Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
空が白み始め、長い夜が明けようとしていた頃。
地下要塞のオフィスでモニターを監視していた俺のスマホが、ブルッと震えた。連絡先アプリ『D・チャット』の通知だ。
『透さーん! 言われた通り、探索者たちから武器と防具、全部回収し終わったよ!』
『でも私の空間収納スキルじゃ、さすがに全部は入りきらないよー! 重いし嵩張るから、早く取りに来て!(泣き顔スタンプ)』
あの凄まじい防衛戦の後でも全くテンションの変わらないSランクに苦笑しつつ、俺は『すぐに向かいます』と返信した。
「凛、俺はちょっと外に出てくる。セイラさんが回収してくれた貸与品を引き取らないといけないからな」
「了解。こっちはギルドからの問い合わせ対応と、次のオークションの準備で手が離せないから、気を付けて行ってきなさいよ。社長が直々にパシリなんてご苦労なことね」
「自分の在庫管理は商人の基本だからな」
俺は専用のロッカールームに向かい、以前の会見の時と同じ『Master_Eyeの代理人』の衣装に着替えた。
漆黒のタクティカルスーツに、顔をすっぽりと覆うミリタリー仕様のガスマスク。首元には音声変調機(ボイスチェンジャー)をセットする。
正体を隠しつつ、現場でセイラと接触しても不自然ではない格好だ。
◇
指定されたのは、新宿ダンジョンから少し離れた、避難指示で完全に無人となったオフィス街の裏路地だった。
薄暗い路地に足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。
神話級・伝説級の剣、盾、杖、鎧。それらが文字通り『山』のように無造作に積み上げられており、その頂上に、プラチナブロンドの髪を揺らすセイラが足をぶらぶらととさせながら、ちょこんと座っていたのだ。
「お待たせしました、セイラさん」
ボイスチェンジャー越しの低い機械音で声をかけると、セイラはパッと顔を輝かせて、ピョンッと軽やかに飛び降りてきた。
「あ、透さ……じゃなかった、代理人さん! 遅いよー!」
周囲に人がいないとはいえ、俺の正体を隠す体裁をしっかりと守ってくれる。さすがはプロだ。
だが、セイラはすぐに頬を膨らませて、ツンと不満げな顔を作った。
「もうっ! 本当に大変だったんだからね! みんな、私を見る目が完全に化け物を見る目だったんだよ!?」
セイラは腰に手を当てて、まくしたてるように言う。
「私、一応この国じゃアイドル的な人気もあったはずなのにさぁ。『ひぃっ、命だけはお助けをぉ!』って泣きながら伝説の剣を差し出してくるおじさんとかいて、結構凹んだんだからね! 都合よく悪者に使われた感じがして、ちょっと遺憾です!」
プクッと頬を膨らませる日本最強のSランク探索者。
ヒドラをぶった切った強者とは思えない、可愛らしい反応に、俺はガスマスクの下で思わず苦笑してしまった。
「すみません、一番確実で手っ取り早い抑止力が貴女だったもので……あのお祝いの続きとして、今度、寿司でも奢りますよ。もちろん、銀座の回らないやつです」
「本当!? やったぁ! じゃあ大トロとウニ、限界まで食べさせてもらうからね!」
自分の金でいくらでも食えるだろうに……食べ物の約束をした途端、セイラの機嫌は一瞬で直った。
まあ、そもそもガチギレしてたわけじゃないんだろうけど、アイテムを要求してこなかったのは意外だったけど助かる。
「ええ、いくらでも。さて、日が完全に昇る前に片付けてしまいましょう」
俺は左手にはめた『
『――
シュンッ、という音と共に、指輪の宝石部分がプラチナ色の光を放つ。
目の前に積み上げられていた三百人分の神話級アイテムの山が、まるでブラックホールに吸い込まれるように、次々と亜空間のゲートへと飲み込まれていった。
ものの十秒も経たないうちに、広場は元通りの何もない無機質なコンクリートの空間へと戻る。
「おおっ! どうやって武器を撒いたのか分からなかったんだけど……すごいねぇ、それ。私の空間収納スキルでも、容量的にその山は絶対に無理だもん」
「ちょっとした手品ですよ。これで貸与品の回収は完了です。本当に、今回は助かりました」
「ううん、私の方こそ楽しかったよ! 久々に大物も斬れたしね。それじゃあ、お寿司の約束、絶対に忘れないでよー?」
「ええ、近いうちに必ず」
俺がガスマスク越しに頷き、踵を返そうとした、その時だった。
「……見つけたぞ!!」
静まり返った早朝の裏路地に、場違いなほど荒々しく、そして酷く聞き覚えのある怒声が響き渡った。
ビクッとして振り返ると、路地の入り口に一人の男が立っていた。
血走った目。ボロボロの衣服。ひどく荒れた息を吐きながら、幽鬼のような足取りでこちらに近づいてくる男。
「お前……そのふざけたガスマスク……! テレビで見たぞ! 『Master_Eye』の代理人だな!?」
その顔を見た瞬間、俺はガスマスクの下で思わず息を呑んだ。
剛田浩司。
俺を無能と罵り、パーティから追放した張本人。
それが、なぜか俺たちの前に姿を現したのだ。
「……何の用だ。ここは現在、立ち入りは制限されているはずだが」
俺はボイスチェンジャー越しの低い声で、あくまでMaster_Eyeの代理人として冷徹に応対した。隣に立つセイラも、突然現れた不審者に警戒し、スッと目を細めている。
だが、興奮した様子の剛田はそんな威圧感にも気づかず、狂気に満ちた笑みを浮かべて俺を指差した。
「とぼけんじゃねえぞ!! お前らが俺の出したあの『黒い石』を使って、武器を転送したんだろ!? あの石は俺のもんだ! 俺がダンジョンから持ち帰ってやったんだ! だから、お前らがスタンピードを止めて得た名声も、金も、全部俺のおかげなんだよ!!」
剛田は口から唾を飛ばし、完全に常軌を逸した妄想を喚き散らす。
「俺は英雄だ! 東京を救ったのは俺なんだよ! 俺の手柄と栄光を返しやがれ泥棒野郎ォォッ!!」
あまりにも見当違いで、身勝手で、醜悪な主張に怒りを通り越して、ただ困惑するばかりだった。