Fランク「鑑定士」の俺、ゴミ捨て場の「錆びた剣」が聖剣だと気づいてネットオークションに出品したら、宝くじ並みの値段で落札された件 ~ボロアパートから始まる、鑑定スキルでの現代成り上がりライフ~ 作:えだのあ
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東京都心、超高級タワーマンションの最上階。
広大なリビングのソファで、一人の少女がスマートフォンを睨みつけていた。
濡れたプラチナブロンドの髪から、雫が滴り落ちる。
シャワーを浴びたばかりの少女――
「みーつけた」
その瞳は、ダンジョンの深層でボスモンスターと対峙する時よりも鋭い。
彼女の視線の先にあるのは、ネットオークション『D・マーケット』の画面。
映し出されているのは、ボロい畳の上に置かれた一本の剣だ。
商品名:【真作】聖剣エクスカリバー(リペア済み・封印解除率15%)
出品者:Master_Eye
普通なら、鼻で笑ってスルーするようなふざけた出品だ。
畳の生活感も酷いし、説明文も胡散臭い。
だが、セイラの持つユニークスキル『
(間違いない。これは……本物)
写真から滲み出る、圧倒的な魔力の残滓。
刀身に刻まれたルーン文字の配列は、現代の魔導技術では再現不可能な古代の術式だ。
セイラは先日、愛用の魔剣を折られ、新しい相棒を探していた。
だが、ギルドが用意する「Sランク武器」はどれも帯に短し襷に長し。彼女の剣技に耐えられる強度がなかった。
そんな時に現れた、この出品。
「ふふ、面白い冗談だね」
セイラは不敵に笑うと、入札ボタンを押した。
入力した金額は、1億円。
一般人からすれば宝くじが大当たりでもしない限りは軽く払うことのできない金額、Sランク探索者である彼女にとっては、クエスト一回分の報酬に過ぎない。
これで冷やかしは消えるはずだ。
《入札を受け付けました》
《現在価格:100,000,000円 最高入札者:あなたです》
「さて、これで落札できれば儲けものだけれど――」
そう呟いて、グラスの水を一口飲もうとした、その時だった。
ピロン♪
《高値更新されました》
「……さすがに早くない?」
セイラの手が止まる。
画面を見ると、数字が書き換わっていた。
《現在価格:120,000,000円》
《入札者:Gold_King(海外バイヤー)》
「ごーるどきんぐ……本物ならかなりの大物。私も覚悟決めないと」
セイラの碧眼がすっと細められる。
海外の富豪か、転売目的の業者か。
いずれにせよ、やっと巡り合えた国宝級アイテムを海外に流すわけにはいかない。
彼女の指が、高速で画面を叩く。
「2億」
ピロン♪
即座に通知が返ってくる。
《高値更新:250,000,000円》
「上等! 3億!」
ピロン♪
《高値更新:350,000,000円》
カチン、と何かが切れる音がした。
セイラは無意識に微弱なオーラを放ち、スマホの画面にヒビが入りそうになるのを堪える。
「うんうん、落ち着こう。お金で解決できるなら安いものだよ」
彼女はSランク探索者。
その総資産は、国家予算にさえ匹敵する。
たかが数億の端金で、引くわけがない。
「5億!!」
彼女は叩きつけるように入札ボタンを押した。
◇ ◇ ◇
『ひまわり荘』の一室で、俺は、布団の上で痙攣していた。
「あ、あわ、あわわわ……」
スマホの通知音が、もはや「ビーーーッ!」という警告音のように鳴り続けている。
画面の数字を見るのが怖い。
でも、見ずにはいられない。
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【現在価格】
500,000,000円
【入札履歴】
19:02 ■■■■(Sランク):300,000,000円
19:02 Oil_Baron_777:350,000,000円
19:03 ■■■■(Sランク):500,000,000円
「ご、ごおく……?」
俺の年収(バイト代)が200万だとして、えっと、250年分?
もうわからん。計算できない。脳が処理落ちしている。
掲示板やSNSも、完全にパニック状態だった。
『5億wwwww』
『おい、日本のSランクがガチで取りに来てるぞ』
『これセイラ様じゃね? 剣探してるってニュースで言ってたし』
『海外の石油王も参戦してる件』
『出品者、今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』
「どんな気持ちって……吐きそうだよ!」
俺は叫んだ。
心臓が早鐘を打っている。
最初は「家賃が払えればいい」くらいの気持ちだった。15億なんて流石に信じちゃいなかった。
それが、いまや世界中の富豪たちが、俺の拾ったゴミ(元聖剣)を巡って殴り合いをしている。
怖い。
正直、めちゃくちゃ怖い。
こんな大金、俺の口座に入りきるのか?
税務署が来るんじゃないか?
というか、住所特定されて誘拐されるんじゃ……?
ネガティブな想像が爆走する俺を置き去りにして、価格はさらに加速する。
ピロン、ピロン、ピロン!!
《現在価格:700,000,000円》
《現在価格:850,000,000円》
《現在価格:1,000,000,000円》
「じゅ、十億……ッ!?」
大台に乗った。
その瞬間、通知音がピタリと止んだ。
「……お、終わった? さすがにこれ以上は……」
俺が安堵とも絶望ともつかない息を吐いた、その時。
アプリの画面全体が黄金に輝き、ファンファーレのような効果音が安アパートに響き渡った。
それは、伝説の始まりを告げる合図だった。
《入札制限解除《リミッターカット》》
《即決価格の入札が確認されました》
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【現在価格】
1,500,000,000円
入札者:■■■■(Sランク)
コメント:「これで即決して。私の剣、今すぐ発送!」
コメント付きの入札。
俺の鑑定眼が告げていた「推定価格」と、完全に一致する金額。
「……マジかよ」
俺は震える指で、画面をスクロールした。
これ以上の入札はない。
他の入札者たちが、あまりの金額に戦意喪失したのが画面越しに伝わってくる。
15億円。
一生遊んで暮らせる金。
俺を追放した元パーティが、おそらく一生かかっても稼げない金。
俺は震える指で『早期終了』のボタンを押――そうとして、ふと手を止めた。
待てよ。
これを無視すれば、もっと──
「……いや欲張りすぎるのは悪手だ。ここまで伸びたのが奇跡みたいなもんだし」
俺は深呼吸をして、震えを抑え込む。
そして、人生を変えるボタンを、力強くタップした。
《オークションを終了しますか?》
《 YES / NO 》
「いえす!!」
カチッ。
《落札おめでとうございます!》
《落札額:¥1,500,000,000》
画面に舞う紙吹雪のエフェクト。
俺はそのまま畳の上に大の字に寝転がった。
「勝った……。俺は、勝ったんだ……!」
天井のシミを眺めながら、俺は拳を突き上げた。
目から熱いものが溢れてくる。
それは恐怖の涙か、歓喜の涙か。
感傷に浸っていると、スマホが再び震えた。
今度はアプリの通知じゃない。
『取引メッセージ』の着信だ。
そこには、落札者からの驚くべき提案が書かれていた。