げた手柄は、全部……俺のモンじゃねえか」

 

 俺の口から、歓喜にも似た歪んだ笑みが漏れた。

 

 そうだ。俺は世界を滅ぼしかけた大罪人なんかじゃない。

 俺があの石を提供したから、東京は救われた。俺こそが、間接的にこの国を救った()()()()なのだ!

 それなのに、あの卑怯な泥棒職人が俺から全ての手柄と名声を奪い取った。あいつの富も、名誉も、本来なら全部この俺、剛田浩司が手にするべきものだったんだ!

 

『剛田さん! いますね!? ドアを開けなさい!』

 

 玄関のドアノブがガチャガチャと乱暴に回される。

 だが、今の俺にもう恐怖はなかった。

 こんなボロアパートで、無能なギルドの連中に捕まっている場合じゃない。

 

(俺は英雄なんだ。俺は俺の正当な権利と、奪われた栄光を取り戻さなきゃならねえ……!)

 

 俺は財布だけをポケットにねじ込むと、音を立てずに部屋の窓を開けた。

 ギルドの連中がドアをぶち破って入ってくる直前、俺は窓枠に足をかけ、裏路地のゴミ捨て場に向かって飛び降りた。

 

 不思議ともう恐怖はない。あるのはMaster_Eyeへの怒りと英雄になれるという高揚感。

 俺から全てを奪ったMaster_Eyeを見つけ出し、必ず代償を払わせてやる。

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